第一章 魔法のある世界 1 Reincarnation
作者の碧海ラントです。なろうで新しいシリーズを作るのは二回目になります。
こちらの方は一回目のシリーズ(ラグナロクの行動計画)よりやや読みやすいかと思います。
宣伝になりますけど、もう一つの作品、「ラグナロクの行動計画」もよろしくお願いします。
面白いかは読者様次第になりますが……。
今回はなろうで最もアツい「異世界もの」を書かせていただきました。
それでは、本編をどうぞ!
1
穏やかな春の陽光が差し込む、やわらかな芝生の上でゆっくりと昼寝を……。
したいところだが。
今俺の足元にあるのはじめじめしたコンクリートだし、同じくコンクリートの壁と屋根に阻まれて陽光など差し込んできそうもない。
そして、昼寝など到底できない状況で俺は走り続けている。
前を走るのはとびきりの美少女……ではなく、女らしさなど欠片もなさそうなバリバリ男の殺気だった友人だ。名を梶浦始という。普段は変態な冗談や人懐っこい笑みを絶やさないやつだが、今は笑っていられるような状況ではない。
「待てよおい。何であいつらは追ってくるんだよ!」
「知らねえよ! 俺に聞くなっつーの!」
薄暗いコンクリートの回廊の奥に、白い光が見えた。
「出口か!?」
だが、光があったからといって出口だったわけではなかった。
そこは、単なる部屋だったのである。ただし、警備員らしき……いや、兵士といった方がいいような人間が五人いた。そして、有無を言わさず俺たちに襲いかかってくる。手には警棒を握っており、よく見ると銃器まで下げている。
「ええい、どけえ!」
梶浦がもうスピードで筋肉のかたまりに突っ込んでいく。相手は自分が姿を現しただけで俺たちが怯むと思っていたらしく、一瞬だけ硬直した。その隙に俺たちは警備員の足をすり抜け、さらに奥の部屋へと走って行く。
「行かせるな! 徹底的に追え! 殺しても構わん!」
ことさらに大声を出さなくてもいいですよ。雰囲気で分かります。
当然ながら奥の部屋には鍵がかかっていると思ったのだが……イレギュラーな状況だったらしい。中に人がいた。
部屋は広く、奥に巨大な装置があり、その前に人は立っていた。装置は四角錐の形をしており、現代的を通り越して未来的な印象を与える。
梶浦は真っ直ぐその男のもとへ走っていく。少し考えてから、俺もついていくことにした。
男はキーボードのエンターキーらしきものを押し、それから梶浦と俺に気づいた。
男の口が驚愕の形に歪む。それと同時に、男と俺の足の下の、長方形の模様が光り始める。俺と男の回りを光が包み……。
男の胸元の「ナイル」の文字を最後に、視界が暗転した。
「連続的座標、取得完了」
誰だ? 何を言ってる?
「時空断層に異常無し」
待てよ待てよ。
「特殊情報に変換完了、移送を開始します」
何なんだよ、これは!!
「移送開始、ショックの発生する可能性がございます。ご注意ください」
俺の意識が吸いとられるような感覚。
俺の肉体と意識の両方が、吸いとられ、原子よりも根元的なものに変換されていく感覚。
目が覚めて最初に見えたのは、赤茶色の壁だった。それとターコイズブルーの空。
柔らかい風が俺の頬を撫でている。
立ち上がる。人が目にはいった。何やら重そうな鎧を見にまとい、槍をこちらに向け……。
え? 槍? ここって現代?
見れば、茶色い壁は高くそびえ立つ城壁だったし、俺が立っているのは大門のそばの草原だ。隣には石畳の道があり、その上を欧州の行商人のような荷台の隊列が歩いていく。彼らの大きな荷台に鉱石らしきものがうず高く積み上げられている。
門の脇の衛兵がしきりに怒鳴ってくるのも構わず、俺は呟いた。
「これって……普通に異世界転移じゃんか」
俺はとりあえず衛兵に、遠くから来たものだが盗賊に荷物を剥がれてここにたどり着いたという適当な説明をした。
それでも衛兵はわかったと言い、書類のようなものを提示して、ここに姓名と性別を書いてくれと言い、ペンを渡してきた。
ボールペンではさすがにないが、それでも丁寧な作りの万年筆だった。
名前、名前……何語? とりあえず口頭では日本語のようだが、書類のこれは何文字?
「字が書けないのか? まあ、田舎から出てきたみたいだしな」
衛兵は口頭で名前と性別を言うよう俺に言った。
「俺は佐藤瑛人、性別は見ての通り男だ」
「サトウ・エイト……って、どちらが姓だ?」
「ああ、サトウが姓だな」
「なるほど。エイト・サトウか。ハングティア出身か?」
「ん? あ、いや、東の方だ……と思う」
その他の質問に適当に応答した後、俺は衛兵につれられて町の中央広場にやって来た。露店や屋台がいくつか出ているが、それ以外には特に人もいない。
中央広場の南側に大きな石造りの建物があった。衛兵によるとそれがこの町の役所だそうだ。
役所の中は計算された窓の配置によって適度に明るくなっていた。受付らしきテーブルに、そんなに年を取ってもいないのに頭頂部のはげた職員が座っていた。
そして、俺は衛兵の背を追いかけて奥の方の窓口にたどり着いた。
思わず嘆声が漏れた。そこに座っていたのはアフロディテも恥じ入りアンドロメダもひれ伏すような、ものすごく綺麗なお姉さんだったのだから。
「すんませーん。盗賊に身ぐるみはがれたままこの街にたどり着いたって言う人がいます。滞在許可を彼に与えていただきたいんですが」
綺麗なお姉さんは冷静な目で俺をチラリと見た。おおお、俺どうですか。イケてますか。
彼女がどうやら街への人々の出入りを担当する係らしい。俺に向かって名前をたずね、性別をたずね、そして出身地をたずねた。
出身地だと。俺はこの世界のこと何も知らんぞ。
「ええっと、俺はかなり東の方から……」
「具体的に。それと、もしパスポートがあれば提示を」
げ。この異世界厳しすぎるだろ! 普通は冒険者登録とかをすんなり済ませて、あとはレベル上げて、魔王を倒して英雄になる……という甘い甘い夢が広がっているはずなのに。
現実はそれほど甘くないということか。実際にはどこの馬の骨とも知れぬ俺などただの不審者だ。あるいは中世的な設定ならいけたかもしれないが、ここは見たところ近世、ひょっとすれば近代だ。
「あのぉ、こいつは字も書けねえみたいっすし、ど田舎から迷い込んできたやつだと思いますよ」
おおっ、衛兵さんありがとう!
「ふむ。しかし出身地くらいはわかるのではないか?」
ううう……。ここは正直にいくしかないか。
「すいません、わかりません!」
まだすべてが謎