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たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
第二部 ウィリアム王国と嵐の前
14/40

第三章 4 Mission

こんばんは。碧海ラントです。

木曜日に投稿しといてなんですが、そろそろ投稿日を安定させなければなりませんね……。ということで水曜・土曜の組み合わせなんかが候補です。

バーチャル渋谷訪問してみました。細かいとこまでデザインされてて良かったんですが、keep outになってる歩道沿いの店に行けないのが残念ですね。

それでは、本編をどうぞ!

   4

「ゲオルクさん、逃げてください!」

「いや、プリシラが行ってくれ。僕なら耐えきれるかもしれない。だから、逃げろ!」

   *

 ティラミス村から歩いて十分。山の麓にあたる場所で、辺りはくすんだ色の草木に覆われている。そんなクロス教過激派テロ組織「エディルネ」の極秘施設とやらが見えてきた。

 その「エディルネ」はどうやら二週間前に俺を襲撃した奴らの雇い主に当たるとかいう話だ。自分を襲撃した相手であり、憎むべき相手……なのだろうが、なぜか相手を憎む気にはなれない。俺はやられたらやり返す精神をさほど熱心の信奉者しているわけではない。復讐のために戦うと言われても、あまり闘志は湧かなかった。

 俺は物資輸送係、要するに荷物持ちだ。通話機や術式銃、爆弾、水などで、肩に提げた鞄は容量を目一杯使用されている。

 ゲルヒルトさんは、周囲に術式が張られていないか確認してから、俺の鞄からたすきのように胴体に巻くポーチを取り出した。

「本当にあれ? 民家にしか見えないが……」

「まあね。中には賢者風の人間がいて、旅人に布教する役割を担ってる。でも、地下は大規模な要塞になってて、いろんな武器が入ってるし、大量の人員がいる」

「で、そのクロス教って何なんだ?」

「昔この辺で広まった宗教だよ。昔は各国の王様も信仰してて、世界第二位の信者数を誇ってたね。だんだん廃れてるんだけど、東の方にはまだ信者が大勢いるし、西にも奴らみたいな狂信者がいる」

 ゲルヒルトさんは滔々と、立て板に水を流すように答えた。

「じゃ、そろそろ任務開始と行こうか。あたしは旅人を装って中に入る。ローザは地下階入り口から侵入。エイトはここで周囲を見張って、相手の援軍が来たりしたらすぐに知らせて。通話機は持ってるよね?」

 俺は黙って手に持っている金属板を握りしめた。微細な溝で術式が刻み込まれていて、表面に取り付けられた円盤を回すことで通話する。ゲルヒルトさんによると、軍用の、通話相手が限られる代わりに盗聴されにくい製品らしい。

「じゃ、また」

 そう言って、二人はそれぞれ別の方向に歩いていった。


 任務開始から三分。周囲に何ら異常無し。

 ふと、茂みの中から微かに葉の擦れる音が聞こえた。いや、それだけなら常時聞こえているが、風の流れによる自然な音ではなく、周期性を無視したがさごそという音だ。

 誰かが接近している?

 その正体はすぐに分かった。ローザだ。そして、その表情からして緊急事態であること間違い無し。

「駄目! ゲルヒルトさんが捕まった!」

 とその直後に話題の中心が茂みをかき分けて現れた。

「大丈夫か? ローザ、今すぐ戻るぞ」

「え? そ、そんな」

「まずいことになった。相手は今日の正午にことを起こす気だ。その前に止めなくちゃならない」

「え? 正午って、あと一時間じゃないですか! そもそも『こと』って」

「急ぐぞ!」

「あ、はい!」

 ローザは返事をすると、俺のバッグの中からからだに巻き付けるタイプのポーチを引き抜く。

 このまま行かせるのか?

 俺は色々と世話を焼いてもらいながら、その借りを全く返していないような気がする。恩にこだわるほど律儀な性格ではないが、このままローザとゲルヒルトさんを行かせるのはどうだろう。

「ま、待てよ。俺も……」

「エイトは村に戻って。奴ら、村人を襲う危険性もあるから、その前に村人の避難を! 場所はプリンストン!」

 一瞬反駁しそうになったが、すぐに了解する。

 この二週間で仕入れた知識によれば、「エディルネ」はメンシュ至上主義を掲げているらしい。エルフやオーガ、ドワーフなどはヒトより劣った種族であるという主張だ。俺を襲撃したのは異世界人はメンシュに非ずという判断によるらしい。

 特に「エディルネ」は、最近になって増えてきたエルフ移民を毛嫌いしている。

 だから、エルフの村であるティアラにも襲撃が来る可能性はある。ティアラのエルフは、本当はもとからウィリアム王国に住んでいたエルフで、移民とはまた違うのだが。

 俺は一つ頷いて、すぐに走り出した。


 ティアラ村には幸いまだ相手は来ていないようだ。

 村の通りは相変わらず何人かの村人がいるだけで、閑散としていた。これが大都市ならまず何かあったこと間違いなしなのだが、ティアラはごく小さな村だ。

 ゲルヒルトさんたちの映像が一瞬頭をよぎる。血、焦燥、悲鳴ーー慌てて不吉な映像を脳の奥に押し込む。いまは、ティアラの村人たちを守ることを考えねばならない。

 村人を避難させる。口に出すと単純だが、実際は苦労を伴う。どうやって村人を説得するのか、避難先のプリンストンとはどこなのか。

「にゃはーん☆」

 おっ、「超絶猫騎士」フィリアたん!

