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たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
第二部 ウィリアム王国と嵐の前
20/40

第四章 5 Flying

こんばんは。碧海ラントです。

本日もちゃんと投稿できましたね。これからもこのサイクルを続けていきたいな……。

ちょっと前に5万字超えました。標準的な本一冊の(会社によって大分差があるけど)約半分。これからも頑張りたいと思います。

それでは、本編をどうぞ!

 再び瓦礫の山。

「ひどいな」

 鉄球でもぶつけたかのように家はグシャグシャに潰されていた。おまけにほとんどの瓦礫が、最低でも部分的に黒焦げになっているところからすると、火まで使われた様子だ。

 おまけに背後の山にまで火が燃え移ったらしく、夏が近付くにつれてみずみずしい緑色を増していた山の片面が黒く禿げていた。

「エイト、ちょっと村まで行って水と食料買ってきてくれないか?」

「へ?」

「腹が減っては戦はできぬ、って言うじゃん?」

 ゲルヒルトさんはポケットから財布を取り出すと、いくらかのお金を渡した。

 ちなみに紙幣だったぞ。


 さて、徒歩七分で村まで到着する。家や山はあんなにも黒焦げだったのに村までの道のりは驚くほど普通だった。

 こちらの村には城壁などはなく、なんとなく家がより集まった感じだ。なので衛兵とかはおらず、俺は門(これだけはちゃんと作ってある)をごく普通にくぐったのだが。

「すぱいだー!」

 へ? 俺の顔にクモでも付いてるか?

「てきへいさんだー!」

「きちくべーえー!」

「あくのていこくだー!」

「ばるばろいだー!」

「ヴぁんだるだー!」

「やっつけろー!」


「「やっつけろー!」」


 石の雨。

 村中の子供たちが寄ってたかって石を投げつけてくる。配慮というものがないのか両手で持てる範囲内の石なら何でも投げつけてくる。石と岩の中間くらいのやつが耳を掠める。

 いや、分別があっても「敵兵さん」には配慮なんてしないだろうな。

「あくまのてさきー!」

「あくのしょうにん!」

 しばらくすると罵詈雑言が漢字になった。

「憎き連合め! これでも食らえ!」

「悪の帝国のスパイが。思い知れ!」

「この蛮族! 蛮族は蛮族の汚い国に帰れ!」

「よくもワシらを騙したな! くたばれ悪魔!」

「人でなし! 地上から失せろ!」

 家々の窓が開き、大人たちが顔を出す。大人だけに植木鉢でも半ば発酵した牛乳でも腐った卵でも芽が出たジャガイモでも何でも投げつけてくる。

「ぶふぉっ! 何だこりゃ……って蛇!?」

「野良犬!?」

「ネズミ!?」

 もうなんでもありだ。

 とにかくこの調子だと食料を買うのは無理そうだ。早々に撤退するのが最善策だろう。

 腐乱した何かの肉を避けると、俺は素早く門から出て撤退した。


「……というわけです」

「そうか。たぶん吹き込んだのは襲撃者だ。あたしたちから物資を奪おうってことだな。それでも事実だから反論できない。ここはさっさと立ち去るしかない」

 ゲルヒルトさんは地面に置いていたバッグを肩にかけた。行くときには空だったからおそらく燃え残った貴重品でも詰め込んだのだろう。

「……ん?」

 不意にゲルヒルトさんの足が止まる。

「走れ!」

 キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインという飛行機の発進のような音が響く。

 地面が爆裂した。

 地獄から弾け飛んできたかのような炎の塊が地面を吹き飛ばす。地面が沸騰しているかのようだ。ワンテンポ遅れてやって来た爆風に巻き込まれ、俺たちの体は宙に舞った。

 元々瓦礫と化していた家の残骸はさらに粉々になった。そしてその粉々な破片に火が燃え移り、さらに細かく灰にしていく。粉塵が舞い上がってたまらなく目と喉が痛い。ついでに地面に叩き付けられた衝撃も体の芯に響く。

