表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たぶん魔法のある異世界戦記  作者: 碧海ラント
第二部 ウィリアム王国と嵐の前
13/40

第三章 3 Mission and Pain

こんばんは。碧海ラントです。

近々、と言っても何週間か置くとは思いますが、もう一つの作品「ラグナロクの行動計画」を一旦撤去しようかなと思います。読みたかった方には申し訳ないのですが。

今から読み返すとこんな拙い文章よく掲載したなーと思ったりします。ですから、改善して! 生まれ変わらせて! 時期は未定ですが再掲載しようと思います!

ところで、今回の話は少し重いかもしれません。あらかじめいっておきます。

それでは、本編をどうぞ!

   3

 ウィリアム王国北部、ティラミス村。

 ラッドから、北部地方の中心都市エミリーズクロスへ馬を使わないタイプの高速車両(もはや電車だよね)で、そこから通常の馬車に乗り換えて北のプリミーへ行く。プリミーから東に歩いて行き、この村に到着したのが昨日、五月二十九日。

 ここティラミスはエルフの村だ。例えば昨日、村の入口で俺たちが出くわした幼児の耳は尖っていたし、その後に少しだけ話した村長も、俺が今寝ている宿のバースという主人も尖った耳を持っていた。

「やっぱこれがファンタジーだよな……」

 俺は始めて本物のエルフを見た感動を思い起こしながら、ゆっくりとベッドから起き上がる。

 顔を洗い、パジャマを着替えるといくらか思考が安定してきた。

 そういや俺が着ている服も、こっちに来てから買ったものだ。世界観を損なわない程度に普通な服で、紺色のズボンに長袖の深緑のシャツとしか言いようがない気がする。靴は来たときのまま、古ぼけたスニーカーだ。

 マントとかブーツとかのファンタジーっぽい装飾があってもいい気がするんだが。ただ、別にマントやブーツを着用したからといって戦闘するわけでもなく、そんならシンプルな服の方が動きやすくていいと言われれば返しようもない。

 着替えを終え、一階の食卓へ向かう。時間には余裕があるが、部屋にいてもすることがない。

 待て、俺のこの暇は何から来ているんだ?

 まず、もとの世界でこういう状況になったら、俺は何をするのか。

 まあ、スマホ見るだろうな。この世界に来るときになんでスマホを持ってこなかったんだと今更ながらに後悔の念が神経を這いずるが、たまたま家に置いてきたとしか言えない。そんなときに転生、いや転移するとは相当についてないなー。

 と思考しつつもネット環境がないとプレイしているゲームのほとんどが使えないことを思い出す。三十分あればアニメも見られるが、同様に視聴システムがない。

 そうなると、適当にオフラインゲーやってあとはマンガや小説だな。そちらはこの世界にもあるだろうし、文字も二週間でかなり習得できた。ただ、まだ一冊も買っていないので今すぐというわけにはいかない。

 他の皆はどうだろう。小説でも読んでいるのか。しかし、荷造りの時に見たところ、小説はあまり詰め込んでいなかったように思える。

 なにか他に娯楽があるのか?

