第四章 戦争の足音 1 Air Power
こんにちは。碧海ラントです。
今回はややグロいかもしれない表現がありますので、ご注意ください。残酷表現のタグがやっと意味を発揮した?
感想、評価等していただけると嬉しいです。
それでは、本編をどうぞ!
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BACK-ON。
「こっちに儀式の『コア』があるはず! いそ」
GO-ON。
これまでとは違う種類の爆音が響いたかと思うと、天井がいきなり崩落してきた。
「伏せろ!」
ゲルヒルトさんの声で、あたしは慌ててそばにあった机の下に潜り込む。が、それで身動きが取れなくなったところに敵側が襲いかかってきた。
「やbb!」
防護術式を展開させるが、間に合わない。敵の光線は術式が発動する一瞬前に術式の防護壁内に入る。机をひっくり返して立ち上がるが、
光線があたしのふくらはぎを貫通した。
皮膚の下の薄い(と信じたい)脂肪細胞の層が、一瞬のうちに貫かれる。その下の筋肉組織にも光線が到達し、圧倒的なエネルギーの前にタンパク質は敗北して焼ける。血管の壁が破壊され、進行方向を見失った血液が血管から溢れ出し、貫通穴を筋肉、皮膚と勢いよくつき進んでいく。ぬりっとした生暖かい感触とともに、
血液が噴き出した。
あ、貫通したんだ。
生まれて初めて、自分の体を異物が貫通した。
血、噴き出している。
これだけ出しても死なないって、あたしの体にはどれだけの血が入っていたんだ。たしか体重の十三分の一だったっけ。
逆に言えば、十三分の一しかない。
血は有限だ。
死。
「ギアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
自分の悲鳴が反響する。絶叫していても、意識が錯乱しているわけでもなく、こうしてコメントできるくらいには冷静だ。かといって絶叫をやめようという気は起こらない。自分が絶叫することに何らかの整合を見いだしているような気分。
不意に天井が割れた。
頭上から溢れ出して来るかのように瓦礫が迫る。
一際大きい瓦礫が頭に当たる。痛い。
ついでに変な音が体の中で反響した。
痛いのであって痛くはない。痛みを感じるがそれは「痛み」であって痛くはない。痛さが痛みに付随するはずだが意識が体から遊離していくので痛いとは思わず、ただ痛みという現象を頭で理解しているだけであり、痛いとも思わず痛みがいたくないと痛いわけもなく痛みが痛くないまま痛みを痛んでいないまま痛みを感じず痛みを考えたまま痛みが
*
プリンストン、王国軍プリンストン基地の管制塔、最上部。
といっても、何を管制する塔なのかは分からない。管制塔と言えば普通は飛行機のはずだが、このファンタジー世界に飛行機はない。となると空飛ぶ魔法使いか?
俺はフィリーさんからの緊急呼び出しを受けてこの塔にやって来た。
「一民間人の俺がこんなところにいていいのか?」
「それより大変。ゲルヒルトにゃんが攻撃を受けてる!」
?
攻撃を受けるのは、当然じゃないか? 敵を倒しに行ったんだからな。
「じゃなくて、ええと、ほら、空!」
管制塔の最上部というからには、俺のいる部屋も高いところにある。部屋全体がガラスで囲まれていて、空が見渡せるようになっている。
その空。
フィリーさんが指差した方向には。
「……ヘリコプター!?」
やべえよ何この世界。電車っぽいものはあったし自動車っぽいものもあったけどせめてシー・パワーの時代であってほしかったよ。ファンタジー世界でエア・パワーとかふざけんな。
「正しくは大型攻撃回転翼機Gp-23"ロンバーク"にゃ。ってこんにゃことはどうでもよくて!」
「そのロンバークとやらがゲルヒルトさんを攻撃しているってことか?」
「そ。ゲルヒルトにゃんの援護ならウィリアム王国の回転翼機を使うし、ボクも事前に知るはずなんだけど、あれはどうみても外国の機体じゃん!」
ロンバークとかいうヘリは五機一組で南から北へ、つまりティラミス村の辺りへ向かっている。山の麓、「エディルネ」のアジトがある位置に向かって高度を下げ、機体の腹部から爆弾を落としたり何かの術式で射撃を行ったりしている。
爆撃を終えた編隊はそのまま北へ進み、Uターンして南へ戻っていく。
「他国がゲルヒルトさんたちを援助したっていう可能性は?」
「このプロジェクトはあくまでも極秘。他国と協力するにゃんて言う話はにゃいから、仮に援助だとしても秘密が漏洩してることににゃる。たぶん、ゲルヒルトにゃんを潰しにきたか、他国が勝手に『エディルネ』を討伐しようとしているか、そんなとこかにゃ」
と、それまでの動きからは外れた編隊があった。その後ろに続く三、四編隊が幾何学的なまでに綺麗な隊列でルートから外れていく。
そもそもよく見ると、外れてきた編隊はヘリではなく、爆撃機とか戦闘機にしか見えなかった。
目標はこちら。プリンストン王国軍基地だ。
やがて基地の端、倉庫のあたりへ爆撃が始まった。火の柱が降ってくる位置は急速にこちらへ迫ってくる。
「こっちに来ます! 予測到達時間は残」
窓ガラスが爆弾で突き破られた。
「堆肥ぃ!」
いや、退避、か。
としょうもないことを考えている間に窓ガラスの欠片がこっちに向かって吹っ飛び、一瞬遅れて管制塔最上部が砕け散った。
「ひああああああああああ!」
いやマジかよあり得ねえよヤバすぎるだろ。
ロープなしバンジージャンプとか一生やりたくなかったああああああ!
