感化
サナダさんは車内で流れていたBGMの音量を下げた。洋楽のようだが、どこかで聞いた事があるような気がする。おそらく父が聞いていたのをわたしも聞いたのだろう。そんなことを思っていると、サナダさんが口を開いた。
「…ここ数日で、なにか心境の変化があったの?演奏がまるで違ったけど。」
サナダさんは気づいていたようだ。ハンドルを握る、彼の横顔を見る。
「…この間プリーメルのみなさんに聞いてもらった曲を、学校で披露する機会があって。…そこでなんとなく、サナダさんがわたしに言おうとしてたことが、分かってきた気がしたんです。…お客さんに聞いて貰える音楽ってなにか。」
「…それって、なんだと思うの?」
「お客さんに求められる演奏を、することだと思います。」
サナダさんはちらっとこちらを見て、若干口角をあげたように見えた。わたしは話を続ける。
「…正直、今までのわたしは、演奏技術が全てで、それでお客さんを満足させられると思っていました。でもサナダさんに言って貰えたことで、一回立ち止まって考えたんです。それってちょっと乱暴すぎるんじゃないかって。そんな時、学校で演奏披露するチャンスがあって。やってみて思ったことが、音楽の作り手として必要なことって、お客さんからの注文を聞いて、それを提供することじゃないかって思ったんです。もちろん、自分はこうだって主張は大事だけど、それだけでは聞いてもらえる音楽はできない。聞き手が求めることはなんなのか、 それを正確に把握できないときっと、仕事としては成り立たないんじゃないかって思ったんです。」
わたしは自分で言いながら、自分の言うことにすごく納得していた。
サナダさんは交差点の角を右に曲がるため、ハンドルを切った。左の手首につけてる、シルバーのアクセサリーがシャラシャラ鳴った。
「…やっぱり素質はあるな。」
独り言のようにサナダさんは呟く。え?とわたしが言うと、最初の言葉はなかったかのようにサナダさんが続ける。
「…短期間でよく気づけたね。正直、もっと時間かかるかなと思ってた。まぁ、さっきの君の演奏聞いた時点でなんとなく分かってたけど。」
ちょうどビルとビルの隙間から西日が差し込んで顔に当たる。それを当たらないように、左手をおでこの所に持ってくる。
「…はじめて君の演奏を聞いた時、上手いけど決定的になにか欠けてると思ったんだ。と、同時に優秀な人をお父さんに持ちながら君はなぜこういう演奏をするのか気になった。」
信号が赤になり停車した。
サナダさんは続ける。
「…さっき、サポメンにかこつけたけど俺が個人的に君に興味がある。…ちょっと話さないか?」
前を向いてた顔が、一瞬だけこっちを向く。
信号が青に変わる。
サナダさんが素人であるわたしなんかに興味を持ってくれたことに非常に驚いた。すごくぶっきらぼうな言い方に聞こえたが、わたしのこと嫌いなのでは?という先程の疑問は解けたような気がしたので、そこはすっきりした。「興味」という部分では、わたしも彼がどんな人なのか気になっていた。お互い同じ気持ちだったらしい。夕日は沈みかけていたが、家に送ってもらう前にサナダさんと話すことになった。




