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たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
第三部 ガリア
30/40

第六章 4 New House

こんばんは。碧海ラントです。

今日「ぼくらのうた」っていう昔のアルバムを聞いていいな~と思っていて投稿が遅くなりました。すいません。

それでは、本編をどうぞ!

   4

「やあどうもどうも、久しぶり。さあとりあえず入った入った」

 ゲルヒルトさんがあっさり出迎えてくれた。

 罠じゃなかったのね。よかったよかった。

 大通りから一本奥に入ったそこには、「不良とギャングの裏世界ですが何か?」っていう感じの通りがあった。黒装束のエルフっぽい耳をした人間がその辺で歩いている。いわゆるダークエルフって奴だ。たぶん。

 その向こうには堂々とダガー引っ提げて歩いてるごつい兄ちゃんがいるし、反対側ではスネ夫を想起させるキツネ顔がジャバ・ザ・ハットを想起させる脂ぎった顔の男と内緒話をしていた。脂ぎった方は一目で高級品と分かるような服に肥満体を押し込んでいたから、たぶん貴族的な誰かだろう。

「あー、ジャヴァ・ド・アトーだー。まだ裏社会と手切ってなかったのか……」

 ゲルヒルトさん、ジャバ改めジャヴァ(ほぼ変わってない)を知っているようだ。

 少し歩いたところでゲルヒルトさんは立ち止まる。

「ほら、早く入って」

 ゲルヒルトさんが示すのは、横丁の一隅にあるボロい空き家だった。

「『組織』のブリュイージュの隠れ家。中はきれいにしてあるから」

 そう言ってゲルヒルトさんはボロそうな扉を開ける。何かきいぃぃぃぃぃいいいぃいぃって感じの効果音が付きそうだったが、意外に静かに開いた。

 それもそのはず。入るときに見たらドアの接続部分には何の問題もなかった。壊れかけているように見えるだけだ。

 ドアの内側には異様に新しいロックシステムが付いていて、ゲルヒルトさんの何かに反応して自動で鍵をかけた。

 ドアに触れてみると、手に無機的な冷たさが伝わってくる。恐らく木に似せてあるだけで何かの金属でできているんだろう。

「ああ、それカルボンで木材っぽく作ってあるだけね」

 な、なるほど。

 ちなみにカルボンはカルボン酸とは関係なく普通に炭素のことだ。

 入り口から見渡せる範囲は外見通り古臭く壊れかけのような印象を保っていたが、そのすぐ隣は清潔感のある白い壁の部屋だった。スタイリッシュな形状の機械類まである。

「ほら、こっち。とりあえずリビング来て」

 リビングには――何にもなかった!

 リビングというからにはテーブルや椅子など最低限の家具があって然るべきだが、見事に空。周囲に段ボール的な箱がいくつか並んでいるだけ……って、もしかして引っ越しでもするのか?

「まあ、そんなもんね。あ、椅子までしまっちゃったか……えいっ、とりあえずここ座って」

 ゲルヒルトさんは部屋の奥からクッションみたいな椅子(?)を取り出してきた。座ると尻が予想以上に沈み込む。

「他には誰かいないんですか?」

「ああ、いるよ。おーい、コジモ、あたしが言ってた『異世界の少年』が来てるわよ」

 返事はなかったが、廊下を向かってくる足音が聞こえる。テンポのいいきびきびとした足音、それでいて音は小さく、猫を思わせる。

 ドアが開き、長身の男が現れる。

「――こんにちは。一、二時間ぶりですね」

 コジモって。

 俺を取り調べた警察じゃねーか!

 慇懃な笑顔に礼装のような白い服。どんな女性もすれ違いざまに振り向いて十秒くらい静止しそうなくらいの美男子。

「え……コジモさん、って、警察の?」

「どうも、コジモ・ド・フーリエです。私の出した手紙、読んでくれましたか?」

「え? あの手紙ってコジモさんが出したんで?」

「はい。ちょっとしたお遊びですよ。書いてあることは全部本当です」

 なるほど? 『決起』終了直後に俺とゲルヒルトさんを逮捕し、生きたまま首都パリビヨーネの中央警察署へ護送するつもりだったと。

「でも、あれって何か内密の文書とかそんな感じのものじゃないんですか?」

「別にいいんですよ。私はもともと現政権に大人しく従っているつもりはありません」

「内部スパイみたいな?」

「ええ。まさにそんな感じです」

 ゲルヒルトさんが解説。

「現行のガリア共和国の政権、エクスカリバー政権は、連合から同盟に寝返ろうとしてるってこと。でも彼コジモは前政権で抜擢された連合派の人間だから、現政権に不満なわけ。それで中立を理想としながらも結局は連合側についている『組織』とつながった」

 なるほど。そういえば捕まった先でガリア共和国がウィリアム王国に関税をかけるみたいなニュース見たな。連合との対立のあらわれか。

「もともとウィリアム王国とガリアは犬猿の仲だったからねー、前政権で仲直りしたけど、式術大国として発展した王国と混乱続きで疲弊していたガリアだし。ウィリアム王国の勢力が流入して『このままじゃ王国に乗っ取られる』って危機感が強まるわけ」

「ま、そういうわけで私はゲルヒルトさんたち『組織』の仲間になったわけです。にしても、ゲルヒルトさん、本日の作戦は本当に決行するんですか?」

 それを言われたとたん、ゲルヒルトさんの顔に一筋の影が落とされたような気がした。

「……しょうがないよ」

 家の外から、集団の足音がかすかに響いてきた。

 

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