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第11話 ドワーフ

 その日。

 迷宮王国に新たな住民がやってきた。


 低い身長に、筋肉質な体。

 女も子供も毛深く、髭を伸ばしている。


「よく来てくれた、ドワーフの諸君!」


 アレクサンダーは迷宮王国への移住を決意してくれた、一万人のドワーフたちを歓迎した。






 ドワーフ。

 エルフに並ぶ長命種で、強力な精霊魔法の使い手であることは広く知られている。


 性格は温厚で、争いは好まない。

 しかしプライドは高く、一度怒ると手が付けられない。


 手先が器用で、金属や石材の加工に長けている。

 また酒好きな者が多いのも特徴の一つだ。


 多くのドワーフは山や森の洞窟、もしくは崖や地面を掘り、住居を作って生活をしている。


 そんな彼らだが、ここ数百年。

 やはりエルフや獣人と同様にその生活環境を圧迫され続けていた。


 もっともドワーフたちが晒されたのはエルフや獣人たちとは違い、暴力による圧迫が主ではない。

 経済的な圧迫が主である。


ドワーフたちは非常に手先が器用だ。

 彼らの技術が優れているのは確かだ。


 しかし……如何なる技術も陳腐化する。

 人族の技術発展は近年著しく、ドワーフたちの技術は年々時代遅れとなっていた。


 特に決定的になったのはコークスと鉄鉱石を利用した、大規模な製鉄である。

 人族は高品質で安価な鉄を大量生産できるようになったのだ。


 これは木炭と砂鉄で作られたドワーフたちの鉄を圧巻した。


 無論、ドワーフたちも新技術を導入しようと考えた。

 しかし……コークス、つまり石炭や鉄鉱石を得るには人族から買わなければならない。


 人族たちは当然、高値で鉄鉱石や石炭を売りつける。

 ドワーフたちは経済的に窮乏し始めた。


 やがてドワーフたちは人族に、自分たちの土地を「売る」ことをしなければ生きていけないまでに追い詰められる。

 そして経済的な圧力から故郷を追い出されたドワーフたちは、帝国や王国の都市部で人族から壊れにくい(・・・・・)労働力として使われるようになる。


 そしてまた、エルフや獣人たちが受けたような宗教・文化的な迫害を受けるようになり……


 というのが現在のドワーフたちの現状である。

 

 だが幸いにもドワーフたちは散り散りになりながらも、横のネットワークを維持し続けた。

 また人族から搾取されながらも、その技術を学んでいた。


 そしてついにドワーフたちの一部はアレクサンダーの治める迷宮王国に希望を見出し、移住を決意したのだ。




「さて、アレクサンダー殿。我々はどこに住めば良い?」


 ドワーフの代表者がアレクサンダーに尋ねた。

 

「どこでも構わないぞ。お前たちが好きな場所に住むと良い」

「……鉄鉱石や石炭が掘れる場所はあるか?」

「それなら第一階層だろうな。地質調査では鉄鉱石と石炭が埋蔵されているのは確認できた」


 やはり鉄鉱石や石炭などの資源に関しては拘りがあるようだ。

 それが原因で窮乏したのだから、当然と言えば当然だが。


「では、そこに住まわせて欲しい」


「言っておくが、開発は一切していない場所だぞ? 鉄鉱石や石炭が埋まってるのは確かだが、文字通り埋まっている。つまり掘り出さないとダメだ」


「穴を掘るのは得意だ。ご安心を」


「……お前たちがそう言うなら構わないが」


 どうやら一万人のドワーフたちは自分たちの力で鉱山開発までして、鉄を作るつもりのようだ。


「まあ、それで鉄を作れるようになるなら構わないがな。生活基盤が整うまでは、食料の支援をしよう。欲しい物はあるか?」


「我々は野菜や穀物などは作れん。それと……」


「酒か?」


 アレクサンダーの言葉にドワーフの男は頷いた。

 