 今のところは判断材料が無い。娯楽がないだけに早くに皆が集まっている可能性を考えて、精々早く行くことしか俺にはできない。

 玉ねぎを一層ごとに剥いていくような思考を打ちきり、さっさと部屋を出た。


 予想に反して、食卓にはローザしかいなかった。

 俺も隣に座ったが、ローザはおざなりな挨拶を寄越してきただけで、それっきり押し黙る。

「おい、どうしたんだ? えらい顔色が悪いじゃないか」

 ローザはすぐには答えなかった。下を向いたまま手元のペンを玩ぶ。

 やがて、ため息をついてペンをテーブルに放り投げた。顔を上げてこちらを見る。

 百日連続で夜中まで残業したかのような目だった。

「これは実戦よ。憂鬱にならない方がおかしいわ」

 実戦、か。

「あんたは戦闘参加しないことになってるけどーー」

 ローザは再びうつむいた。


「人が、死ぬのよ。目の前で」


 俺は、瞬時に背筋が凍るのを感じた。

 俺はなんて馬鹿なんだ。ミリタリーものの基本の一つ、抜かしてはならないもの。なぜ気付かなかった。

 おそらく、人間が積み上げてきたものの根底にあるもの。生物として最も基本的な恐怖であり、それゆえに他人に対してそれをもたらすことは最も根源的な罪である。

 死。

 異世界転移、という語に惑わされたか。ここはリスポーンのある世界でも何でもない。人が生まれ、死ぬ。全く現実世界と違わないのだ。

「しかも、病気や事故、老衰で死んでいくんじゃない。死をもたらすのは紛れもなくあたしたちなのよ」

「……『倒してこい』って、全員殺す、のか?」

「もちろん全員じゃないわ。ある程度は、事実を詳しく問い詰めるために捕虜にする。というか、出来るならみんな死なせたくない。

 でも、たぶんそれは無理。少なくとも五人は死ぬ。相手のボスは、殺さなかったにしても最終的に王国が殺す。そしてボスを捕らえるためには戦うことになるし、戦えば死者は出る」

「ま、待てよ。一人ずつ捕虜にしていくのは無理なのか?」

「十人とか、それくらいだったら全員を戦闘不能にするだけで済むかもね。でも、相手はそんな生易しい数じゃないし、何より宗教が絡んでる。狂信者は、一番やりにくい相手よ。向こうから死にに来るんだから」

 かける言葉もなかった。


 それから数分して、ゲルヒルトさんがやって来た。この数分は俺の大して長くもない人生の中でも最大級に苦しかった。

 なんせ、ボキャブラリーの貧弱な俺にはかける言葉なんざ思いつかなかったからな。

 ゲルヒルトさんは、意図してなのか慣れているのか、ごく普通の日のように笑う。

「おはよう。もう朝食来るよ」

 その言葉の通り、ゲルヒルトさんの後ろから食事を持ったバース夫人がやって来る。三人全員が着席したところで、いただきますを言う。ローザだけが俯いたまま、手も合わせなかった。

 テーブルに並べられた食事からいい香りが漂っているにも関わらず、空気は重い。この状況では湧くはずの食欲も霧消してしまう。ゲルヒルトさんもそれに気付いて表情を変えた。

「……ローザ」

 普段の様子からは想像もできないような真面目な顔でゲルヒルトさんは口を開いた。

「今、戦闘から逃げ出して、これからの人生をどぶの中で過ごすのか、戦闘に耐えて自由を勝ち取るのか、選ぶのは自由だよ」

 ゲルヒルトさんはテーブルの水を口にした。

「戦闘をしたくないのは分かる。あたしも、この事態を防ぐために会議では最大限の努力をした。でも、こうして本番の日は来てしまった。……いや、いまのは言い訳だったかもしれない。戦闘しないという目的を果たすのなら、いくらでも取れる手立てはあったのにね。

 でも、ローザ。今回の戦闘から逃げれば、ローザはもとの罪人だ。その先には、暗い未来と、死しか待っていない」

 テーブルに手を置いていた俺は、微妙な振動を感じ取った。

 ローザが震えていた。

「でも、でも! あたしが死んで、五人が生きるなら、それでも! 狂信者だってのも分かる。テロでいっぱい人を殺した五人だってのも分かる。でも!」

 ローザの目が潤んでいる。

 感動の展開、という場面のはずだが正直意味がよく分からない箇所が多々ある。それぞれの過去というやつか?

 ローザは、戦闘に参加しないと死ぬ? そうなのか?

「……分かる。全部分かる。そうなるのも自然だよ。でも、でも……」

 ゲルヒルトさんはゆっくりと顔を上げた。

「あたしは、あんたが死ぬのが嫌なんだよ! この日常を壊したくない。あんたがいて、プリシラがいて、ゲオルクがいて、エイトがいて、そんな日常が続いてほしいんだ!

 だから、あたしは両方をとる。

 死者を出さず、任務も終える。そんな理想を現実にしようよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