第四章 3 Joining
こんばんは。碧海ラントです。
今回はちょっと文字数多めですね……っていうほどでもないか。
そして、すみません! まだこの部分が完全には書き上がっていませんので、明日この部分を更新して続きを掲載します。
それと、変更点としてウェーブコントローラーの階級が少将から准将に変わっています。前の部分も変更にしたがって更新しています。
いつも通り評価等よろしくおねがいします。
それでは、本編をどうぞ!
3
……。
…………。
………………。
「ってええっ!? ちょっ、できないって!?」
フィリーさんは短く頷く。
「何で!?」
「陸軍の幹部はこの作戦に否定的なんだにゃ。トップのクシュナー元帥は『組織』の存在自体が許せないらしいし、その派閥の部下たちも大体そんな感じの方向性。海軍航空部隊の支援っていうことで対空兵器除去には渋々協力してくれたけど、『組織』自体を救援するなんてことはしてくれないと思う。
ゲルヒルトにゃんを助けるなら、陸戦部隊が必要、でも陸戦部隊は協力してくれそうにない。そういうことだにゃ」
「か、海軍航空部隊は!? 動かせないんですか?」
「もちろん上空の敵部隊の排除ならやるよ。でもそれ以上は。海軍も陸軍との関係を悪化させたくはないだろうし」
手詰まりってことか。
どいつもこいつも必要なことしかやらない。それ以上は政治的理由でNGかよ。軍隊として職権の範疇を守るのは正しいんだろうが、ゲルヒルトさんやローザを助ける人間はどこにもいないのか。とにかく戦力が欲しい。ゲルヒルトさんやローザを救い出すための戦力だ。
すると、別の士官がこちらへ走ってくる。
「戦況とは直接関係ない報告ではありますが」
そう前置きして、士官はとんでもない報告をした。
「ロフトマイヤーの『組織』所有住居が爆破されたとの知らせが入っております」
ロフトマイヤー?
住居?
要するに、プリシラさんの家じゃないか!
「ロフトマイヤー? それってゲルヒルトにゃんが生活してるっていう……」
「その報告以外は小官は詳しくは存じ上げておりません。それでは失礼いたします」
あの家が爆破された。
プリシラさんやゲオルクさんは無事なのか? それにしてもこんなタイミングで襲撃してくるとは忌々しい。ゲルヒルトさんとローザは空爆を受けて行方不明。家は爆破され、プリシラさんとゲオルクさんの安否も分からない。問題で両手が塞がってしまった。
二つの問題がある。同時に両方を解決するのは俺の解決力からしても物理的距離からしても無理だ。優先順位を付けなければならない。
まずはゲルヒルトさんとローザの救出だ。そしてそのためには軍の協力が不可欠……そうなのか?
*
大陸の都市ロクシア。
その中心街の一角、三階建ての貸家には、誰も住んでいなかった。
その代わり、家の中では働きに来ている若い男たちがせっせと巨大な術式を組み上げていた。
*
俺一人で二人を助けにいくことは出来ないだろうか。戦闘機が帰投していく様子が見える。ヘリたちをあっという間に蹴散らしたのか。尋常ではなく早い。
こうなったなら、敵の空爆は既に止んだはずだ。俺一人であの山の麓まで行っても大丈夫じゃないのか?
「フィリーさん、なら俺一人で行ってきます。ゲルヒルトさんとローザを助けて、こっちへ連れてきます」
「えー? まだ危険だからちょっと待って欲しいんだけど……」
「そんなこと言ってられません。すぐ出ます」
「分かった。こちらも空から監視して何かあったらすぐ知らせる。それと」
フィリーさんは近くの廊下にあった倉庫へ入り、しばらくしてから両手に何かを持って戻ってくる。
「術式拳銃と通話機。何があるか分からないから持っていって。反動が少ない拳銃だからエイトでも扱えるはずだよ」
感謝感謝。
この恩は忘れないぜ。
「それじゃあ、生きて帰ってきてね。三人で」
瓦礫の山だった。
地上の小屋はもちろん、空爆によって地下階の天井まで破れたらしく、小屋の跡地は巨大なクレーターのようになっていた。山の麓に置かれた巨大な杯(和風)に、瓦礫が満たされている。そんな印象だった。
不気味なほどの静寂。瓦礫と合わさって一層不穏さを増している。雲からわずかに顔を出した太陽が作る影もどことなく慄然とさせるようなものを含んでいる。
静寂。
空爆部隊は撤退したようで影も形もない。しばらくは安全に二人の捜索ができるだろう。
結局あの空爆は何だったのだろうか。エディルネを潰そうとしたのか、ゲルヒルトさんたちを潰そうとしたのか。
ともあれ、第一目標は救助だ。
大きく息を吸い込みーー
「エイトです! 聞こえますか!?」
