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第4話 チンピラ勇者は帝都の知り合いに会いに行く

一先ず、隔日更新は守れました


 「勇者様、これからお会いするのはどのような方たちなのですか?」

 「そう言えば、お前にはまだ説明していなかったな」


 一先ず二人は帝都に転移をし、そのあとレストランで食事をしていた。

 食事を終えた後に会いに行く予定なのだ。

 

 「王国の民族差別が半端じゃない話は、もうすでにお前にはしたな?」

 「はい、カルヴィング人以外は差別されるんですよね?」


 アレクサンダーは頷いた。

 

 「王国の場合はそうだ。じゃあ、帝国だとどうなのか……って話はしてないよな?」

 「えっと……帝国はあまり民族による差別がないんじゃなかったんですか? 確か、神聖教によって全ての人間は神の前に平等……なんですよね?」


 神聖教では明確に差別することが禁じられている。

 まあ、現実には皇族・貴族・聖職者・平民・農奴・奴隷と言ったような階層が存在するのだが……建前上は平等ということになっている。


 「その通り……帝国には民族差別というのは、基本的にあまりない。民族による差別は、な」

 「その言い方だと、他の差別があるんですね」


 嫌な話だと、言わんばかりにメアは眉を潜めた。

 迷宮で生まれ育ったメアは、良くも悪くも社会とは隔離されていたため、そういうこととは無縁だった。

 そのため馴染みが薄く、「なんて酷い話だ」と純粋に思うことができるのだろう。


 「帝国の神聖教は厳格な一神教。だから基本的に異端も、異教も認められない」


 「つまり宗教差別がある、ということですか?」


 「そういうことだ。まあ、大概は差別に屈して神聖教に改宗するわけだが……根絶することは不可能だ。厳格に教えを守り続ける奴はいる」


 「つまり……そういう人たちに今から会いに行くと?」


 「察しが良いじゃないか」


 アレクサンダーはニヤリと笑みを浮かべた。

 メアはデザートを食べつつ……疑問を口にする。


 「でも、差別されてる人たちなんですよね? 確かに迷宮王国に協力してくれるかもしれませんし、もしかしたら移住してくれるかもしれないですけど……その、何というか……」


 「大した力も持ってなさそうだ、と言いたいのか?」


 「ええ、まあ……そんな感じです」


 メアの懸念は尤もだ。

 事実、帝国における異教徒や異端者の多くは奴隷や農奴、もしくはそれ以下の待遇に貶められ、大変貧しい生活を余儀なくされている。


 「まあ、大部分の異教徒や異端者は力を持ってないが……何事も例外がある」


 「はぁ……」


 食事を終えた二人はレストランを後にした。

 それからアレクサンダーの後にメアが従う形で、帝都の中を歩く。


 「帝都って、広いんですね……」


 「ああ。俺も長い間帝都で暮らしてきたが、まだその全てを知っているわけじゃないからな」


 アレクサンダーは街の中心部から、少し外れたところへと移動する。

 すると段々と人通りが少なくなり、さらに道も細くなっていく。


 ゴミも多く、不衛生な環境となっていき……

 そして物乞いの姿も散見されるようになっていく。


 「お嬢ちゃん、何かワシに恵んでくれんかね……」

 

 「え、ええ? えっと……えっと……」


 老人に話しかけられ、あたふたするメア。

 そんなメアの腕をアレクサンダーが掴み、強引に引っ張る。


 「うわぁ! な、何ですか?」

 

 「行くぞ。ああいうのは、相手にするな」


 そう言って物乞いを振り切るアレクサンダー。

 メアは眉を潜めた。


 「困ってるんだったら……少しくらい、お金を恵んであげたりした方が良いんじゃないですか?」


 「連中はああ見えて横の繋がりが広い。あっという間に、街中に広がるぞ。金をくれるカモがいるってな」


 今のメアはアレクサンダーが見立てたドレスを着ており、さらに首輪もマフラーで隠しているので、ぱっと見良いところのお嬢さんに見えなくもない。


 「そ、そうなんですか?」


 「ああ。面倒事は避けた方が良い。どうせ、金なんて恵んだって、酒代や薬代に消えるさ。この辺にいる物乞いは、そういう連中だ」


 無論、必ずしもそういうわけではない。

 が、多少金銭を恵んだところで状況が変わるはずがないのは事実だ。


 「助けたいなら、慈善団体に寄付した方が良いぞ。教会系と非教会系の二種類が存在する。異教徒や異端者も助けたいなら、後者がお勧めだ」


 「なる……ほど」


 「後で寄付しに行くか?」


 「いえ、良いです……冷静に考えていると、私お金持ってませんでしたし」


 その後も物乞いを無視しながら、さらに二人は進む。

 すると……石で出来た壁が目の前に出現した。


 「これは……城壁、ですか? でも城壁は別にありますよね? ……街の中に、もう一つの城壁?」

 

