第五章 4 Letter and Escape
こんばんは。碧海ラントです。
大変申し訳ありませんでした。水曜日に投稿するとか書いてたのに一日遅れてしまいました。本当に申し訳ありません。
弁明させていただくと、リアルが忙しかったのです。
それでは本編をどうぞ。
4
手紙?
しかもメッセージカードみたいなやつではなく、紙を丸めて紐でくくってある形だ。サイズはごく小さく、神社のみくじに近い。
拾って広げてみる。
「ガリア共和国政府より通達 『組織』臨時代表クロレラ・スナック及びその関係者と見られる少年をベルゲーニュ州クローネ県フランジェ中央駅にて確認。モンテディオ方面行き快速に乗車したと見られる。軍関係者通行証明書が確認されているため、現状の逮捕はできないが、『決起』終了直後に逮捕し、生存状態で首都パリビヨーネの中央警察署へ護送せよ」
クロレラスナックとはゲルヒルトさんのことだから、関係者らしき少年というのが俺のことで、俺たちはこれからパリビヨーネとかいうところまで連れて行かれるらしい。
なんてこった。また追われる身か。
ところで逮捕の罪状は? おそらく不法入国か何かだろう。ならさっき頑張って記入した入国審査書類は? 全部パーかよ。
しかし何が目的で俺たちを捕まえようとする? 俺たちは一応連合サイドに所属している味方だ。
まあその詮索はいいとして、俺はどうする? 大人しく捕まって助けを待つか? それとも逃亡して独自に行動を始めるか? 決断にはタイムリミットがあり、ここで待っていれば自ずと一番目を選択することになる。逃げるなら人の目がない今しかない。
ではそれぞれの方策によってどのようなことが起きうるのか考えてみよう。
大人しく捕まってそのまま何もしないとすれば、結局何も起こらずパリビヨーネまで連れていかれ、そこから先はよく分からない。パリビヨーネまで行った上で隙を見て逃亡するか?
……っと待て待て待て待て。
果たしてこの手紙は正しい情報源なのか?
ちゃんとした警察ならこんな重要な指令を床に放り出していくわけがない。そもそも指令の内容ももう少しカモフラージュがかけてあるんじゃないのか? シチュエーション的にも内容的にも俺を誘っている。罠だ。うん。
では罠を設置して何になる?
この罠を信じたら俺は何をしようとしたのか? ついさっき中断した思考の続きだが、俺は絶対的平和主義者ではないし、自分の身に危険が及ぶ可能性があれば必要なら武力も使って防御する。逮捕から連行という流れが分かればそこから抜け出そうとするだろう。
そしてこれ見よがしに窓が開けてある。ここから出ろ、ということなのか。
だが俺は従わない。他人の言いなりになって捕らわれるのは御免だ。
窓に背を向け、椅子に座る。
トイレに行く振りをして角を曲がり、窓からこちらが見えない位置まで来てから全力でDASH!!
目的はここから出ること、手段は窓かドアか、とにかくその類を見つける。
ここは役所だというがそれならお昼時に人が全くいないなんておかしい。ここは明らかに別種の施設か、あるいはそういった施設の管理区域みたいなものだ。
俺には何も情報が与えられていない。ここがどこなのか、さらにこの建物の見取り図も。
しかしそんなもんは力業でどうでもよくしてやる。
窓発見、とあっっっ!!
待ち伏せを覚悟はしていたが、特にそういった気配はない。向こうの方に警備員がいるだけで、そちらを何とかすればいい。
塀を乗り越えてさっさと逃走する。十分に役所から離れた時点でタイミングを見計らったかのように通話機に着信。
「もしもしー、聞こえてる?」
「ええ。大丈夫です」
「そっか。いまどこかい?」
「連れてかれた役所から大体百メートルくらいですね。そちらは?」
「こっちはブリュイージュっていうとこ。とりあえず列車でこっち来てもらえる? 行き方は路線図見て。駅で待ってるから!」
通話が途切れると、俺はまず地図を置いてそうな場所を探す。前に列車から降りたところからそんなに離れていないのは分かるが、雑然とした町並みの中ではやはり地図をもって確実に向かった方がいい。で、どこを探すか。
……探すまでもなかった。右側の怪しげな料理店の店先に観光客用のグルメマップ的なものが置いてある。たぶん無料。
料理店は埃っぽい木製の扉を完全に閉ざしてしまっていて、中でなにかをやっている気配もない。怖い。入ったら変な注文を出されまくった挙げ句取って食われそうな気がする。
近寄らないのが一番!!
