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第28話 チンピラ勇者は建国する


 「勇者、交渉はどうなりましたか?」


 帝国との交渉を終えたアレクサンダーに、テレジアが尋ねた。


 「無事に終わったよ。帝国はこちらを国と認めたし、お前の家族も無事。交易についてもいろいろと纏まった……フィーアに関してはお互い不問、ということになったな」


 結局、帝国はフィーアが生きていることには気づかなかった。

 そしてまたフィーアが死んだことに関して、アレクサンダーを責めるような真似はしなかった。


 ただ「フィーアに関してはこれでお終いにすること」を条件に、条約を締結しただけであった。


 「そうですか……良かったです」


 テレジアは安堵の表情を浮かべる。

 両親と孤児院の子供たちへの心配が一先ず晴れたのだ。


 「お前の両親に関しては一月後にはこちらに来る手筈になっている。まあ祖父母や他の親戚は帝国に残るようだが」


 テレジアの生家、ロイメルク家は帝国有数の聖界貴族(聖職を世襲する貴族家)である。

 こういう古い名家というのは政界で生き残る術に長けている。


 国論が二分される時は必ず一族を二つか三つに割るのだ。


 つまりテレジアが「異教徒や異端者に一定の権利を与えるべきである」という派閥の急先鋒になった段階で、ロイメルク家は一族を三つに分けて、一方をテレジアの味方に、もう一方をテレジアの対立派閥に、もう一方を中立派に分けたのだ。


 こうすることでどの派閥が勝利しても、ロイメルク家は生き残れる。

 

 国論が落ち着けば「ロイメルク家のよしみ」という形で、仲直りし、没落した側を支援して立て直せば良いのだ。

 

 そういうわけで反テレジア派のロイメルク家は依然として帝国で大きな勢力を維持している。


 実はこれはアレクサンダーにとって、都合の良いことである。

 というのもテレジアやテレジアの両親を通じる形で、帝国有数の貴族であるロイメルク家とコネクションができることになるからだ。


 そして逆もまた然り……つまりロイメルク家もテレジアを通じてアレクサンダーとの間にコネクションを築けることは、今後「迷宮王国(仮称)」と「帝国」との間の交易や外交で存在感を発揮できることを意味する。


 貴族というのは狡賢い生き物なのだ。


 「確か、お前の親って大司教だろ? 信者から結構、巻き上げてるんじゃないか?」

 「少し語弊があるような気がしますが……それなりの資産家なのは事実です。何ですか? たかる気ですか?」


 テレジアは眉を顰めた。

 土地はさすがに持ち運べないにしても、その莫大な財産を持ち運ぶことは可能である。


 テレジアの両親が迷宮に移住すれば、迷宮一の資産家となるだろう。


 「いやー、たかる気はないぜ? ただちょっと貸してくれないかなーって」

 「……そういうのをたかるというのでは?」

 「でも金ってのは使えばなくなるぜ? 今、この国に投資すれば今後百年、いや千年続くロイメルク家の財政基盤になるかもしれないじゃないか」

 「続けばですけどね」


 今のところ、帝国も王国も「迷宮王国(仮称)はアレクサンダーの一代で終わるだろう」という認識でいる。

 実際、世の中にはアレクサンダーのような有能な成り上がりは多いが……次代に続いた例となると一気に数は限られてくる。


 帝国も王国も、アレクサンダー無き後の迷宮を手に入れる気でいるのだ。

 もっともだからこそ、現在のアレクサンダーの活動は大目に見られている節もあるのだが。


 「まあ……両親に聞いてみなければ分からないですけど、貸してくれるかどうかはともかくとして、何らかの経営を行って迷宮の発展には寄与してくれると思いますよ?」


 いくらお金があっても、収入や仕事が無いというのは不安になるものだ。

 幸いにも迷宮には「未開拓」の利権がたくさんある。

 

 むしろアレクサンダーが警戒するべきなのは、テレジアの両親に利権を奪われ過ぎないようにすることである。


 「ところで一応、これで国としての体裁は整ったという認識で良いんじゃないですか? 勇者様」

  

