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たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
第三部 ガリア
26/40

第五章 6 Crash!

こんばんは。碧海ラントです。

今日はやや遅めの投稿になります。

それでは、本編をどうぞ!

   6

 お嬢様は車の屋根から上半身を出して言う。

「しょうがないわね。行くわよ!」

 そうして取り出したのは一枚のコイン……ではなく、元の世界のマイクにそっくりなものだった。コードなどはついていない。

 お嬢様がマイクのスイッチをスライドさせる。

超音波砲ウェーブガン、起動!」

 マイクからは特に何も放射されているようには見えない。しかし、その効果は火を見るより明らかだった。相手の乗っているくすんだ色のワゴン車(?)の表面には、爪で引っ掻いたかのようなのような傷が0.001秒単位で付けられていく。同時に起こるのは耳が裂けるかのような強烈な擦過音。そしてあっという間にボンネットはそぎ落とされ、その下から溶けかけた機械類が現れる。

 途端にすさまじい爆発が起きる。

 追っ手は地面に叩きつけられ、両脇のガードレールも吹き飛ばされる。車は炎上したまま暴走して脇の倉庫へぶち当たり、なぎ倒した。火と残骸と伸びている人たちを残して俺たちの車は走り去っていく。

「う、うご、一体何なんだ?」

「ウェーブガンよ。空気を物凄い速さで振動させて、摩擦で攻撃するアイテム」

「な、何でそんなもん持ってるんだ……?」

「自作よ」

「…………」

 ってあれか? 笑顔が素敵な動画配信サービスとかにいる、超兵器をしれっと自作しちゃう人たちとか、ああいうの?

「へ? 何それ。この端末は市販されてるやつだし、私は中の術式をくみ上げただけよ」

 こういうのが市販されてるってちょっと怖い。

 ともあれ危機は去ったようで、後は何とかブリュイージュまでたどり着けそうだ。

「さて、ここまでしておいて名乗らないっていうのもなんだから名前は告げておくわ。オルフィ・ロイヤルヒルよ。よろしく」

「あ、ああ。俺は佐藤瑛人だ。よろしくな」

 な。

 な。

 な。

 なななななななななななななななななななななななななななんと!!!

 車が破裂したではないか!!


「はあ!? これはない! 絶対あり得ない! これ以上の絶望展開とかひどすぎる!」

「ちょっ、わ、私の車どうしてくれんのよ!!!!」

 俺とオルフィの声に対して、返ってきたのは攻撃。周囲の砂地がえぐられ削られ熱で溶かされ、雨でも降ってぬかるんだかのようになっている。その上へさらに攻撃が降ってきて、まさしく豪雨の真っただ中のように錯覚してしまう。

 上空にはヘリのような影。攻撃ヘリコプターとか言ういかめしいごつごつした外見の奴だ。その下部から垂れ下がる二つの銃口から光の刃が雨あられと降って来ている。空が輝いているようにさえ見える。

 ヤバい死ぬ!

「と、とにかく退避だ!」

「ええい、邪魔くさいわね!」

 いや声のシンクロばっちりぃぃいいい!

「超音波砲、起動!」

 マイクのスイッチが入り、ガラスをひっかくようなひどい騒音をそこら中にまき散らす。

「さっさと帰れぇえええええ!!」

 ザザザザザザザザザザ!! という轟音とともにヘリの機体に傷がついていく。

 自身のダメージ率を確認するとヘリはすんなり攻撃をやめ、ゆっくりと後退していく。

「逃がすか! 出力32、形状は槍、起動!」

 激昂しているオルフィが、マイクを天に掲げる。

 まるで神の声をスピーカーで流そうとでもするかのように。

「おやめください」

 と、そのオルフィの手に別の手が当てられた。歳を経て多数のしわが刻まれた、それでいて剛健な手。もちろんモンフォールのものだ。

「機体のマークをよくご覧下さい。あれはガリア軍のものですぞ」

「そんな! ……え? が、ガリア軍が私たちに襲い掛かっているとでもいうの?」

 遠ざかっていく機体には、ちょうど元の世界のロシアのようなマークがついていた。

 ……ってフランスの色シャッフルか。

「何があったのかは分かりませぬが、そちらのサトウ氏に関係があるのかもしれません。それならば先ほど撃破した男たちとも関係があるのではないでしょうか」

 オルフィはマイクのスイッチを切り、体にかかった砂埃を払う。

 そして、まっすぐこちらに向き直る。

「あんた、何か国家レベルでいろんなことに関わってるみたいね。ガリア共和国からも直々に敵認定されてるんじゃない?」

 ばれたか!

 ここでついにヒッチハイク(?)も終了か。こうなるとまた別の手段でブリュイージュへ向かわなければならなくなる。しかも、大威力の攻撃手段を持つオルフィから逃げながらだ。これは相当難易度高いしひょっとしたら死ぬ危険性まである逃避行だ。

 ガリアの敵。

 オルフィの。

 ひょっとしたらクロード駅でテロ活動を行っていた集団も俺みたいなウィリアム王国系の集団なのかもしれない。


「まあでも、私たちも似たようなものだし、大丈夫、ブリュイージュまではきっちり送ってあげるから」


 何ですと?

 このままヒッチハイク的乗り合わせを続けても大丈夫なのか?

「ガリアの敵って言うと、同盟かウィリアム王国か、まあどっちでもいいけど私たちもよそ者だしね。ブリュイージュまで一緒に行ってあげる」

「い、いいのか?」

「何よ。これだけ見せても分からない? 他人からの追及の一つや二つねじ伏せられるくらいには私は強いわよ」

 オルフィは自信満々の様子で胸を張る。

「分かった。じゃあ、俺も遠慮せず送っていただこう。ありがとな」

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