終演
十分な手応えを感じる事が出来たプリーメルの4人は、高校時代の仲のいい友達の頃に戻ったようだった。ライヴが終わった後の打ち上げで、コウイチさんがある曲で、とんでもない歌詞の間違え方をしたので、メンバーからコウイチさんのコップに次々とビールが注がれていった。コウイチさんはそれを「反省します」と言いながら、ぐいぐい飲んでいったから、みんな面白くて、お腹を抱えて笑っていた。
それに負けじとコウイチさんも、「サナダのギター今日もカッコよかったよ」とコップにビールを注ぐ。サナダさんも注がれる度、飲み干していった。父はその様子を見て、微笑ましく笑っていた。彼らとの最後の時を、味わっているかのようにも見えた。父の方に気を取られていると、いつの間にかコウイチさんがわたしの隣にやって来ていた。
「やっと玲香ちゃんの隣にきた!」
いつも滑舌はハッキリしているが、お酒が入っているせいか、先程歌い終えたばかりとは思えない声量で話しかけてきた。
「どうも。」
「どうもどうも。最高だったよ、玲香ちゃん。」
「ありがとうございます。」
「次もさ、ライヴ出てよ。やっぱさぁ、女の子がいるといいよね!ステージが華やかになって!」
満面の笑みで言ってくるコウイチさんは、完全に酔っ払っているようだった。それに気づいたマシロさんが、ズルズルとコウイチさんをわたしから遠ざけた。
「はいはい、分かった分かった。玲香ちゃんウザがってっから!」
「なーんでお前はジャマばっかすんだよ!せーっかく玲香ちゃんと話してんのに!」
お決まりになっているじゃれ合いで、コウイチさんはユッキーさんのところに連れていかれてしまった。そして、その目線の先には、コップにビールが並々注がれたまま、テーブルに突っ伏しているサナダさんがいた。その様子が気になったが、わたしは一度お手洗いに立った。
戻って来ると、みんな2次会に行く雰囲気になっており、店を出る準備をしていた。今回、コウイチさんは辛うじて起きていたものの、サナダさんは完全に潰れてしまっていた。マシロさんが懸命に起こしていたが、なかなか起きない。
「こいつ、こうなるとなかなか起きないんだよな。おい、サナダ起きろって!」
マシロさんは手を焼いていた。
「マシロさん、先に次の店行っててください。わたし、サナダさん起こして追っかけますから。」
「えー?…まぁ、俺らの人数少ないんじゃいつまでも始めらんないか。じゃ、悪いけど頼むわ!」
そう言うと、みんなの後をマシロさんは追いかけて行った。しかし、サナダさんを揺すってみたり、声を掛けてみたものの、寝息をたてるだけで、ほんとに全然起きなかった。マシロさんに言ったことをすぐに後悔した。
諦めてわたしも隣に座り、さっきの飲みかけのウーロン茶をひとくち飲んだ。起きないかなとサナダさんを見ると、前髪からちらっと目元が見えた。長いまつげで目を閉じている彼は、さっきまでギラつかせてギターをかき鳴らしていたとは思えない程、無防備に眠っていた。それがあまりに綺麗な寝顔だったので少しの間眺めていると、急に彼は目を開けた。その瞬間、目が合った。




