実演
サナダさんが言ってた、どういう道を進んできてこういう音楽になったか、という部分。コメントでも言ったように、自分自身を評価されるのが、私は怖かったんだ。私は初めて自分の殻に内側からヒビをいれた。そのヒビをいれた殻を割って、出てきた私が受け入れられるかどうかは観客次第。だが、それを怖がる必要はない。自分がやってきたこと全てが自信だからだ。朝練や夜練を光来に付き合ってもらったり、両親が交互で送り迎えをしてくれたり、プロであるプリーメルに演奏を聞いてもらったり。それがあって、今ここの体育館のステージに立っている。これが事実だ。
体育館の窓も開け放たれており、マイクを通じて私の演奏が外に、風にのって流れていく。ステージ上から見える、校庭の青々と繁った桜の葉が、ざわざわと揺れる。自分自身も、こんなに心を揺さぶられて演奏したことはあっただろうか。私は今、フルートを演奏することに今まで感じたことのない、高揚感を得ながら演奏を終えた。
パラパラと小雨が降ったような拍手から、座って演奏を聞いてくれていたみんなが、次々立っていく。私が困ると想定していた、スタンディングオベーション。慌ててお辞儀をすると、だんだん拍手は大きくなっていって、頭を上げるといつの間にか隣に来ていた光来が、涙で目を潤ませながら、「おめでとう」と言ってくれた。それをみた私は、壇上だということを忘れて、光来を思いっきり抱き締めた。
「光来~、ありがとう!」
込み上げてくるものを、笑顔と一緒に飲み込んだ。