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第13話 チンピラ勇者は不良品を買い取る

 「何か、注目集めてませんか?」


 メアは周囲の視線を感じ、アレクサンダーに言った。

 そして小声で尋ねる。


 「その変身眼鏡、壊れてません?」

 「注目は集めているが……集めているのは俺じゃなくてお前だよ」

 「へ? 私?」


 メアは首を傾げた。

 アレクサンダーはメアの腕を掴み、自分の方に引き寄せて、庇うようにしてから言う。


 「お前は控え目にいっても美少女だからな。それがまあ、奴隷服着て歩いてたら……羨ましがる奴もいる」

 「ふ、複雑な気分ですね……」


 メアはアレクサンダーに擦り寄った。

 恥ずかしそうに顔を俯かせる。


 「背中の奴隷紋が悪かったかもな」

 「……でもつけなくちゃいけないんですよね?」 

 「あー、いや、意味の問題だ。それは確か『性奴隷』を表す紋章だったからな」

 「な、何てものを付けさせるんですか」


 メアは小声で抗議する。

 アレクサンダーは肩を竦めた。


 「しかしお前の見た目で戦闘奴隷や労働奴隷には見えないしな。それが一番違和感がない」

 「ぐぬぅ……まあ確かにそうですけど」


 メアは不満そうな表情を浮かべてはいるが、一応納得はしたようだ。

 そして矛先をアレクサンダーから王国の奴隷制度へと変える。


 「というか、悪趣味じゃないですか? 奴隷紋を常に見えるようにしなきゃいけないなんて」

 「そりゃあ、見えるようにしないと紋章刻み込む意味ないからな……」


 王国の奴隷紋には二種類ある。

 一つはその奴隷の階層を表す、公的に定められた紋章。

 もう一つはその奴隷の主人、所属を表す紋章。


 後者はともかくとして、前者は体のどこかに露出させなくてはならないということになっている。


 「そう言えば、勇者様は王国出身なんですよね?」

 「まあな……カルヴィング人でもないけどな」

 「奴隷だったんですか?」

 「別にカルヴィング人以外、全員奴隷ってわけでもねえよ。まあ下層身分出身なのは事実だが」


 そんな話をしながら二人は奴隷市場に辿り着く。

 アレクサンダーは案内人を見つけて、その手に金貨を握らせた。


 「不良品は掴まされたくなくてね、案内頼むよ」

 「分かりました」


 ニヤリと案内人は笑みを浮かべた。

 チップで金貨一枚は大金だが……そもそも奴隷自体高価なものなので、一枚程度の支出は誤差である。


 「どのような奴隷をお求めに?」


 「取り敢えず私兵用に、ああ、別にそこまで強い必要はないんだが、それなりに戦える奴隷を百人前後。あと文字の読み書きと算術ができる奴隷を二十人程度買えると嬉しい。あと、掘り出し物があればそれも買おう」


 「へぇ……申し訳ありませんが、使用用途を教えて頂けませんかね?」


 一度に百人を超える奴隷を購入する人間はそうはいない。

 疑問に思うのは当然だろう。


 「それを君に教えなければならない理由はあるのかね?」


 そう言ってアレクサンダーは銀貨を一枚弾いて、案内人に渡す。


 「早く案内して欲しいんだがね」

 「これは申し訳ありません、お客様」


 案内人は移動中もアレクサンダーに話しかけてくる。


 「お客様、何か条件……またはこうだったら嬉しい、というような要素はありますか? 見た目が良い物が良いとか、産地だとか……」

 「そうだな……見た目にはこだわりはないが、若いに越したことは無い。あと、できればカルヴィング王国産が望ましいな。戦闘奴隷に関してはそこまで能力は求めないが……読み書き計算ができる方の奴隷に関しては、出来る限り優秀な奴がいい」


 そういうアレクサンダーに、メアが小声で尋ねる。


 「何故ですか?」

 「無理矢理奴隷にされて王国に連れてこられた奴よりも、生まれながらの奴隷を解放した方が感謝されそうだろ?」


 帝国人にとっての奴隷解放と、王国人にとっての奴隷解放は重みが違う。

 どうせ解放するのであれば、王国出身が良いというのがアレクサンダーの判断である。


 「なるほど……では、まずは戦闘奴隷から片付けましょう」


 アレクサンダーは一人の奴隷商人のところに案内された。

 案内人は商人にアレクサンダーの要望を伝える。


 奴隷商人はアレクサンダーに握手してから答える。


 「百人はさすがに用意できないが、三十人程度ならば、今すぐにでも在庫があります。どうでしょうか?」

 「へぇ……三十人か」


 元々アレクサンダーは一人の商人から百人をまとめて仕入れようなどとは考えていなかった。

 複数の商人を渡り歩き、百人揃えるつもりだったのだ。


 いきなり三十人、というのは幸先が良い。


 「ただ……その代わりと言ってはなんですが、条件がありまして」

 「条件?」

 

