表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/41

第16話 チンピラ勇者はロシアンルーレットに挑む

 「これで八匹目です……私がリードですね」

 「っぐ、今に見ていろ……すぐに僕が追いつく」


 第十階層『大海原』にあるとある島で、二人の女が釣りをしていた。


 一人は銀髪の女性、『聖女』テレジア。

 もう一人は瑠璃色の髪の女性、『魔導士』リリアナ。


 二人は互いに睨み合いながら、魚釣り勝負をしていた。


 今のところはテレジアは一匹、リードしているようだ。


 「お二人とも上手ですね……あ、釣れた」


 少し離れたところでは黒髪の少女……メアが魚を釣っている。


 「ぐはぁ……疲れた……」


 メアが魚を釣り上げるのと同時に、一人の男が海から上がってきた。

 手には大きな網を持っており、その中には貝や蟹などが入っている。


 「あ、勇者様。お疲れ様です」


 メアは男……アレクサンダーにタオルを手渡した。

 乱雑にタオルで体を拭きながら、アレクサンダーは無造作に網を岩場に置いた。


 メアがその網に駆け寄る。


 「へぇ……これが貝で、これが蟹……これが海老ですか? 食べれるんですか?」

 「ああ、美味いぞ」


 アレクサンダーはそう言って大きく伸びをした。

 それから釣り勝負に興じているテレジアとリリアナに声を掛ける。


 「おーい、二人とも。早いところ終わらせろよ……先に砂浜に行っているからな!」

 「分かっています、アレクサンダー。……私が九匹目を釣ってからです」

 「九匹目を先に釣るのは僕だけどね」


 これは当分、時間が掛かりそうだ……

 とアレクサンダーは内心で溜息を吐いた。






 先に砂浜に行ったアレクサンダーとメアは、パラソルや薪の準備を始める。

 これから海鮮バーベキューを行う予定なのだ。


 「勇者様、魚が豊富みたいで良かったですね」

 「ああ。これなら食糧供給地として十分に期待できそうだ」


 アレクサンダーたちは何も、遊びに来たわけではない。

 一応、第十階層『大海原』の海産資源の確認という大義名分があってここに来ていた。


 もっとも……九割方、遊ぶのが目的であったが。


 迷宮の季節は基本的に外と連動している。

 第十階層『大海原』は島によって気候が異なるという大変奇妙な階層だが……外の季節が『夏』である以上、内部も『夏』である。


 海水浴を行えるのだ。


 「アリーチェやユニスも来れば良かったのにな」

 「そうですね」


 二人の水着姿を見たかったアレクサンダーは当然、下心九割で二人を誘った。


 しかしアリーチェには「君、私に対して太陽……ではないしても、光の下で半裸になれと言っているのかい? 私を焼き蝙蝠にしたいのかな?」と皮肉を言われ、ユニスには「恐れ多いです……」と遠慮されてしまった。


 「余裕ができたら屋内プールでも作るか。そうすればアリーチェも遊べるだろう……ついでにユニスも」

 

 そんな話をしながら準備を整えていると……

 ギャアギャアと騒ぎながら、テレジアとリリアナがやってきた。

 

 「どっちが勝ったんだ?」

 「私です」「僕だ」


 二人は揃って答え、睨み合う。

 大方、同時のタイミングで釣り上げたのだろうと考えたアレクサンダーは二人から魚を毟り取る。


 「下処理は俺がやる。お前らは水着にでも着替えてな」


 アレクサンダーがそう言うと、三人は頷いて森の方へと消えていく。

 三人を見送ってからアレクサンダーは腰から聖剣を引き抜き、魚に向かって振るう。

 アレクサンダーは別段料理が得意というわけではないが、下処理程度ならばできる。

 音速で剣を振るうことができるアレクサンダーの包丁(聖剣)捌きは、当然音速である。


 「まあこんなものか」


 アレクサンダーは聖剣をしまう。

 