 そう口にしたのはアレクサンダーと共に転移魔法で帰ってきたメアである。

 

 「どういうことだ?」

 「外交的に、国として王国・帝国・都市国家同盟の主要三勢力に認められたということです。まさか本当に建国できるとは思ってませんでしたが……案外なんとかなるものですね」


 メアはしみじみと語った。

 何をもって国と定義するかは人それぞれであるが、一応現在のアレクサンダーの国が国際社会に国として認められたことは間違いない。


 「そうだな……もっとも内実は全くもって、国とは言えないが。さて……テレジア、フィーアの様子はどうだ?」

 「少し前に目を覚ましましたよ。今はリリアナが監視しています」

 「そうか。……会えそうか?」

 「大丈夫だと思います」


 アレクサンダーとテレジア、メアはフィーアの下へと向かった。

 

 フィーアは小さな個室のベッドの上で半身を起き上がらせてぼーっとしており、その横ではリリアナが椅子に座って本を読んでいた。


 アレクサンダーたちが入ってきたことに気付いたリリアナは本を閉じた。


 「ああ、アレクサンダー。お帰り……フィーアの体調は良さそうだよ。まだ絶対安静だけどね」

 「そうか、それは良かった」


 アレクサンダーは頷いてから……

 フィーアに接近する。


 フィーアはボーっとした顔でアレクサンダーを見上げた。


 「フィーア、状況は理解しているか?」


 アレクサンダーが尋ねるとフィーアは小さく頷いた。

 すでに状況説明、つまりフィーアが帝国から切り捨てられたことはリリアナとテレジアの口から説明されている。


 「今でも帝国に対する忠誠心はあるか?」


 アレクサンダーが尋ねると……

 フィーアは首を縦にも横にも振らなかった。


 「俺の部下になる気はあるか?」


 それに対してもフィーアは「うん」とも「いいえ」とも意思を明らかにしなかった。

 

 現状は理解はしているが、これから何をするべきか分からない。

 それが現段階のフィーアの心境だろう……と予想したアレクサンダーはさらに言葉を重ねる。


 「俺たちに害意はあるか?」


 するとフィーアは首をすぐに横に振った。

 すでに敵意は存在しないようだ。


 「帝国に戻るつもりはあるか?」


 若干の間を置いて、フィーアは首を小さく横に振る。

 帰ったところで居場所がないことは分かっているようだ。


 アレクサンダーは笑みを浮かべて、フィーアの頭に手を置いた。

 そしてその白い髪を撫でる。


 「まあ、何をするべきか見つかるまではここにいろ。元仲間として助けてやる。ただし……誰かを傷つけるようなことはやめろよ?」

 

 アレクサンダーの言葉に……

 フィーアは小さく頷いた。


 「ありがとう、勇者」


 









 「「「「しゃべったー!!!!!!!!!」」」」


 アレクサンダー、リリアナ、テレジア、メアは驚きの声を上げた。


   

 



 フィーアがしゃべってから一週間後。

 迷宮のとある場所にアレクサンダー、メア、テレジア、リリアナ、ユニス、アリーチェの六人が集まった。


 目的は……


 「じゃかじゃん、王国の名前を決めよう会議!! というわけで、外交的に国として認められたのでそろそろ正式名称を決めようと思う」


 アレクサンダーが五人を見回して言った。

 

 「誰か、意見がある人」

 「では私から」


 最初に手を上げたのはアリーチェである。

 アリーチェは外国の人間ではあるが……初期からこの国の建国に携わってきたこともあり、特別にアレクサンダーが呼んだのだ。


 「どうぞ」

 「迷宮共和国」

 「却下。何で共和国なんだよ」


 王政をやる気満々のアレクサンダーからすれば、「共和国」などあり得ない。


 「フロレンティア共和国迷宮領」

 「勝手に植民地化しないでくれ。というか真面目に考えろ」


 アレクサンダーが怒ると、アリーチェは肩を竦めた。


 「私から一つ、良いですか?」

 「テレジアか良いぞ」

 「アレクサンダー・テレジア王国」

 「絶対にヤダ。というかそれとなく、お前の名前を連ねてるんじゃねえよ」


 アレクサンダーが文句を言った。

 するとテレジアは頬を赤らめて言う。


 「私たちの子供みたいなものじゃないですか」

 「……お前って、この国の建国にそこまで関わったっけ?」

 