 アレクサンダーは眉を顰めた。

 商人はアレクサンダーの顔色を伺いながら、その条件を切り出す。


 「不良在庫がありまして……それを買い取って頂けないでしょうか?」

 「その不良在庫とやらの中身と価格次第ですね」


 ゴミを押し付けられるまでは許容できるが、ゴミを高値で買わされるのは御免だ。

 アレクサンダーは商人についていき、その『不良在庫』が入れられている檻へと向かう。


 「ふーん、子供か」

 「ええ……叩き売りに出す予定なのですが、まとめて買って頂けたら、その分三十人の戦闘奴隷の方をお安くしましょう」


 子供の奴隷というのは価格が安い上に売れにくい。

 単純に労働力として大人より劣り、さらに病気への抵抗力も弱いためすぐに死んでしまう。

 

 故に嫌厭されがちである。


 もっとも、全ての子供奴隷がそうだというわけではない。

 何かしらの一芸があったり、見た目が美しければ逆にその価値は跳ね上がる。

 

 特に『美少年』の場合は、子供の時が一番価値が高い。


 「子供奴隷というのは、基本まとめ買いなのです。薄利多売で儲けを出すのが普通なのですが……どうしても見た目が良くないものや不健康そうな奴隷は売れ残ってしまいましてね。売れ残りを長期間養うわけにもいかないので、通常は叩き売りに出すのです」


 世の中には奴隷を『消費』するような人間がいる。

 そういう者にとっては、使い捨ての安い子供奴隷は需要がある。


 とはいえ、奴隷商人にとってはあまり利益が出ない。


 「どうでしょうか? お客様」

 「ふむ、少し見せてください」


 アレクサンダーは奴隷の様子を確認し……顔を顰める。

 まず最初に気付くのは、鼻につく汚物の臭い。

 男女十人前後の子供たちの顔色は青いを通り越してどこか黒く、手足は細く、ガリガリに痩せている。

 顔は薄汚れているが……例え薄汚れていなくとも、お世辞にも整っているとは言えない容姿の者ばかりだ。


 一番酷いのは、顔中にできものができている赤髪の少女だ。

 何らかの病気なのか、その見た目はとても醜い。


 「あなたは少し売る努力をしたらどうだね?」

 「最初からこうだったわけではありませんよ」


 つまり売れなかったから、相応の扱いをしている。

 ということである。


 アレクサンダーは溜息を吐いた。

 そして隣で青い顔をしているメアを見る。

 

 感情移入してしまっているのだろう。


 (まあ……あいつなら何とかできるか……)


 アレクサンダーは子供好きの聖女の顔を思い出す。

 アレクサンダーが「可哀想な子供たちがいるんだ!」とベッドの上で訴えれば、きっと治療してくれるだろう。

  

 恩を売って、将来的の忠実な家臣にするというのも悪い話ではない。


 「まあ、良いでしょう。だが……本当に安くして貰わないと困りますね」


 実質、腐った生肉を購入するような行為。

 むしろ引き取り料を受け取りたいくらいである。


 「それはもう……ええ、お安くさせて頂きますよ」


 奴隷商人の提示した金額は、奴隷の価格としては例外的と言っても良いほど低い価格であった。

 しかしアレクサンダーは首を横に振る。


 「半額にして頂きたい」

 「い、いやしかしですね……我々も儲けが……」

 「売れ残った場合、処分費用が掛かるのではないかね? 例えば……あの奴隷、とても売れるようには見えませんが?」


 アレクサンダーは顔にできものができてしまっている少女を指さした。

 奴隷商人は溜息を吐く。

 

 「……あれはね、本当は目玉商品だったんですよ? まあ、良いでしょう。半額にします」

 「物分かりが良くて助かるよ。ああ……後で引き取りに来るから、洗っておいてくれませんかね?」

 「ええ、それは分かっております」


 さすがに臭いのキツイ奴隷を連れて歩くのは厳しい。

 

 アレクサンダーは契約を交わし、その場を後にする。

 その後も複数の奴隷商人と交渉し、約百人の戦闘奴隷を手に入れた。


 さて次は官僚となる、読み書き計算ができる奴隷である。

 

 「お客様、申し訳ございませんが……読み書き計算ができる王国産の奴隷は数が少ないんですよ。帝国産か、都市国家同盟産でもよろしいですかね?」


 案内人がアレクサンダーにお伺いを立てる。

 カルヴィング王国の奴隷は最下層の労働従事者なので、教養など無いに等しい。 

 そもそも固定身分制なので、奴隷の子は奴隷であり……自由民が奴隷となることもあまりない。


 一方都市国家同盟産であれば債務奴隷として、帝国産でも同様に債務奴隷、または拉致や誘拐、戦争捕虜という形で、優秀な奴隷が入ってくる。

 

 「王国産、というのはあくまで希望だ。能力優先で頼むよ」


 幸いにも、一月前に王国が帝国の都市を一つ陥落させたこともあり……

 丁度、読み書きのできる奴隷が市場に溢れていた。


 「できるだけ、家族や恋人なんかとセットで買いたいんだが」

 「分かりました。では、その条件で探しましょう」


 どうせ買うなら、自分の印象が良くなる方が良いという判断だ。

 斯くしてアレクサンダーは三十人ほどの奴隷を購入することになった。


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