気鋭
2杯目のドリンクで、彼らの高校時代の話やインディーズ時代の話を聞いた。3杯、4杯目でマシロさんの飼っているネコの名前を教えて貰ったところで、コウイチさんが寝てしまっているのに気づいた。
「コイツ、酒弱いからな~。ちなみにサナダも弱い。」
マシロさんが寝ているコウイチさんにキャップを被せる。
「おい、起きろ!今日は帰るぞ!」
ユッキーさんがコウイチさんを揺さぶる。
「いやだ!帰んない!」
目は閉じているのに口調はハッキリしている。マシロさんとユッキーさんがコウイチさんを無理矢理起こして部屋を出た。お会計を済ませると、先程サインをあげた店員が出てきて「ありがとうございました、頑張ってください」と、声を掛けてくれた。ユッキーさんがコウイチさんを肩に抱えていたので、マシロさんが代表して、「ありがとね」と彼女に手を振った。
店を出ると先程より人通りが多くなっていた。なのに彼らのオーラが際立っていて、いつファンに声をかけられてもおかしくない状態になっていた。事実、店の前で立っていると、ヘッドホンをしている若いお兄さんが、二度見しながら向こうへ歩いていった。
わたしはこの後、母の会社の事務所へ寄って、一緒に帰ることになっていたので、ここで別れの挨拶をした。
「今日はありがとうございました。ライヴの本番、気合い入れて頑張ります!」
「こちらこそ、付き合ってくれてありがとうね。俺らも玲香ちゃんと演奏すんの、楽しみにしてるから!」
マシロさんが服にぶら下げている、メガネをかけた。
「最高のステージにしよう。」
ユッキーさんが言った言葉に、朦朧としながらもコウイチさんは親指を立てこちらを見た。「お疲れ様です」と言って、この場を後にした。