 テレジアの貢献と言えば、アレクサンダーの財産を預かっていたことと……

 海鮮バーベキューをした程度である。

 

 「じゃ、じゃあぼ、僕はリリアナ・アレクサンダー王国を押す」

 「さりげなく、お前自分の名前を先にしたな?」


 リリアナの貢献度はテレジアと同じかそれ以下である。

 

 「……素直にアレクサンダー王国はどうですか?」


 そう提案したのはユニスである。

 リリアナ・アレクサンダー王国やアレクサンダー・テレジア王国は論外として、アレクサンダー王国ならば議論の余地がある。

 だがアレクサンダーは少し体を見悶えさせながら……苦しそうに言う。


 「自分の名前を使うのって、恥ずかしいじゃん」

 「……カルヴィング王国の初代国王はカルヴィング一世ですけど」

 「自分のことを神に選ばれた人間とか言っちゃう、自意識過剰のおじさんと俺を一緒にしないでくれ」


 アレクサンダー王国……

 考えただけでも恥ずかしくなる、とアレクサンダーは体を震わせた。


 「……一応、私の父、先代魔王が考えた名前がありますが聞きますか?」

 「へえ、魔王が。聞かせてくれ」

 「大魔王大帝国」

 

 何となく、アレクサンダーはメアの意図に気付いた。

 父親を憎んでいるメアが、大真面目に父親の案を参考にしようなどと言いだすはずもない。

 間違いなく父親を馬鹿にするために、口に出したのだ。


 「センスなさすぎですね、魔王も。というか魔()なのに帝国ってなんですか?」

 「しかも大が二つもついて、くどい。あり得ないなぁ……」

 「お前ら、あまり人のこと言えないぞ?」


 魔王のネーミングセンスを馬鹿にし始めたテレジアとリリアナに、アレクサンダーは突っ込みを入れた。

 アレクサンダー・テレジア王国やリリアナ・アレクサンダー王国よりは、大魔王大帝国の方が幾分かマシである。


 「アレクサンダー、先程から文句ばかり言ってるね。君は何か、案はないのかい?」


 アリーチェの言葉に……

 全員の視線がアレクサンダーに集まった。


 アレクサンダーは頭を少し掻いてから答えた。


 「……迷宮王国」

 「「「「「……」」」」」

 

 全員が押し黙った。

 そして数秒後に、口々に感想を言う。


 「まあ無難で良いんじゃないかな? 普通だけど」

 「私も良いと思います。面白味はありませんが」

 「僕も賛成かな、つまらないけど」

 「大魔王大帝国よりはずっと良いと思いますよ」


 アリーチェ、テレジア、リリアナ、メアの反応は芳しくなかった。


 そんな四人の反応を見たユニスは、なぜか身を乗り出した。


 「私は素晴らしいと思います! さすがご主人様です。ええ、迷宮王国……とても分かりやすいですし、それから……」

 「あー、ユニス。別に張り切らなくて良いからな?」


 アレクサンダーはユニスの言葉を遮った。

 そして若干、不機嫌そうに五人を見回した。


 「……異論がないなら、迷宮王国だ。別に、良いんだよ。国名に捻りとか、いらないから。無難なのが一番!!」


 

 いまいち締まらないが……

 斯くして「迷宮王国」が正式に建国されることになった。


 


一先ず一章完結です

取り敢えずあと三十話くらいは続ける予定です


ただ書き溜めが尽きたので、ここからは不定期更新になります

まあ、週に一度は更新できると思います

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