 メアは首を傾げた。

 見る限り壁はそこまで高くなく、ところどころ崩れている部分もあるため、お世辞にも防衛機能があるとは思えない。


 「城壁は外からの侵入に備えるものだが……この壁は内側から外に出るのを防ぐためのものだ」

 

 「どういう……ことですか?」


 「つまり隔離壁さ」


 その言葉でメアはこの壁が何のために存在するのか察した。

 つまり異教徒や異端者を隔離するための壁である。


 王国が獣人族に対し、隔離政策を行っていたのと同様に、帝国も同化することができなかった異教徒や異端者を隔離しているのだ。


 「さあ、入るぞ。メア」


 「は、はい」


 アレクサンダーは門に近づく。

 門の前には槍を持った衛兵が立っていた。


 「身分証の提示をお願いします」

 「ほら」

 「これは……まさか、勇者様!?」

 「おう、そうだ」


 アレクサンダーがそう答えると、衛兵は姿勢を正した。


 「こ、これは失礼しました」

 「いやいや、真面目に職務に取り組んでいるということは良いことだ」


 そう言ってアレクサンダーは懐から銀貨を取り出し、衛兵に渡した。


 「今晩の酒代にすると良い」

 「あ、ありがとうございます!」


 衛兵はそう言って再び背筋を伸ばす。

 アレクサンダーとメアは門を潜った。


 門から離れると……メアが小声でアレクサンダーに尋ねる。


 「……チップを出すお金はあるのに、物乞いに出すお金はないんですか?」


 「無いな。せめて靴磨きでもしてくれるんだったら話は別だが。逆に聞くが、お前はあるのか?」


 「い、いえ……私はそもそも、お金がないので」


 お金を持っていないメアはアレクサンダーにどうこう言うことはできない。

 もっとも、完全に納得し切っているわけでもないようだが。


 隔離壁の内側は、外側と比べてかなり清潔だった。

 人々の着ている服も清潔感があり……豊かな生活をしていることが分かる。


 「ちょっと、意外ですね……」

 「もっと汚いと思っていたか?」

 「は、はい」


 メアは頷いた。

 神聖教徒が住んでいる貧民街よりも、差別されている異教徒の住む隔離壁の内側の方が清潔で、住んでいる住民の生活水準が高そうというのは、メアからすれば理解し難い。


 「ここは帝都でも、かなり収入の高い富裕層が住んでいる地区でもある」


 「……どうして迫害されているのに、豊かなんですか?」


 「迫害されているから、身を守るために豊かになっているのさ。豊かで、納めている税金も多いから、帝国政府も帝都に住むことを許している。金が無かったら、今頃、ここの住民は全員火炙りだな」


 貧しい者たちは余裕がない。

 貧しい異教徒や異端者は教会の庇護を得るために、改宗するケースが多いのだ。

 逆に異教徒や異端者であっても、富裕層ならば教会に助けを求める必要はない。

 必然的に改宗せず、教えを守り続けることができるのは富裕層に限られる。


 「まあ、場所にも依るけどな。ほかの街だと、実質貧民街みたいになっているところはあるし……おっと、到着した」


 アレクサンダーが立ち止まったのは、一際大きな建物だった。

 玄関には大きな星型のマークが描かれている。


 「隔離地区の異教徒や異端者は、どの宗派や宗教に属しているのかを示す目印をつける義務がある。あの星形は拝星教という宗教のシンボルだ。覚えておけ……これからお世話になる」


 「は、はい」


 トントン、とアレクサンダーはドアをノックした。

 すると綺麗な声が返ってきた。


 「……誰?」

 「アレクサンダーだ。勇者、アレクサンダー」


 ドアがほんの少しだけ開く。

 翡翠色の瞳が隙間から一瞬様子を伺い、そしてアレクサンダーと目が合った。


 ドアが完全に開く。

 青みが掛かった、エメラルドグリーンの髪の少女が姿を現した。

 髪の長さはセミロングほど。

 身長はメアより少し高い程度で、年齢は十五、六ほどのように見える。


 「久しぶり、アレクサンダー。……いろいろ、お疲れ様」

 「ああ、久しぶりだな。ルーツィア」


 そしてアレクサンダーはメアに対して言った。


 「紹介しよう、メア。この子はルーツィア・エールリッヒ。この街を運営している三十六人の委員の一人、拝星教徒の貸金・両替商のロバート・エールリッヒの孫娘。ルーツィア・エールリッヒだ」


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