「悪いが、酒は嗜好品扱いでな。最低限(・・・)の食料支援には含まれない。鉄製品を作れるようになったら、それを売って、その金で酒を購入してくれ」


 アレクサンダーがそう言うと、露骨にドワーフの男は落ち込んだ。

 アレクサンダーは少し申し訳ない気分になった。


「ああ……もし鉄製品以外に商品があるなら、話は別だけどな。それに価値があるなら、酒と交換してやっても構わない」

「本当か!」

「嘘はつかない。……価値があったらの話だぞ?」







「それで、これがドワーフたちの提供する商品(・・)ですか」

「そうだ。面白いだろう?」

「面白い……いや、変わっているとは思いますが」


 若干ドン引き気味のテレジアの前には、うねうねと動く白い何かがいた。

 一見すると、剥いた生のエビのように見えなくもない。


 その正体は……甲虫類の幼虫である。


「よ、幼虫ですか……」

「メア、苦手か?」


 引き攣った顔のメアにアレクサンダーが尋ねると、メアは小さく頷いた。


「……昔、無理やり食べさせられまして」

「へぇ……」

「あいつ、私の餌だと言って、虫をたまに出してきたんですよ……」


 あいつ、とはメアの父親である魔王のことだろう。

 どうやら変なトラウマスイッチを押してしまったようだ。


「ドワーフの虫食は知識では知っていたが、実際見てみると何というか……食べる気にはなれないね。勇者は食べたことがあるのかい?」


 リリアナが尋ねると……

 アレクサンダーはひょいっと幼虫を摘まみ、口に運んで見せた。


「ん……無論、食べたことあるさ。食わず嫌いはダメだ。まあ、不味くはないぞ? 美味しくはないがな」

「甲虫の幼虫以外で食べたことある虫は?」

「そうだな……バッタとか? 油で揚げた奴は酒のつまみになる。あと蜘蛛は甲殻類みたいな味がするな。まあでも、甲殻類の方が美味いけど。敢えて食うならセミだな。アレは美味いぞ」

「そこまで絶賛されると気になるなぁ……でも生きてるのは嫌だね」

「初心者は唐揚げがお勧めだ」


 虫食トークを始めるアレクサンダーとリリアナ。


「ああ、やめてください。聖書に食べて良いと書かれていないモノを食べるなんて、あり得ません。神の天罰が下りますよ。そもそも、可哀想だとは思わないんですか? 虫も生きてますよ」


「その理論だと、牛や豚も食えなくないか?」


「何を言ってますか。神は人のために牛や豚を造ったのです。人のために造られた物を食べるのは問題ありません。ですが、虫は人のために造られていません。食べるべきではありません」


 性女のくせに聖職者らしいことを言い始めるテレジア。

 自分が聖書の記述を守らず、アレクサンダーのウィンナーを咥えていることは棚に上げる。


「まあでも、私も虫は無理です。多くの人がそうなのでは? 虫なんて、売れませんよ」


 メアがテレジアに同意するように言った。

 虫は売れない、ということに関してはぶっちゃけアレクサンダーとリリアナも同感なので異議はない。


「となると、次だ。こっちは売れるだろう」


 ドワーフたちが用意したもう一つの特産品。

 それは壺に入っていた、


 見た目は黄金色で、ねっとりとしている。

 まるで蜂蜜のようだが……これは蜂蜜ではない。


「蟻の蜜……まあ蜂も蟻も、見た目じゃあ羽があるかないかの差しかないからな」


 アレクサンダーはそんなことを言いながら蟻蜜をパンに塗って口に運んだ。


「美味しいですか?」

「ああ、ただの蜂蜜だ。お前も食ってみろ」


 アレクサンダーはメアの口に自分の食べかけを運んだ。

 メアは躊躇なくそれを口にする。


 メアの目がとろんと蕩ける。

 メアは甘いものが好きなのだ。


「で、最後の一つがこれですか」

「キノコかぁ……甲虫の幼虫に、蟻蜜、そしてキノコ。何もかも、暗闇で育てられるものばかりだね」


 籠に積まれたキノコを興味深そうにテレジアとリリアナは見る。

 ドワーフたちが育てたキノコは、少なくとも帝国や王国、そして都市国家同盟などの人族の国では食卓に上がることがない種類のものだった。


「キノコは物珍しさで売れそうだな」


 しばらくはキノコと蟻蜜を対価に、酒を送ってやろうとアレクサンダーは決めた。

ちなみにユダヤ教ではバッタはセーフです

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