 「三分の一は生、もう三分の一はムニエル、最後の三分の一はシンプルに塩焼きかな……お、着替え終えたか」


 アレクサンダーが料理の計画を練り終わる頃には、すでに三人は水着に着替え終えていた。

 ジロジロとアレクサンダーは三人の体をじっくりと舐めるように見た。


 それに対する反応は三者三様で……

 テレジアは自信ありげに胸を張り、リリアナは苦笑いを浮かべ、メアは気恥ずかしそうに体を腕で隠した。


 「いや、しかし……三人共よく似合っているじゃないか」


 アレクサンダーはうんうんと唸りながら、賞賛の言葉を口にする。


 テレジアは黒、リリアナは赤、メアは白いビキニをそれぞれ身に纏っている。

 三人とも素材が良いだけあり、アレクサンダーの目を満足させるに足る姿だった。

 

 「ところで勇者……私ですよね?」

 「……何がだ?」

 「この中で一番美しいのは当然、私ですよね」


 テレジアの言葉に、リリアナが「はぁ?」と大きな声を上げた。


 「何を言うんだい……僕に決まっているだろう!」

 「あなたは絶対にありません。……ペチャパイ」

 「僕はスレンダーなんだ! この無駄乳!! デブ!!」

 「はぁ? 私のウエストをよく見なさい! 細いでしょうが! ボン、キュッ、ボンってやつです。キュッ、キュッ、キュッのあなたの方がむしろ太く見えるんじゃないですか? ……そうだ、いっそ断食してみては? 腰をさらに細くすれば、あなたのその、貧相な胸と尻が多少は大きく見えるかもしれませんよ」

