帝都クレタ①
高さが10メートルを超える防壁は、厚さも5メートル以上ある頑強な造りになっていた。その一部を繰り抜いたように設置された門を潜り、駅馬車はようやくアルムス帝国の都であるクレタに到着した。門を抜けて直ぐの場所にある馬車の乗降位置で下車したシャルルは、初めて見る帝都に感嘆の声を上げた。
「これは凄いな」
その隣で、パテトも口を開けたままその景色に見入っている。
帝都クレタ。最奥部に位置する帝城を含め、全ての建物、道、橋等の建造物が、全て白に統一されている。この地から遠く離れた山間部から、わざわざ運んで来たとされる白石で染まった街並は、初めて目にする者を驚愕させる。
「しかしまあ、よくもこれだけ集めたもんだな」
何気なく口にしたシャルルの言葉に、駅馬車を定位置に移動させようとしていた御者が答えた。
「300年前に壊滅した後、時の皇帝陛下が、白石で街を造ることを指示されたそうだよ」
「へえ・・・」
単純に見栄えが良いし、街が明るく見えるからなのかも知れない。
それ以上シャルルは関心を示すこともなく、最初の目的地であるギルド本部を目指した。
「美味しそうな匂いがしまくり!!」
パテトの一言で寄り道することになったが、日が暮れるまでにはギルド本部に到着した。
ギルド本部は地方の支部とは違い、白石造りの巨大な建物だった。3階建てではあるが、その面積は3倍、いや5倍はありそうだ。
大勢の冒険者達が出入りする扉から中に入り、本登録の受付を探す。本部だけあって受付窓口が多く、逆にどこに行って良いのか分からない。
「おい、そこの田舎者!!」
キョロキョロしているシャルルに、肩まで袖を捲り上げた、筋骨隆々の男が声を掛けてきた。どこに行っても、意味不明な洗礼があるんだな、と嘆息するシャルルに、尚もその男は絡んで来る。
「ギルド本部に、一体何の用だ!!」
面倒臭いと思いながら黙っていると、隣でパテトが答えた。
「本登録に来たんだけど?」
すると、その男はぶっきらぼうに指を差した。
「ほら、あそこのカウンターだ!!」
後で受付係から聞いた話では、あの男性は、どうやらギルドが雇ったロビー係のようだ。田舎から出てきたばかりの冒険者がよく詐欺に遭うため、その対策として強面の冒険者をロビー係として雇い、抑止力にしているとのことである。嬉しい気遣いであるはずが、なぜかパテトは残念そうな表情をしていた。
強面のロビー係に教えられた窓口に、シャルルはパテトを伴って向かう。シャルルもそうだが、パテトも本登録をしなければならない。
帝都のギルド本部ということもあり、登録窓口には列ができていた。3つの受付カウンターそれぞれに、10人程が並んでいる。シャルル達のように地方で登録した冒険者が本登録を行うこともあれば、最初からここで登録をする冒険者もいるためだ。
登録手続きは複雑で面倒なこともあり、1人当たり結構な時間を要する。冒険者になろうとする者達は往々にして気が短く、長時間並んでいる者達は相当イラついている。そのため、ほんの些細なことがきっかけで頻繁に揉め事が起きる。
「おい、今、俺の肩にぶつかっただろ?」
「はあ?知らねえよ」
「何だと、俺はこう見えてもレベルDなんだぞ?舐めてんのか、コラア!!」
「ああん?俺もレベルDだが、本登録さえすりゃあBに昇格するだけの力があるんだよ!!」
列の先頭から3番目と4番目の冒険者が、大声で掴み合いながら口論を始めた。
その光景を眺めながら、シャルルは思わず深い溜め息を吐いた。低次元な争いを見せ付けられても、何も得るものが無いばかりか、ただ鬱陶しいだけだ。
しかし、その溜め息を偶然耳にした冒険者が、今度はシャルルに近付いて来る。
「何だコラア?田舎もんの小僧が、俺様を馬鹿にするんじゃねえぞ!!」
「・・・ああ、もうウザイ」
シャルルの隣にいたパテトが、一歩前に出る。その瞬間、シャルルに絡んできた冒険者が、腹部をくの字に曲げて倒れた。パテトはその冒険者の首根っこを無造作に掴み、そのまま列の最後尾に向かって投げ飛ばした。静まり返るロビー。一緒に騒いでいた冒険者は、列に戻って真っ直ぐに前を向いた。
パテトが冒険者を撃退して以降、静かに登録手続きは進んだ。それでも、1時間以上経過してようやく2人の順番が回ってきた。
「シャルル様に、パテト様。お2人とも、本登録するということで間違いありませんね?」
自身の冒険者カードを提出したシャルルとパテトは、ほぼ同時に頷いた。
「では、今後はクエストの達成状況等により、Cまでランクアップできますので頑張って下さい」
受付担当者の説明を聞き、シャルルは違和感を覚えて聞き返す。
「2人パーティだと、Dまでしか上がらないって聞いてたんですけど?」
その問いに、今度は受付担当者が驚きの表情を見せた。
「登録は、3人パーティとなっていますけど・・・」




