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たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
第三部 ガリア
28/40

第六章 2 The Fight in the Field of Vines

こんばんは。碧海ラントです。

また投稿が遅い時間帯に……すみません。

それでは、本編をどうぞ!

   2

 俺たちはブドウの蔓を必死にかき分けて進んだ。

 俺でさえ数えきれないほど足を滑らせたり顔に蔓が絡まったりして転んだのに、オルフィを背負ったままのモンフォールさんは大丈夫だろうか。と思い振り向くと、モンフォールさんは器用に蔦をよけつつスタスタとついてきていた。この器用さは天性というべきか。

 ひたすらブドウの間を縫って歩いているうちに、どれだけ時間がたったかも忘れてしまう。歩く→蔦を視認→よける→歩くという単純作業を延々と続けているからだ。

 長いことブドウ畑を歩いているが、今のところ攻撃はない。やはり自国民の畑に被害を与えるのは避けたいのだろうか。変な裏事情が絡んでいるのであれば、あとから農家に謝罪するときに弁明がきかない。……といっても適当な嘘を言えばいい話じゃないのか?

 不意にヘリの爆音がやんだ。

「おそらく着地したかと。こうなったら急ぎましょう。地上戦で決着を付けてくる算段です」

「分かりました」

 ということでペースアップ。

 蔓をかき分けて急ぐ。

「でもこの先に本当にブリュイージュがあるんですかね。かなり近づいてるはずですけど、まだ田舎じゃないですか」

「そもそもブリュイージュ自体が『田舎の中心』みたいなものです。さあ、早く」

 ざくざくと地面を踏みしめる音。

 ブドウの葉が擦れるかさかさとした音。

 俺の音とモンフォールの音は大体半拍子くらいの差が付いているので、ちょうどリズムを取っているように聞こえる。

 このリズムに雑音が混じれば、相手がブドウ畑をかき分けて近づいてきていることになるか。

 ブリュイージュまであと少し、あと少し切り抜ければゲルヒルトさんと合流できる。

 そうすれば……。

 どうなるんだ?

 ゲルヒルトさんと合流して、それから?

 ふたたび何かの事件に巻き込まれる?

 オルフィやモンフォールはどうなるんだろう。

 前方に、畑の北端が見えてきた。

「ストップ。ここから見える範囲で誰かいますか?」

 モンフォールが聞こえる最小限の声で言う。

 二メートル先に広がっているのは、畑と畑の間の細い道。俺の位置から見えるのは向かいのブドウ畑、赤い屋根の小屋、その脇の道と別の畑だ。そのどこにも人影はない。

「いいえ、いません」

「では、行きましょう」

 モンフォールはそう言うと――

 上着をブドウの木の間から放った。

「え?」

 瞬間、上着に風穴があく。

 射撃だ。

 射線は目の前に広がる道の、線路側から伸びている。

 そうか。この射線の先に相手がいるということは、不意打ちできるか?

 蔦を薙ぎ払い、走る。

 農家の方々本当にごめんなさい。

 その先には迷彩柄。こういう葉に囲まれた場所では実に効果的だ。

「うおあああああ!」

 迷彩服の男はさほどの重装備ではないようだ。不意打ちで武器を奪えば!

「たっ!」

 相手がやっとこちらを見る。顔は若い。新兵か?

 銃……ではないであろう術式器具を持った手を掴み、ひねる。前にネットでこういう方法を取り上げた記事があった。

「ぐごあっ!」

 相手が苦痛の悲鳴を上げ、銃を取り落とす。その銃は素早く俺が確保。

 まあ相手もプロだからこちらも無傷というわけには行けないだろう。

 相手が苦痛に悶えながらも足でカウンターを加えてきた。

「ぐごっ」

 男の急所にあたった……。

 これは痛い。マジで。美少女とのアレなイベントに参加できなくなったらどうするんだ!

「たっ!」

 向こうから響く声はモンフォールのもの。そちらも的確な格闘術で相手を抑え込んでいた。

「ま、まさか、し、シラノ大佐……」

 そんなことをつぶやきながら相手は崩れ落ちる。

 と、汗まみれの拳が俺の頬をかすった。俺もこっちの相手をしなければならないのだった。

 股間痛い。だけど頑張る。

 こちらには文明の利器があるのだ。素早く相手が撮り落とした銃を、相手の胸に向消えて構える。

「手を上げろ!」

 とりあえずそれっぽい台詞。

「ぐっ……」

 相手の動きが止まった……訳じゃないね。

 防弾チョッキでも着てたのかな。

「波っ!!」

 鋭い拳の一閃。かろうじてかわすがそこへ足の追撃。足の追撃をかわしたところでもう片方の拳。コンマ数秒の差が二つ重なっただけで拳に追いつかれた。

 いや、二つじゃなくて、三つか。

 ごりっ。


「ぐああああああ!」

 体が二メートルくらい飛んだ。地面にたたきつけられた背骨がギシギシ痛み、呼吸もできない。骨盤の背中側もひりひりする。

「エイトさん!」

 モンフォールが叫ぶが、すぐに別の追っ手がモンフォールに殴りかかり、そちらの対処に追われてしまった。

 頭を強く打ったせいか、近寄ってくる兵士の姿がゆらゆらとかすんで見える。その手に握られているのは……手錠?

 ここで捕まえるってことか。ここで。

 さて、ここで捕まっても俺の命は……問題ありありか。

 なら、ここで捕まるわけにはいかない。

 地面に横たわり、痛みで素早くは動けない状況の自分。

 周囲にはブドウの蔓。

 正面から兵士。

 少し離れたところにモンフォールさん。だが彼はほかの兵士の相手で動けない。

 さあ、どう動く?

 ということは、俺が動かねば何も始まらない。

 なら動くまで!


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