 視界は三百六十度粉塵に遮られている。

「ぐぉほ! 何が……」

 途端に背後から攻撃。

 手段は短刀。

 背中を捻って間一髪でかわす。

「こっちへ!」

 ゲルヒルトさんが俺を呼ぶ。声のする方へ走り出すが、粉塵で視界が悪い中、唐突にその奥から突き出た足につまずき、バランスが崩れた。未だ冷えきらない瓦礫に意図せずしてもろに顔を突っ込む。

「ぶごぅっ!」

 火傷はしていないがやはり痛い。

 粉塵の奥の朧気な影が素早く短刀を持ち直し、逆手で俺の心臓に突き立てようとする。

 瓦礫の上を無理矢理転がって回避。尖った瓦礫が痛いが気にしない。

 こんなところで死ぬわけにはいかないぜ。

「とあっ!」

 回避のついでに地面を蹴って直立、そのまま猛ダッシュ。

 背後からナイフが次々飛んでくる。一体何本のナイフを所持しているんだ?

 よほど狙いが正確なのか、回避しようとしても体のどこかには必ず当たるように撃ってきており、無理にかわそうとすると雑巾絞りのような強引な回転を強いられる。結果、バランスを崩して地面に倒れ込む羽目になってしまう

 再び地面との望まぬ接吻。

 飛来するナイフ。回避。逃走。

 前後左右あらゆる方向の粉塵から奇妙に黒光りするナイフの切っ先が突き出す。完全な回避など無理で、頬や太ももなど数ヵ所をナイフがかする。

 ここは攻撃者の姿が見えるよう粉塵の外へ出るべきか。

 方向転換。勘だけど。

 が、その勘は正しかったようで、何回か倒れながらも確実に粉塵が薄くなっていく。

 何度目かの転倒で、一気に視界がクリアになる。

 しかし、そこに映ったのは--

「げっ!?」

 ゴリラのような男が数人。地味ながら防御力高そうなチョッキに、腕にはライフル。

 ライフルの銃口から火が噴き出した瞬間、俺は右へ跳ぶ。

「何人いるんだ!?」

 これで軽機関銃とか登場したら人生終了だぞ?

 だが、さすがにそれは無いようで、相手はあくまでもライフルで襲ってくる。

 足の下では小石状の瓦礫がザクザクと音を立てている。先ほどの爆発でこんなところまで瓦礫が飛び散ったらしい。

 火球が連続して飛んで来る。地面を転がったりジャンプしたりしてかわす。

 不意に思い付いたことがあり、俺は再び粉塵の霧の中へ。

 すると、一瞬攻撃が止んだ。

 火球の飛来がなくなり、背後には静かに粉塵が漂っているだけだ。

 この安全な時間に、俺は地面を手探りであさる。この辺りはキッチン関係の瓦礫が多く飛び散っており、俺の目的のブツもちゃんと転がっていた。

 黒い箱。

 キッチンにあった発火装置だ。もちろん術式使用。

 ついでにひしゃげたフライパンか何かを拾い上げる。これで盾も装備できたわけだ。

 やがて、攻撃が再び開始する。今度は鉄の矢。

 先ほどのナイフと違い、鉄の矢が同時に複数本襲いかかってくる。おそらくライフルを持っていた相手が武器をボウガンにでも差し替えたんだろう。

 雨のようにとナイフが飛来してくるが、今の俺にはフライパンという盾があり、防御力がアップしている。フライパンでナイフを弾き飛ばしながらさらに奥へ奥へと移動していく。

 そろそろか、と俺は足で急ブレーキ、そのまま方向転換する。今度は粉塵の外へ。

 これまで相手が使ってきた武器はナイフ、ライフル、弓矢だ。しかしなぜ全てをライフルにしなかった?

