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たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
第三部 ガリア
31/40

第六章 5 Crash!

こんばんは。碧海ラントです。

昨日は本当に申し訳ありませんでした。そして本日もこんな遅くの投稿になってしまったわけですが……。

それでは、本編をどうぞ!

   5

 足音はあっという間に音量を増し、家の前でひたと止まった。

「とうとう来たか……エイト、それにコジモ、リビングから出て、キッチンの下へ。たぶんもう一度別れることになると思うけど、二時間後に、駅前で待ち合わせよう」

 とうとう来たか、とは前々から予想してたみたいな発言だな。怪しい。

 ともあれ、それは後だ。どう考えても攻撃を受けるような気しかしない。これまでも大量に攻撃を受けてきたばかりだし、ここで防ぐ自信なんてない。

 俺とコジモはゲルヒルトさんの言う通り、キッチンへ向かった。キッチンは雑然としていて、いくつかの段ボールが床に無秩序に置いてある。食器類はそのままだ。元の世界のキッチンともよく似ている。

「必要になるかもしれません。持っていてください。連射可能なものです。使い方はわかりますか?」

 コジモさんは二丁の拳銃を取り出し、一つを手渡してくれた。

 銃の使い方は分かる、かな。アニメとかの見様見真似だが。

「ところで、キッチンの下って?」

「こっちですよ」

 そこはガス台(?)の下。元の世界で言うと元栓とかが付いている場所だ。

 コジモはその隙間に潜り込むようなことはせず、その代わり隙間に手を突っ込んで、手前の床板を上に向けて引っ張り上げた。

 ガキッ、という音がして長方形の床板が外れる。その下には金属でできているらしき床。

「この下、何枚かの金属板を突き破ると、下は古い下水道になっています。ここから脱出しますよ」

「そもそも脱出って……」

「この家の中に敵を招き入れ、その上で爆破します」

「…………」

 自爆作戦か。他に手はなかったのか?

「まあ、これが一番の作戦でしょう。ちなみにこの家の周囲は空き家だらけなので問題はありません」

 問題ありませんって、他の家壊した時点でアウトだろ。

 しかし、そういうことは関係ないとばかりに事態が動いている。

 組織の殺し合いとはこんなものなのだろうか。周囲の被害を気にせず、とにかく目的を達成すればそれでいいと。まあ「組織」とか「隠れ家」とか言われた時点で平和的な活動は期待してなかったけどさ。

 人殺しはしたくねえな、と。

 遠くの方からバァン! と鉄でできた風船が弾けるような音がした。ドアが破られたのだろう。ほぼ同時に大量の人間がなだれ込んでくる音が聞こえる。

「悪の帝国、連合の手先め! どこに隠れている!」

「リーダーの敵、果たさせろ!!」

「こそこそ隠れてないで出てこぉい!! ギッタギタにしてやる!!」

 家の奥の方にあるこのキッチンにまで声が聞こえてくる。

 どうやらゲルヒルトさんは敵のリーダーを殺していたらしい。

「ゲルヒルトは敵をおびき寄せて家の中に招き入れます。起爆直前に合図が来ますので、そのタイミングで下へ飛び降ります」

「でも、なんで今のうちじゃダメなんですか?」

「下にも敵がいるからですよ。下水道は知っている人は知っている逃げ道ですからね、相手も回り込んでいるはずです。実際、下水道に入るところが確認されています」

 なるほど。相手もその辺は読んでいて、家全体を包囲しにかかっているわけか。

「やっ、お前かぁああああああああ!! 敵を討たせろぉおおおおおおおおお!!」

「リーダーの、リーダーの敵をぉぉぉぉおおお!!」

 怒声が家中に響き渡る。床板を乱暴に叩きながら敵が家の中へ入ってくる。その中でヒュッと風を切る音が時折聞こえる。

「まんまと家の中におびき寄せられましたね」

「……ところでコジモさん」

「何でしょう?」

「あの、床から相手が家に乱入してくるって可能性はありませんかね?」

「もちろんその場合の対策も用意しています。といっても簡単、そのタイミングで下に降りるだけですがね」

 最後の「ね」に破砕音が重なった。

 破砕音の後に金属板が中央から爆散し、白色に近い火球がせり上がってくる。

 そして火球もシャボン玉のようにあっけなく弾け、溶けた金属が周囲に拡散。

「うひっ!」

 金属の破片、次いで溶けた金属と全てをよけきれたのは奇跡に近い。

「敵のお出ましのようですね」

 地下道にも融解した鉄は飛び散っていると思われるが、そんなものは気にしていないとばかりに穴から銃撃。カタカタカタカタ! と、異世界で聞くとは思わなかったサウンドとともに光の矢が次々飛んでくるが、狙いは定めていないらしい。

「脱出しますよ!」

「で、でも一体どうやって? 穴の縁は完璧にアツアツですよ?」

「飛び込みます。にしても、少し待った方がいいですね」

 カタカタカタカタ! と銃撃は続いているが――、

 ふと、銃撃が止んだ。

 実弾でもないのに?

「今です!」

 コジモさんの掛け声とともに俺たちは地面を蹴り、現実と非現実を区切るかのようにぽっかりと空いた穴へとダイブした。


 腕が穴の縁にあたらないよう留意しながら、重力に身を任せていると。

 足が何か柔らかいものに当たって止まった。

「ぶぐっ!」

 下でくぐもった男の声が聞こえ、再び落下が始まる。俺はどうやら追っ手の一人の顔面を蹴りつけてしまったようだ。

 少々強めの衝撃が足裏に走り、着地。周囲は地下道なのにうっすらと明かりがともっていて、前方にチンピラ風の男どもが五人ほど集まっているのが確認できた。

「行きますよ!」

「そうはさせるかぁ!」

 男の一人がそういった瞬間、彼の背後でくぐもった轟音が響く。

 パラパラと小石が落ちてくるのを前兆として、

 男の背後の天井が崩落した。

「えっ!?」

 素っ頓狂な声を上げる男たち。その背後には一瞬にして瓦礫の山が築き上がっていた。

 俺たちがいた家は細長い構造をしていた。ウナギの寝床とも言おうか。地下道はちょうど長い方向にのびていたので、男たちの背後がちょうど家の中心部にあたるというわけだ。地上の爆発によって地面までも崩壊し、地下道は塞がれたのだ。

「げっ、と、突入班は!?」

「知りませんよ。それでは、」

 コジモさんは真っ直ぐ銃を構える。

「安全に逃げさせてもらいますよ」

 

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