反響。
沈黙。
と、右足に軽い衝撃。
小石がスニーカーの上から静かに転がり、瓦礫とぶつかって、短い、乾いた音を発した。
「いるんですね!?」
再度小石が飛んでくる。山側の茂みの中からだった。
瓦礫を蹴り、まっすぐ茂みへ。
人の手が全く入っていない草木をかき分けると、確かにそこには人間がいた。
一人はゲルヒルトさんで間違いないが。
もう一人はーー
「みみみミイラぁ!?」
包帯で全身ぐっるぐる巻きになった人間大のモノだった。
「大丈夫。死んではないさ。今は治療中で安静にさせてる」
ゲルヒルトさんの言葉でようやくそれがローザだと分かった。
「……にしても包帯の巻き方悪くないっすか?」
明らかに巻き具合に差がある。あるところは分厚くきつく巻いてあるかと思えば、あるところではほどけて素肌が見えている。
「いや、ちょっと不器用なもんで……」
ゲルヒルトさんの苦笑いには、どこか陰影があるように見えた。
この人間がローザだとしたら、相当な重傷だろう。アジト跡地の惨状を見れば分かることだが、どんな量の瓦礫の雨に打たれたのか。想像を絶する。
「腕と足、肋骨の骨折は治したし、内蔵の損傷もほぼ治癒完了した。でもそれ以上は」
「分かりました。プリンストンの軍基地に行きましょう。軍病院も確かあったはずですし、そこなら治療できます」
*
大陸のとある村の、畑の中。
背の高いトウモロコシに隠れるようにして、地味な格好の男たちが黙々と他人の畑に機械を設置していた。
「目標地点A5、設置完了。待機に入ります」
*
「プリンストン基地って、さっき攻撃受けてなかった? 安全かどうかちょっと不安だけど……」
ゲルヒルトさんはあまり好い顔をしなかった。
「……でも、ローザを治療できるんなら。このまま野ざらしにして死なせるよりはましだ。プリンストン基地まで案内してくれない?」
*
大陸のとある港町。
商業関係の建物が所狭しと建ち並ぶ町並みの中、一軒だけ沈んだような色の建物があった。
「この家はなんなんです?」
船から降りたばかりの新規移住者が近所の老人に尋ねる。
「さあな。ワシも住人なんざ見たことねえ。空き家じゃねえのか?」
*
再びプリンストン。
ローザは到着次第速やかに軍病院へ搬送され、俺とゲルヒルトさんは港湾施設のテラスへ向かう。フィリーさんにそこで待ち合わせるよう通話機で言われたからだ。
「おおー!」
ゲルヒルトさんが嘆声を漏らす。
眼前には、大海原が広がっていた。
都合のいいことに太陽に雲がかかっておらず、微小な波に陽光がチラチラと反射している。港なので岸はコンクリートで固められているが、それが軍基地特有の雰囲気を醸し出している。
深呼吸。
風に乗って舞い上がる磯の香り。
サファイアブルーの海面。
その輝きに目が吸い寄せられる。
時間の感覚すらない。波がコンクリートに当たって砕けーー
「っとそれどころじゃない。早く情報をフィリーに伝えないと。あいつ遅いな」
ゲルヒルトさんが我に返って振り向く。
ちょうど、ばたんとドアが開き、フィリーさんが駆け込んできた。
「ご、ごめん、遅くなって。久しぶり、ゲルヒルトにゃん。で、情報ってのは?」
フィリーさんもかなり焦りモードだ。
「ああ。『エディルネ』の目的だ。奴らの目的はーー」
続く言葉は、俺にとっては漫画じみたエキセントリックなものだった。
「天使の降臨、だ。ここに奴らが用意してた文書がある」
……は?
一瞬遅れてここがファンタジー世界だということを思い出す。天使がいてもおかしくはない……のかな。
しかし天使の降臨だなんていくら異世界ファンタジーでも子供だましだろう。そんな話聞いたことがない。……否定する理由がそれしか見つからないのだが、仮にもとの世界で言い伝えられているような天使がいるとすれば、それは人間の世界を超越的に見つめる知性体が存在するということで、神がいると言っているのに等しい。そもそも天使って神と人間の仲介者だからな。
「天使? クロス教系の理論の『観察者との仲立ち(にゃかだち)』? でもあの理論は現代式術理論とは矛盾が発生するはずだにゃ。ほとんどクロス教しか取り込んでいない『エディルネ』にそんなことが?」
フィリーさんも真剣な顔で、渡された文書を真剣な顔で読んでいる。
なるほど、天使ってのは式術で説明される何からしい。
「奴ら、変な風に理論を完成させたらしい。この文書を見る限りとても完全体を降臨させられるとは思わないけど、それでも次元断層を無理矢理にこじ開けることで莫大なエネルギーが吹き荒れる。そうなる前に阻
その時、セカイが輝いた!!!