第三章 5 Attack
こんばんは、碧海ラントです。
ちゃんと土曜に投稿できてる……。
これからもこれくらいの時間帯に投稿したいです。次は水曜日になる……はずです。
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それでは、本編をどうぞ!
5
一瞬遅れて爆音が轟いた。
さらに遅れて衝撃波が俺たちや周囲の村人をなぎ払う。
体が宙に浮く。重力が方向を変えて体を揺さぶる不快感はすぐに消え、代わりに背中を激痛が貫いた。俺は通りの反対側の地面に叩きつけられていた。
ヤバいぞ。背骨とか折れてないだろうな。
足にゆっくりと力を入れてみる。筋肉はちゃんと反応し、足を曲げることができた。
周囲に舞う粉塵にむせながら、手を地面につけてゆっくり立ち上がる。
「だ、大丈夫ですか」
「何とか防御が間に合ったにゃ。でも周りはそうはいかないみたい」
そう返答するフィリーさんは杉の木のように直立していた。あの爆風に飛ばされなかったとは、さすが騎士。
爆風で何人かが道の反対側の建物のドアを突き破っていたし、そうでなくても俺たちのように地面に叩きつけられた人間も多い。何より、工具店には店主と二人ほどのスタッフがいたはずだ。
彼らはどうなったのか。
店に近寄る。まだ周囲の空気は熱いが、火傷するほどではない。
「危ない!」
フィリーさんの声が響いたかと思うと、いきなり突き飛ばされた。フィリーさんの以外と軽い体が覆い被さる。
一瞬前まで俺のいた空間を、炎の槍が突き抜けていた。
その一本では終わらない。
炎の槍が消えないうちに、もう一本、光の槍が真っ直ぐこちらへ向かって伸びてくる。とっさに床に倒れた姿勢のままなので、回避は不可能。
「やっ」
短い気合とともに、フィリーさんの手、そこに握られたモノから目に見えない何かが発射される。その途端、光の槍は消滅した。
光の微小な欠片がこぼれ落ち、消える。
「退避! みんな店から離れて!」
俺も地面を蹴って立ち上がる。その瞬間、フィリーさんの手にあったものがはっきりと見えた。
銃?
「ほら、エイトも急いで!」
慌てて立ち上がる。
村の中央、広場の辺りまで逃げてきた。
ここからでも通りに舞う粉塵がはっきりと見える。
「まずいね。急いで避難するしかにゃい」
周囲にはかなりの数の村人が、俺たちと同じように逃げてきていた。牧草地と山に挟まれたのどかな村で、こんな事件に遭遇したことなど無いのだろう。かなりパニックになっている。
「あそこ、村長も来てるみたいだ。この場で交渉するぞ」
俺とフィリーさんは、木の向こうで呆然と突っ立っている白い髭の村長のところに駆けつけた。
「そ、村長さん」
「……お、ああ、旅人さんか」
「この村の近くにテロ組織の根拠地があることは伝えましたよね。今回の事件は奴らの仕業です。すぐ避難を!」
「……ひ、避難?」
事件がよほどショックだったのか、反応が鈍い。もっとも、避難の許可さえ出してくれればいいのだが。
「奴らはエルフを目の敵にしています。この村を襲ったのもその動機でしょう。避難を!」
ゆっくりと、村長の顔に表情が宿った。
それは。
怒り。
やがて、村長が口を開く。
「黙りなさい。このテロリストめが」
は!?
「黙れ! お前らがテロリストを引き込んだんじゃろ! とっととこの村から出ていけ、テロリスト! さもなくばこちらも実力行使じゃ。『クシュナタイの惨劇』を繰り返してはいかん!」
クシュナタイの惨劇?
村長の言にはよほどの重みがあるのか、いかにも半信半疑の顔のまま、村人たちが俺たちを取り囲み始めた。日に焼けた肌の屈強そうな農民たちが睨んでくる。
「ま、待ってくださいにゃ! ボクはほら、この通り王国騎士にゃんですよ! テロリストの支援だなんて……」
「王国騎士だからこそじゃ! そもそも王国政府は我々エルフの居住を快く思っていない。それどころか前騎士団長は密かにテロリストどもを支援していたじゃろ! 二ヶ月前の事件をもう忘れたか! 騎士どもは『記憶にございません』と連発しているようだが、どうやら本気で健忘症にかかっているようじゃな!」
この世界にもあるんっすね、『記憶にございません』って……。
ともかく俺たちはテロリストではない。
そしてフィリーさんも、テロリストの支援をしていないとすぐに反論してくれるだろう。騎士らしい堂々とした態度で。
が。
フィリーさんは面食らったのか、何も言わなかった。
おいおいまさかマジでテロリスト!?