 答えは簡単、使えないからだ。

 なぜ使えないのか、それは相手自身もダメージを受けてしまうから。

 そういえばライフルを使った時もともすれば狙いが地面に向いていた。俺の心臓ではなく、太もも辺りを狙う感じ。

 粉塵の外に出る。ちらりと目をやると、山際にゲルヒルトさんの影。俺は大きくうなずく。

 黒い箱の側面、スイッチを入れる。

 それをそのまま、全力投擲。

「ーー粉塵爆発って知ってるよな!」

 再び大爆発。


 

 ゆっくりはしていられない。

 ゲルヒルトさんのいる、山の禿げている箇所へ猛ダッシュする。

「怪我はありませんか?」

「あたしは大丈夫。エイトは?」

「無傷ですよ」

「そう……ごめんね。危険な目には会わせないって契約だったのに」

「もういいですよ、それは。それより早く立ち去りましょう」

「うん。あたしたちがいるのは家が焼けたときに山に燃え移ってできた禿げた場所だから、ここから山の裏側に回って隠れる」

 そして山中ランニング開始。

 普段立ち入ることはあまり無かったが、この山はかなり自然が豊かなようだ。残念ながら種類が分からないが、独特な高音の艶のある黒の鳥や、焼失した森林跡に早くも生え始めたばかりの小さな木などが目につく。

 そして、焼失域を抜け、林の中へ。

「これでひとまず地上からは見つかりにくくなったは」

 光線。

「ちょ、こんなとこまで待ち伏せてやがんの!?」

 だが、光線の出所は敵ではなかったようだ。すぐに光線は飛ばなくなり、茂みがさわさわ揺れて一人の男が現れる。その人間は……

「ゲオルクさん!?」

 なんてことがあるわけもなく。

 普通にごっついゴリラどもが現れた。

「降伏しろ! 降伏して、我が軍からの質問に答えるなら命の保証はしてやる!」

「ぐぐぐーん軍!?」

「あっやべぇマジでしくった」

 いやちょ言葉遣い!!

「ルクシア軍だな?」

「なぜ分かったってまたしくった」

 要するにルクシア軍が襲ってきているわけだ。

「相手してる暇はないよ!」

 そう言うとゲルヒルトさんはいきなり俺の手を引っ張りーー

「ほうっ」

 砲弾のように勢いよく空中へ飛び上がっていた。


 二度目のロープなしバンジージャンプ。

 ついさっきまで「大きいなー」と思っていた林の木々がテニスボールくらいにしか見えなくなっている。大男たちなど豆粒だ。

「ひ、飛行術式!?」

「いや、空に跳ね上がるだけのやつ。体の制御はしないよ」

 ってええ!? それじゃあこの高度から自由落下する羽目になるのか!? 嫌だよ、十代で死ぬなんて! 世間の流されやすい奴らにかわいそうーとか言われるような事件の当事者になるなんて!

 何か手はあるんだろ!?

「姿勢制御はしないよ。でも、空気抵抗だけなら」

 ゲルヒルトさんの背中からどでかいパラシュート……ではなくてモモンガについているような翼が広がった。

「しっかり抱きついて! ……べ、別に深い意味はな、無いから!」

 しかし、下の連中はすぐに発砲を始めた。奴らが持っていたのは外見は拳銃だが、中身はあくまでも光線銃だ。光線も遠くまで飛ぶとエネルギーが落ちるようだが、今の俺たちの高度はぎりぎり射程圏内らしい。何本かの光の柱が翼を削る。ちょっとヒヤッとして体勢を変えるが……。

 むにゅっと、柔らかいものに手が当たった。

「む、むやみに触るなっ! 狙いがはじゅれるじゃにゃいかっ!」

 胸大きいなー。

「そ、そんなにじーっと見るにゃ! お、おねーさん恥ずかしーよ!」

 そうは言いながらもゲルヒルトさんは地面に向かって発砲する。おまけに狙いまで正確で、大男の一人の拳銃を正確に弾き飛ばした。

「埒が明かない。ガリア共和国へ飛ぶ! そっちは連合国だ!」

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