第二章 5 Life in the Another World - 2
投稿がまたも遅れてしまいすみません。
碧海ラントです。
今回も日常の話になっています。
次回からは章を変えて、ストーリーを動かしていきたいと思います。
感想、評価等いただけると嬉しいです。
それでは、本編をどうぞ!
5
昼食が終わり、ローザは買い物のために外出することとなった。ゲオルクさんも同時に家を出て自分の家に帰る。
「…………」
「何じっと見てるんだ」
「いいわ。あんたも買い物について来て!」
なぜ俺を?
「今日はちょっと重い買い物するから、荷物持ちがいてくれた方がいいのよ。さ、支度始めなさいよ!」
そういうわけで俺はローザに手を引っ張られて家を出ることになった。
「おそーい!! ついて来なさいよ荷物持ち!」
「いくらなんでも速すぎだろ! お前買い物でこんな急ぐ必要ねえじゃねえか!」
「うっさい! 黙ってついて来るの!」
走りまくること七分、俺たちは町にたどり着いた。ごく小規模な町で、田舎の村に店が集まっただけのように見える。
「間に合った! はいこれ、買い物のリスト。八百屋とか肉屋とか適当に探して買っといて!」
いや買い物人任せかよ!
ローザが爆走していった先を見ると、小さな舞台のようなものが組み上がっている。商店街のイベントみたいなものか?
まあ俺は買い物をしていればいいわけだ。近くの店の壁にかかっていた地図を見て、店が密集しているらしき場所へ向かう。文字は分からなかったが記号で分かった。
商店街(?)は、他のどこよりも舗装された石畳の道の両側にあった。八百屋や道具屋など生活必需品を売る店から、店頭に宝石のようなものを並べている店、金を量っている店などまで揃っている。どの店も古風なデザインで、どこか懐かしい。
「ザ・中世って感じだな」
八百屋、肉屋などが何軒もあってどれにしようか迷っていたが、
「一つずつ買う必要はねえみたいだな」
目の前には、野菜とか果物とか惣菜とか飲み物とか色々置いてそうな店があった。
野菜、肉、香辛料、惣菜、パンなどが揃った総合店があったおかげで、さほど時間をかけずに買い物を済ませることができた。そして俺は、ローザが盛んに大声をあげている広場へ戻る。
「何やってんだ、あいつ?」
どうやら一対一のゲームのようなものらしい。カードや缶といったものがテーブルの上に乗っている。そしてローザが相手しているのは……。
「小さい子じゃねえか……って何あいつむきになってやがる!」
ローザはいちいち大声をあげたりテーブルを叩いたりしていたものの、どうやら負けたらしくこっちに戻ってきた。
肩を怒らせて、な。
「可愛げないガキね! 何よあんなずるい手使って! チートよチート! もっかい最初からやり直したいわ!!」
「いやでも結局負けてただろ」
「うっさいうっさい!」
小さい子相手にそんな腹立てるのも大人げないと思うがな。
と、俺の袖が不意に引かれる。
見れば、先ほどローザと対戦していた女の子だ。ローザの怒りをものともしないとは確かに胆の据わった奴かもしれない。
「あ! あんた!」
が、ローザの怒声を遮って、女の子が前に進み出た。
「おねーちゃん、あげる!」
そう言うと、女の子は笑顔で小さな鞄を差し出した。ポーチといった方がいいかな。いずれにせよ子供がつけていても大して違和感のないような品だ。安物であることが一目でわかる。
「え……いいの?」
素直だな。
「うん! もともとあたしん家のものだから、あたしが持ってても……だから、あげる!」
ローザは途端にいつものツンツンぶりを発揮し始める。
「ま、まあ、本来ならあたしが持つべきものだったし、これで善戦を認めてもらえたってことで、受け取っておくわ」
いやお前負けてただろ!
「ぜんせん……? まあいいや、じゃあね!」
そして、フリルがついた桃色の服の女の子はふにゃっと笑い、元気に駆け出していった。
「で、貰ってきたのか」
ゲルヒルトさんは鞄を見つめながら言った。
「はい!」
ローザはもううきうきだ。この鞄がそんなに欲しかったのか。
「ま、特に怪しい術式も無いようだが、念のため先に解析させろよ?」
そうか、万が一鞄に何か仕掛けられていたら組織が危険にさらされる。一般人はそう気を付けることはないが、ここは裏組織だ。
ゲルヒルトさんは鞄を持ち上げると、家の奥の方に入っていく。
それにしても術式解析ってどんなもんかな。見てみたいが、入って一日の俺が頼めることでもないか。いずれ機会があるだろう。
それから俺とローザは多少の雑談をし、ローザは自分の寝泊まりする部屋へ戻っていく。部屋のなかで何をやってるのか超気になる……いやいや、なんでもないぞ?
廊下を歩く途中で、何の気なしに外へ出てみる。
この割と大きな家の正面は平原、背後は小さな山だ。平原の先には小さな林があり、その向こうに今日赴いた町がある。山があるだけあって、この辺は少し標高が高く、目を凝らせば町の尖塔が見える。
冷涼な異世界の風が、俺の顔を撫でた。
太陽が平原の向こうに沈んでいき、金星なのかよく分からない星が高度を増していく頃。
解析が終わったようで、ゲルヒルトさんがリビングにやってきた。手には何かの瓶を引っ提げている。
そして、リビングで待機していた俺は町で抱いた疑問を直接口に出してみる。
「ゲルヒルトさん、町中でこの表にもないような文字を見つけたけど、あれは一体?」
「あ、ああ。もしかして大字? ごめんごめん、存在を忘れてた」
文字の存在をどうやったら忘れるんだ。
「例えば、ええと、この領収証にも書いてあるだろ? 右側は読めるよな」
「ええと、カザリーナ、ですね」
「その左側の三文字が大字さ。これで総合店って読む」
総合店、か。
じっと見ていると、何だか漢字に似ているように見えてきた。
いや、これは漢字だ!
同じ表意文字だというのもあるが、へんとつくりに分かれている。形は崩れているが左側は糸編、右側も形は違うが「公+心」に見えなくもない。同様に合、店も漢字に似たパーツから出来ている。
おおっ、ここまで似てるなら漢字……じゃなくて大字は割と早くに覚えられそうだ。
……そうなのか?
「つまりこの店は『総合店カザリーナ』だ」
カザリーナ店内の雰囲気は、まさにスーパーマーケットだった。だから、総合店というのはつまりスーパーの意味だろう。
ゲルヒルトさんは、領収証……というかレシートを裏返し、空白となっていた裏側に筆を走らせた。
大字ではなく最初に覚えた表音文字だ。
「はい、これで『ゲルヒルト・フィドル』だ。文字の上で改めて名乗っておく。よろしくな」
結局夕食も一皿は俺が担当した。
買ってきた食材はなるべくいいやつを選んだつもりだった。実際俺の勘はけっこう確かなようで、なかなかにうまい料理だった。いや、もしかしたら俺の料理スキルが神すぎて食材の欠点を覆い隠してしまったのかもな。はは、ははは。
ローザも料理に関しては俺のスキルを認めてくれた。ぶっきらぼうな褒め方だったがなんか嬉しい。
俺はこちらの世界でも結構やっていけるのかもしれない。