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帝都クレタ④

 ギルド本部を出たシャルルは、パテトを伴って街の中央に建つ大聖堂に向かう。まだかなり離れているにも関わらず、見上げるほどの高さだ。誰が何のために、あれほど高い塔を造ったのかは分からないが、相当大変な作業であったでことは想像に難くない。


「道に迷わなくて良いよねえ」


 迷子になるのはお前だけだ―――という悪態を吐くことはせず、いちいち食べ物に反応するパテトと並んで歩く。それにしても、とシャルルは思う。

 アルムス帝国は、ユーグロード王国に匹敵する強国だ。いかに天然の要害を利用したとはいえ、帝城が帝都の端に在ることに違和感を覚える。アルムス帝国内においても、貴族の居城は常に都市の中央にあった。そうであるならば、帝城だけが特別だと言える。


 丘陵の中腹に建つ城は攻め難く、一応の理屈は通っているように思えるが、クレタはアルムス帝国のほぼ中央に位置している。一体、何に備えるというのだろうか。


「まるで、大聖堂を見張っているように見えるな」

「え、何?」

 シャルルの独り言はパテトの耳を素通りし、風に溶けて消えていった。


 いよいよ大聖堂を目の前にする2人。真下から見上げると、天辺付近が見えない。建て床面積が普通の一軒家の5倍ほどあり、上部に向けて壁が反り返っている。高さ約35メートル。建物の材質が白石だということを考慮すれば、完成までには途方もない時間が必要になっただろう。


 大聖堂は入口付近から人が多く、ある一定の方向へと皆が移動していた。とりあえず、シャルル達も、その流れに乗ってみることにする。


 暫く列に付いて行くと、ほぼ全員が大聖堂内に在る教会の一つに入って行った。大聖堂内には、それぞれの司教が担当している教会があり、その数は10室にも及んでいる。

 もしかすると、妖精の小道を通って来たという人物の元に辿り着いたのかも知れない。そう思いながら、シャルルは列の最後尾を教会の中へと進んで行った。


 ようやく回ってきた順番。教会の中へと足を踏み入れた瞬間、シャルルの隣からパテトの姿が消えた。瞬動を連続で使用しながら、人波を掻き分けて列の先頭に移動したのだ。

 周囲から悲鳴が上がる。

 妖精の小道を通り抜けたという聖職者の女性を、パテトが片手で持ち上げていたからだ。パテトの暴走を止めるため慌てて駆け寄ったものの、相手の顔を目にしてシャルルは動きを止めた。


「イリア・・・イリア・テーゼ」


 自分よりも背が高いイリアの胸倉を掴み、パテトが怒鳴る。

「オマエが、オマエらが、シャルルを置き去りにしたんだろ!!

 オマエらのせいで、シャルルは真っ暗なダンジョンを、1人ぼっちで彷徨ったんだ!!

 信じていた仲間に裏切られ、どんな気持ちでダンジョンを生き抜いたと思っているんだ!!

 オマエらは、シャルルを犠牲にして生きているんだ!!

 オマエらは、オマエがどんなに偉かろうが、そんなことは関係ない!!

 オマエは裏切り者だ!!

 オマエに生きる資格なんかない!!」


 目を真っ赤に染め、いつの間にかパテトは泣きながら叫んでいた。

 パテトは一瞬とはいえ、シャルルと繋がったことで、ラストダンジョンで置き去りにされた時の光景を垣間見た。ラストダンジョンでの過酷な日々と、シャルルの心を浸食した闇の深さを知った。その後の出会いでいくらか癒されたものの、その傷は未だに深く生々しい。


 パテトに投げ飛ばされ、大勢の来訪者達が見詰める中でイリアは床に倒れ込んだ。イリアは反論することもせず、その場で床に頭を擦り付けて謝罪する。それを目にした来訪者達は驚いたが、イリアはそんなことを気する素振りも見せない。


「ごめん・・・なさい。本当に、ごめんなさい」


 その姿を見ても、パテトの怒りは収まらない。

「アンタねえ、100回頭を下げても、許されるはずがないでしょう!!

 ふざけんなっ!!」


 尋常ではない雰囲気に、来訪者達は教会を後にしていく。徐々に静かになっていく空間で、ようやくシャルルがイリアの前に立った。


 イリア・テーゼ―――聖女候補の僧侶職。主に回復と防御系の魔法によって、勇者パーティを支えていた功労者。そして、下級貴族で能力が低いシャルルを蔑むダムザとは違い、ひたすら無関心を貫いていた公爵令嬢。最後の瞬間、シャルルと目が合った裏切り者。


 シャルルはイリアを見下ろしたまま、一言も声を発しない。

 イリアは頭を下げたまま、身動き一つしない。

 シャルルが言いたいことは、パテトが全て言ってしまった。それに、そもそも何も言うことはない。今更何を叫んだところで、何も変わらない。過去を変えることなど誰にもできはしないのだ。それでも、例えそうだとしても、シャルルはイリアを許す気にはなれなかった。許す理由がない。


 シャルルは謝罪を続けるイリアに一言も声を掛けることもなく、その場を後にした。


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