 「黙れ、毟り取るぞ、この無駄乳女!!」

 「取れるものなら取ってみなさい……ふふ、例え毟り取れたとしてもあなたの胸は大きくなりませんけどね!」


 大喧嘩を始めるテレジアとリリアナ。

 もはやいつもの光景である。


 「あのお二人、仲良いですね……」

 「ああ……見てて飽きないよ、本当に」


 アレクサンダーは苦笑いを浮かべて言った。

 そしてじっくりと、メアの体に視線を移す。


 アレクサンダーの視線を感じたメアは慌てて体を隠した。


 「あ、あまり見ないでください……恥ずかしいですから」

 「いや、でもよく似合っているよ」

 「聖女様や大魔導士様に比べれば、大したことはありません。聖女様は本当にスタイルが良いですし、大魔導士様はスラっとしてて綺麗ですし……」


 恥ずかしそうな表情を浮かべ、メアは取っ組み合いをしている二人と自分を見比べて言った。

 裸が恥ずかしい、というよりはスタイルの良い二人と並ぶことが恥ずかしかったようである。


 「お前って、年いくつだ?」

 「……確か、十三か十四です」

 「ならそんなものだろう。これからさ」


 アレクサンダーはそう言ってメアの頭を撫でる。

 メアの顔が赤く染まる。


 「で、でも……」

 「今のお前は、それはそれで可愛いし、綺麗だと思うよ。……世の中には未完成の美ってのがあるのさ」


 アレクサンダーは脳裏に自分のお気に入りの彫刻を思い浮かべる。

 その彫刻は腕が無いが故に、想像を掻き立て、芸術品としての価値を高めている。


 「「勇者!!」」

 「おお、何だ何だ、二人とも。そんな怖い顔をして」


 テレジアとリリアナがアレクサンダーに詰め寄る。


 「勇者、以前あなたは私に自分は胸の大きな女性が好きだって言ってましたよね?」

 「いや、勇者。僕は覚えているぞ……君は僕に対して、僕のようなスレンダーな女性が好みだと、言ったはずだ」

 「あー、えーっとだな」


 アレクサンダーは過去に、己がテレジアやリリアナに語った言葉を思い返す。

 それらしいことは何度も二人に言っているため、二人の発言がどれを指しているのかは分からない。

 確かなのは、両方ともそう言ったということだ。


 「あー、うん、言ったよ。両方とも、本当だ」

 「勇者! 嘘をついたのですか! あなたは私に、胸が大きい女性が一番好みだと言ったはずです!」

 「君は確かに、僕に言ったよね? 大事なのは大きさじゃないって……あんなのは脂肪の塊だって、言ったよね? 嘘だったのか!!」


 更なる追及を続けるテレジアとリリアナ。

 アレクサンダーは自棄になったのか、怒鳴るように言った。


 「うるせえ! 俺の好みは日替わりなんだよ!」

 「日替わりって……定食メニューか、何かですか」

 「……はぁ、やっぱり複数の女の子に同じようなこと言ってたんだね、君は」


 テレジアとリリアナはゴミを見るような目で、アレクサンダーを見る。


 「これだから犯罪者は……」

 「やっぱり、生まれ持った人間性ってのは、治らないものなんだね」

 「ええい、うるさい! とっとと、飯を食うぞ」


 アレクサンダーは怒鳴り声を上げた。

 

 四人は海で採れたての魚介類を食べ始める。


 「生のお魚、初めて食べたんですが……美味しいですね」

 

 メアは手でソースのついた魚の切り身を手で摘まみ、口に運ぶ。

 オリーブオイルとニンニク、レモンで味付けされた生魚は身がよく引き締まっており、脂も乗っている。


 「この海老、味が濃厚で美味しいね……味噌の量も多いし」


 焼いた海老に舌鼓を打っているのはリリアナである。

 リリアナの出身地、ヴェンジニア共和国は海洋国家であるため、海産物はよく食卓に上がる。

 そんなリリアナが満足できるということは、それだけ迷宮の海産物の質が高いことを意味する。


 「この貝はエスカルゴに味がよく似ていますね。こちらの方が歯ごたえが良いですけど」


 そう評するのはテレジアである。

 テレジアは帝国の帝都の生まれであり、あまり海産物は身近ではない。

 海の貝や海老よりも、エスカルゴやザリガニの方が身近な存在である。


 四人は次々に魚介類を胃袋に収めていく。

 そして最後に残ったのは……


 「さて、どうする……焼くか?」

 「……焼くべきじゃないかな?」

 

 アレクサンダーとリリアナが顔を見合わせた。

 最後に残ったのは……アレクサンダーが海から採ってきたイワガキである。

 夏の今が旬だ。


 「それ、美味しいんですか?」

 「美味いぞ。……生で食うのが一番だ」


 メアの問いにアレクサンダーが答えた。

 するとテレジアは首を傾げる。


 「では早く食べれば良いのでは? 新鮮なうちに食べた方が美味しいでしょう?」


 生まれて初めてみる牡蠣に興味津々のテレジア。

 そんなテレジアに対して、リリアナが頭を掻きながら答える。


 「あー、これ、当たりやすいんだよ。生だとね」

 「当たる?」

 「お腹を壊すってことだよ」


 アレクサンダーとリリアナはじっと、生牡蠣を見つめ……

 それからいそいそとアレクサンダーが何かを取り出す


 「ちなみに魚醬とレモンはあるぞ」

 「おいおい、勇者……もうそれ、食べるしかないじゃないか」


 アレクサンダーとリリアナは生牡蠣に魚醬とレモン汁を掛けて、口に運ぶ。

 もう一つ食べてしまえば、二つも三つも同じだろうと次々と胃袋に収めていく。

 そんな二人の姿に背中を押される形で、テレジアとメアも生牡蠣に手を伸ばす。


 「……これはいけますね」

 「美味しい……」


 あっという間に生牡蠣が四人の胃袋の中へと決めた。


 「テレジア」

 「何でしょう?」 

 「当たった時は介抱してくれ……」


 アレクサンダーはどこか達観した様子で言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