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第12話 税金

 

「っく……」


 その日、アレクサンダーは数枚の紙の束を見て呻いていた。

 うんうんとアレクサンダーが悩み声を上げていると……


「何見ているの?」

「うわぁ!」


 突然、ひょっこりと現れたルーツィアに驚いたアレクサンダーは咄嗟に紙を隠した。

 ルーツィアが眉を潜める。


「……怪しい」

「いや、別に見ても面白いものじゃないぞ?」

「つまり見られたら都合が悪いもの?」

「あー、うん、まあ」


 そう言ってアレクサンダーは観念したかのように紙を机の上に置いた。


「うわぁ、凄い」


 紙を覗き込んだルーツィアは、その紙面に書かれた数字に驚きの声を上げた。

 それは今までアレクサンダーが各国や様々な金融業者から借りた多額の借款が一纏めにされており、その額はとてつもない金額になっていた。


「覚悟してはいたが、こうしてまとめてみると少し不安になってな……」


「まあ、でも借金は借りることができるうちは花だから」


「それは俗に自転車操業って言わないか?」


 国や商会の財政が破綻するということは「借金が返せなかった」ということではない。

 「借金が返せなかった」ということが理由で破綻することはあれども、「借金が返せなかった」ことそのものは財政破綻ではない。


 財政破綻、ということは要するに運営するための資金が得られなくなった状態のことを言う。

 つまり極端な話、借金で借金を返すことができているうちは破綻はしない。


 そして借金ができるかできないかは信用が重要になる。

 つまり信用されているうちは、まだ大丈夫ということになる。


「どう、アレクサンダー。信用されている自信、ある?」

「ない」


 即答するアレクサンダー。

 アレクサンダーは人脈は広いが、一人一人の関係はお世辞にも深いとは言えない。

 大損覚悟でアレクサンダーに投資をしてくれる気前の良い知り合いは少ない。


 今、お金を借りることができているのはアレクサンダー自身ではなく、迷宮王国の発展性そのものが期待されているからに他ならない。


「返済はいつからできそう?」


「来年からは食料の自給ができるはずだから……再来年からかな? 穀物の輸出ができるようになれば、国庫にも金が入るはずだ。より本格的な返済は……まあ五年後だ。五年経てば、ロイメルク卿の葡萄酒生産が本格化する」