 じゃないじゃない。

 目の前にいたのは、一言で表すと猫耳少女だった。いたずらっぽい顔で、それこそ猫のように俺の顔を覗き込んでいる。

 至近距離で。

 だいたい五センチくらいの間隔で。

「う、うあー! だ、誰だ!?」

「ご覧の通り、ボクはケット・シーの王国騎士だよ! 名前はフィリー・ウィルストー。君がエイトくんかー。よろしく☆」

 おおー。どっからどこまでフィリアたんそっくりだ。

 じゃなくて。

 何でこいつは俺のことを知っているんだ? 外見は超絶可愛いが、怪しさはMAXだ。

「ああー、ボクはゲルヒルト・フィドルさんの後輩だった人だよ。ついでにウィリアム王国の騎士! 王国について聞きたいなら何でもどうぞ! あ、でも機密関係はやめてね」

 謎は解けた、ような解けていないような。

 この猫耳騎士はゲルヒルトさんの後輩を自称しているが、それが正しいのかどうかは確証が持てない。この世界はあくまでもシビアな、現実だ。ここまでご都合主義な展開はまず罠だと考えていいのではないか。

 よく見ると、ポーズをとった騎士の手には、紋章のようなものが描かれた手帳が握られている。騎士の証明書か何かか。それが本物だという確証はないが。

「ふーん、ゲルヒルトにゃんはエディルネを潰しに行ってるはずだから、キミはさしずめ村に戻って村人を避難させようとしてるってとこか。そんな状況になってるってことは、ゲルヒルトにゃんはあんまりうまくいってにゃいのかな?」

 こ、こいつ、全部知ってる!

「どこでそんな話聞いたんです……?」

「ゲルヒルトにゃんが任務でここに来てるって話は聞いたから、そっから考えたにゃん。勘には自信あるからね」

「え、ええ、そうです」

 こうなったらこの騎士を信用しよう。プリンストンなる土地の位置を聞いて、ついでに騎士の身分を利用して村人たちを避難させるのを手伝ってもらう。

 だが、やはり相応の安全策を用意しなければならない。

 エディルネかどうかは分からないが、もしこの騎士が「敵」だったらどうするのか。プリンストンという行き先を仲間に告げ、プリンストンで村人たちを襲う、とか。あるいは、プリンストンだと偽って別の土地に誘導するとか。

「そうだ、地図地図」

 フィリーは回りを見渡して、店の横に地図の看板が立っているのに気付いた。

 看板は、見たところ昨日来たときと変わっていない。昨日は村をぶらぶらするということでここにもやってきたが、同じところに傷があり、同じところが鳥の糞で汚れていた。

 その中に、小さくプリンストンという文字が彫り込んであった。

 だが、これも敵の大仰な仕掛けかもしれない。敵の行動範囲は未知数、何がどうなっているか分かったものではない。

「もしかして村人をプリンストンに避難させろとか」

「なんでそこまで!!」

「ゲルヒルトにゃんの思い出の街だからだよ。軍の基地とかがあって治安もしっかりしてるし、まあ順当なチョイスだにゃ。ついでにボクもプリンストンから来たんだにゃ」

「思い出の、街……?」

「おおっとぉー。こっから先は乙女の過去というやつだにゃ。そう簡単には説明できにゃいよー。でもー、どうしてもってんならー……」

「どうしても!」

 ゲルヒルトさんの秘密が知りたいのではなくいやそれも知りたいのだがこいつが本当にゲルヒルトさんの後輩だったのかどうかだ。

「簡単に言っちゃうと、はじめての彼氏とデートして夕方には振られたんだよ。そのデート先がプリンストンって訳だにゃ」

 ふんふん、なあるほど。

 とにかく、プリンストンへ行くということまで知られてしまっているのなら、もういっそ信用してもいいんではないだろうか。

「じゃ、じゃあ、フィリーさん、村のみんなを避難させるのを手伝ってくれますか」

「いいよー、っていうかそのために来たんだにゃ」

 フィリーさんは快諾してくれる。

 ちょうどこの村には広場があり、会館のような建築物もあり、長老もいる。広場に村人たちを集め、長老と交渉し、避難を誘導しよう。地図を見たから、プリンストンへの道のりは頭に入っている。中央通りから東にそれた枝道がそのまま太い道路に繋がっているので、その道を東へ東へと進めばいい。途中に峠があるが、さほどの高さではない。

「じゃあ早速、村のみんなを広場に集めましょう」

「おっけー」

 そう言ったフィリーさんの背後で。

 小さな工具店が消滅した。

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