頂戴した地図を確認する。駅からはそれほど離れてはいないようだから、まあすぐ着くだろう。焦らなくてもよさそうだ。ちなみにこの注文が多そうな料理店の名前は「山猫」だった。売りはハンバーグでなかなかに美味らしく、隠れ美食スポットとしてグルメな人間の間では有名なのだそうだ。
異様にごわごわした地図を無理矢理折り畳み、バッグに押し込む。
目的地はもうすぐだ!!
……そう簡単にはいかなかったんだよなあ。
路線図ーーこの地方の駅は全部のっているはずだーーにはブリュイージュなんて駅はどこにもない。どういうこった。
そしてひとつ問題が見つかると誘爆のように次の問題が見つかる。
金は? チケットはどうすんの?
あれ以来ゲルヒルトさんからの連絡は途絶えている。どうすんだよ。自分で働けとでも? あるいは犯罪的手段、スリで運賃を確保するとかそもそも無賃乗車するとか?
そんなのやだよ。俺は犯罪少年にはなりたくないのよぉぉおおおお!!
……と、ポケットから小さな紙切れが出てくる。チケットだと思ってたら。
よく見ると定期券だった。
何でこの二つを間違えたんだろうな。
とりあえずこれ使おう。ブリュイージュへの行き方はその辺のお客さんに尋ねよう。
「すいませーん、ブリュイージュってどうやっていきます?」
ベンチで休んでいた老紳士は親切に答えてくれた。
「ああ、三番ホームから快速に乗って、クロード駅でブリュイージュ鉄道という私鉄に乗り換えるんだよ。駅名はそのままブリュイージュ。そんなに時間はかからない」
ありがとうございます!!
ということでホームに入り、数分の間列車の到着を待つ。
この流れでいいのだろうか。俺は言いなりになるのは嫌いだと(心の中で)宣言したばかりにも関わらず、すでにゲルヒルトさんの言いなりになっているではないか。この矛盾はどうしたことか。しかしまた、ゲルヒルトさんの言う通りにしないと、見知らぬ地でどう動いていいかも分からず適当なところで馬鹿やって捕まるだろう。
現在の俺はゲルヒルトさん率いる(幹部って聞いたけど臨時代表だったのか)「組織」に頼らざるを得ない。生活の基盤を提供してくれているのも「組織」だし、文字を教えてくれたり意味不明な機械の使い方を教えられたのも「組織」でのことだ。
ここで出奔したところで何になる。
というか一番問題なのが金だよ金。金は人間に着ける首輪だというけどホントにそうなんだなー。
俺無一文だよ? どうしてくれんの。
というか正確には「組織」からの給料? の支払いはあったのだが、家が燃えてしまったので未だ手にしていない。
俺の異世界生活も相当に破綻してるなーとか考えていると列車が来たので乗る。
将来について考えるのはとりあえず落ち着く先が見えてからにしようか。
クロード駅。
この辺まで定期券は効力を発揮してくれた。定期というよりフリーパスみたいなものだったらしい。
で、私鉄の運賃どうする?
今度こそマジでスる他ないのか?
やだよースリなんて。てか結構技術いるんじゃね? 俺みたいなド素人がやったところで気付かれて捕まって終わりだろう。
通話機でゲルヒルトさんにかけてみるがいっこうに繋がる気配はなし。
私鉄の次の列車まであと十分。
鞄を探っても金はない。
フリーパスは国営鉄道限定。
誰かが落とした金でもないかと周囲の床を見回してみるが何もなし。
十分でどうやって金を手にいれる?
さあ、決めねば。
ま現実的にいって借りるのが一番手っ取り早いよねー。
とはいえ変なところで因縁をつけられて金をせびられるのは嫌だ。周囲を見回してよさそうな人を選んで声をかける。
まず声をかけたのは俺と同じくらいの女子。紅茶色のブレザーにチェック柄のスカート。髪は濃い茶色で、肩のあたりで切ってある。動作の節々に言いようもない丁寧さが感じられるところからすると学校帰りのお嬢様か。
「す、すいませーn」
「……何よ」
振り向いた顔は端麗。
「ちょっと運賃がないので金貸してもらえます? 絶対返すんで」
お嬢様はため息をつく。
「そんなの信用できるわけないでしょ。金絡みの因縁は作りたくないのよ。さあ帰った帰った」
「すいません、知り合いと大事な用事で待ち合わせしてるんでどうしても金が必要なんです。返すから!!」
無言。
「いちいちいちいちしつこいわね!! 新手のナンパ男!! 帰れっつってんだろクソガキ!! キモオタ!!」
「なななななななななんでオタクって分かった!?」
「ホントにそうだったのね!? きもっ近寄るな!!」
オタクキモッとか異世界にきてまで言われるなんて想像すらしなかった。
さっきの一言でHP消えた……。