 つまりまだまだ時間が掛かるということだ。


「五年か……」


 ルーツィアは顎に手を当てた。

 祖父と同じ、金融家の顔になっている。


「五年だと、厳しいか?」


「必ずしもそうとは言えない。でも、焦れてくる人はいる。……財政支出、見たいな」

「ああ、良いぞ」


 あっさりとアレクサンダーは支出入について書かれている書類を取り出し、ルーツィアに見せた。


「そんなにあっさり見せてくれて良いの?」


「お前だけだよ。今日からお前は我が国の財政顧問だ。頼りにしてる」


「……拝星教徒が国の中枢に深く関わっていることは知られない方が良い」


「つまり非公式なら良いわけだ」


 アレクサンダーがそう言うとルーツィアは小さく頷いた。

 そして様々な数値を見比べる。


「……人件費が多い。何に使ってるの?」


「外国から招いた人材だ。それを減らすのは、ちょっと難しいぞ。ただでさえ、無理して来て貰っているようなものだからな」


 迷宮王国は、「労働力(てあし)はあるがインテリ(ずのう)はいない」という状況になっている。

 道路工事等をするにも設計したり現場を指揮したりできる人間が必要なわけで、そういう人材を高い給金を支払って雇っているのだ。


「……削れそうなのはあまりなさそう」


 今は国を立ち上げている最中だ。

 緊縮は無理だと判断したルーツィアはアレクサンダーに提案する。


「税金、上げない?」


 支出を減らせないのであれば、収入を増やすべし。

 当然の帰結だ。


「見た限りだと、税金が低すぎる。もっと上げても良い」


 迷宮王国の税金は非常に低い。

 理由は二つある。


 一つは、当初の住民がそもそもまともな資産を持っていなかったからである。

 ない者から金は取れない。

 当然、農地の開拓は終わるまでは無税となり……そして農地開拓がある程度進んだ今でも税率は低いままに抑えられている。


 もう一つは各国から富裕層――特に王国や帝国でのマイノリティーになっている資産家――を呼び込むためだ。 

 我が国は税金が低いから、是非とも来てください……というわけだ。


「上げるねぇ……具体的には? どんな税金を導入する?」


「導入しやすいのは、酒、タバコ、大麻、アヘン。この辺りは反発が少ない」


「酒はドワーフが怒り狂いそうだな」


「そう? ……入植したばかりで反感を持たれては面倒。じゃあ、まず最初にタバコ税と大麻税を導入すればいい。一年ごとに五%ずつ上げて、十年間で五十%くらいにしても問題はないはず」


 たとえ税金が上がったとしても、簡単にやめられないのがタバコと大麻だ。

 しかし一つ気になることがある。

 

 アヘンだ。


「アヘンはどうなった?」

「あれは依存性が強い。だから……」

「禁止にすると?」

「まさか。専売にして、定価の二倍・三倍の価格で売る。頭が馬鹿になってるから、二倍でも三倍でも買うはず」


 外道なことを言い始めるルーツィア。

 しかしこの案にはアレクサンダーとしては、少し言いたいことがある。


「密輸されないか? ……いや、されないか」


 迷宮王国の入り口は一つしかない。

 他国とは違い、国境()が存在しないのだ。


 密輸を取り締まることは非常に簡単だ。


「つまり国内での密造を取り締まれば良いということか」


「そういうこと。畑なんて、隠せるものじゃない」


 まあ、家庭菜園レベルになると見逃してしまうかもしれないが……

 その程度ならば目くじらを立てる必要もない。


「他に上げられる、導入できそうなものは?」


「……抵抗は大きいけど、塩は楽。特に迷宮王国の場合は、特定の階層でしか得られないから、取り締まりが便利」


 塩は人間が生きる上では必要不可欠な物品だ。

 塩の消費量を落とすことは難しいため、塩に税金を掛ければ確実に増収が期待できる。


「塩か……そういえば、大規模な塩田を作る計画があるんだよね。それを公営にした上で、専売にしちまうか。他には?」


「土地税とか」


「収穫物にはすでに税金を掛けているが」


「そうじゃない。土地そのものに掛ける税金。収穫や使用用途に限らず、税金を取ればいい。あとは家とかの家屋。とにかく、隠しにくく、持ち運びにくい資産には軒並み税金を掛けられる」


「なるほど。だからお前らは持ち運べる資産しか持たないわけか」


「そういうこと」


 拝星教徒は土地や屋敷などの資産をあまり持たない。

 常に一定の資産は貴金属に変えておき、いつでも逃げられるようにしているのだ。


 ちなみに拝星教徒にとって最大の資産は“教養”であり、最高の投資は“教育”だ。

 何しろ頭の中身だけは、どう頑張っても奪うことはできないし、持ち運ぶのは(当たり前だが)容易だ。


「あとは賭博税とか、売春税とか、消費税とか。一人一人の収入を把握する必要がある直接税よりも、商人や商会の動向に気を配っていれば問題ない間接税は基本的に取りやすい。まあ……でもこの国ではまだ、賭博も売春も盛んじゃないし、消費もまともにないから、これはもっとあとで良いと思う」


 最後にルーツィアはそう締めくくった。

 アレクサンダーは助言をしてくれたルーツィアの頭をガシガシと撫でる。


「さすが、ルーツィア! 金儲けのプロだな。血も涙もない高利貸し、エーリッヒ家の跡取り! ロバート爺さんの孫なだけはある!」

「……最後のは不名誉」


 頬を膨らませるルーツィア。

 そんなルーツィアの頬にアレクサンダーは接吻した。


「これからもよろしくな?」


「……今のは金貨一枚」


「金とるのか!」


「当たり前」


他にも灯油税(菜種油等)とか、印紙税とか、その他紅茶・珈琲・砂糖……まあいくらでもありますね

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