やがて、フィリーさんは完全に動転した様子で反駁する。
「……ち、違いますよ。ボクはその、そんな、テロなんか……」
「黙れ!」
「待ってくれ。本気で俺たちは違うんだ。むしろ止める側なんですよ。信じてくれ!」
「黙れ! エルフの村にやって来たメンシュの旅人、その村がテロリストに襲われる。偶然ではないじゃろ!」
そう、偶然ではない。
俺たちは、そのテロを止めるためにやって来た。だから、これは必然だ。
「俺たちはテロを止めに来た! 近くのテロリストたちの基地、あそこを潰すために!」
「黙れ! お前たちが物騒な武器を持ち込んでいたことは知っているんじゃ! その中にワイルダー式基地破壊爆弾が入っていたこともな!」
村長って軍オタ?
「さらに、昨日の午後、あの工具店へお前らが入ったことも分かっているんじゃぞ!」
俺たちの持ち物、行動などをここまで詳細に把握しているのはなぜなんだ?
「その時に例の爆弾を持っていったことも、帰りにその爆弾が無くなっていたこともな!」
そう、俺たちは昨日、そのワイルダー式を調整しにあの工具店に入ったのだ。不具合があるとかで一晩工具店に預けて修理してもらい、今日の朝にゲルヒルトさんが取りに行った。
「で、でも、俺たちは……」
「黙れ! とにかくこの村から出ていけ! さもなくば」
村長の背後にいた、豹のような印象の若い男がサーベルを構える。
「実力で排除する!」
これ以上押すことはできなかった。
*
あたしたちは、藪のなかに誘導して気絶させた敵の一人からパスを奪い、基地に侵入を果たしていた。
「ゲルヒルトさん、奴らが起こそうとしてることって何?」
「ここはもともとクロス教の騎士団が要塞を構えていたところだ。その騎士団は昔の王の手によって解散させられた。でも、要塞にかけられていた術式とかは残ってたんだな」
小声で話す。
「で、百年くらい前に『黄金時代』っていう結社がこの土地を手に入れた。この『黄金時代』はクロス教系の結社で、クロス教放棄の風潮を批判し、式術はクロス教とともに用いられなければ最大の効果を発揮しないって主張した。
その『黄金時代』の片割れが『エディルネ』だっていうわけさ」
正面から突撃してきた鉄砲玉の肩を、ゲルヒルトさんがボウガンで撃ち抜く。基地のセキュリティのせいで、術式は使えない。
「で、奴らの目的は?」
ゲルヒルトさんは、さらっと、昼食のメニューでも言っているかのように答えた。
「『天使』の降臨」
…………。
…………。
天使!?
「て、天使? 天使ってあの?」
クロス教の他、同系列の諸宗教に見られる、人間と神の仲介者となる存在。
でも、そもそも神なんているのかも分からないし、従ってその仲介者とかいう天使もいるわけない。
「そう、天使」
「そんなもんあんの!?」
「いんの、だよ。あたしも正直いるのか分からない。でも、そんなこととは関係なく、『エディルネ』は儀式を進めようとするし、そのために様々な人、ものが犠牲になる。あたしたちはそれを防ぐのさ」
そう言ってから、ゲルヒルトさんは表情を切り替える。
「そろそろハッキングは完了したかな。それじゃあ、『飼い主に噛みつく犬』を発動しようか」
術式というのは、通常、複数種類を組み合わせて作動させる。
このアジトに仕掛けられた防御術式は、大きく分けて「パスを持たない人間を入れない術式」、「攻撃術式を破壊する術式」、「術式消去を防止する術式」、「術式を自動修復する術式」で構成されている。
実際にはこれらの他にも様々な役目の術式があるし、さらにこれらの役割を補強するための小さな術式が大量にある。さらに、術式自動修復術式は五つが仕掛けられており、一つ二つが損傷しても他のものが修復するようにできている。
ゲルヒルトさんは自動修復術式に細工を施し、間違った方式で術式を修復するようにしたのだ。
「ていっ」
小さな掛け声一つで、全てが終了した。
「さほど術式構築の腕はよくないみたいだね。それじゃあ、いきますか」