「掴まって!」
こんな時でも冷静さを失わないフィリーさん格好いい!! 俺は言われた通りにフィリーさんの差し出す手を握る。
「まだ試験運用段階だけど、飛行術式、起動!」
フィリーさんが例の銃を取り出す。白っぽい金属製の銃で、引き金を引いても何も発射されない。
が。
確かに俺たちの落下スピードが遅くなったのだ。空気がゆっくりと体を撫でていくようになり、内臓をかき回すかのような重力の暴力がなくなる。安定の感覚。
「こ、これが飛行術式……」
と、ゆっくりしている暇はなかった。攻撃機の砲口がこちらに向き、火花が飛び散る。それを避けるためには蛇行せざるを得ず、体は横方向に激しく揺さぶられた。
「ひああ」
耳を火の玉が掠め、針で刺されたかのような鋭い痛みが走る。一瞬遅れて熱が感じられるようになり、耳をストーブに突っ込んだような感覚を味わった。
それでも順調に高度は下がり、軽い衝撃と共に足が地面に着いた。
地上の重力に合うよう体がバランス感覚を調節するので、わずかに反応が遅れる。
そこを爆撃機は見逃さなかった。
再び火花が散り、炎の玉が同時に十七個くらい飛んでくる。無理だ!
……。
…………。
「?」
何も起きない。
「エ、エックス、さん?」
エックス?
「すまない。出動が遅れた」
背後に若い男がいた。
すらりとした長身だが、筋肉はありそうだ。フィリーさんと同じ、白を基調とした軍服のような服だが、フィリーさんの服についているような金色の装飾が全く無い。
「って攻撃機は……」
「術式を破壊したのでしばらくは撃てないはずだ。避難するぞ」
エックスと呼ばれたその男は、紳士的な優雅さでフィリーさんの手を軽く引き、立ち上がらせる。
「三号棟だ!」
エックスの後ろに続いて俺たちは駆け出す。
しばらくすると、何をどうやったのか攻撃機の発火術式が回復したらしく、再び発砲と破壊が始まった。さらに爆弾なども投下して滑走路に穴をあけていく。
一直線に……ではなく蛇行して、俺たちは三号棟とやらへ走った。
轟音。
爆発。
地面が抉り取られ、火の柱が乱立する中を駆け抜けると、目と鼻の先に巨大な建物が見えてきた。
「防護術式、起動!」
三号棟入口の前には黒い箱がいくつも並べられていた。館内の兵士たちが号令と共に遠隔操作で術式を起動し、黒い箱から何か見えないオーラのようなものが拡散して入口全体を覆った。
何とか命を落とすことなく、三号棟にたどり着くことができた。安堵。
館内に入った途端、軍人の男がエックスに駆け寄ってきた。
「ウェーブコントローラー閣下、対空機関砲発動準備、及び第三、第四滑走路の戦闘機の出動準備、どちらも完了しております!」
「了解。対空機関砲での一斉掃射を三回、その後に戦闘機二個小隊で応戦せよ。深追いはするな。まずは基地周辺の制空権を確保する。それからのことは追って指示する」
軍人は見事なフォームの駆け足で基地の奥へ去っていった。
そして、エックスはこちらに向き直る。
右腕がぴんと伸び、手が額付近に動く。
完璧な挙手の敬礼と共に、エックスは名乗った。
「王国海軍准将エキスパート・ウェーブコントローラーです。よろしくお願いいたします」
ミリタリーな内容に入りました。自分は軍事知識に乏しいので、指摘など頂きたいです。