緋色の騎士②
シャルルに初撃を避けられたと見るや、直ぐに態勢を立て直す。前衛の盾役と攻撃役、後衛の魔法攻撃と回復役に明確に役割分担が成されていることから、熟練度が高い連携技も予想できる。5人組みの2パーティ。余り悠長に構えていると、痛い目に遭うかも知れない。
シャルルはひとまず箱を懐に入れると、腰に佩いていたクラウジーンを抜いた。
「土の精霊に宣告す。契約に従い、万物の声を聞き分け、天へと聳える槍を放て―――岩石槍刺突!!」
後衛の女性魔法師が唱える中級呪文が完成し、シャルルの足下から無数の棘が空へと突き上げる。轟音と共に土中から出没したのは、1本が3メートル以上の巨大な岩でできた無数の槍だった。シャルルはそれを飛び上がってかわし、空中から相手の位置を確認する。その時、魔法師と並ぶ後衛の弓士と目が合った。瞬時に飛来する複数の矢を剣で薙ぎ払い、着地と同時に彼らとの間合いを詰める。遠やはり、距離攻撃は厄介だ。
しかし、相手もそれを予想していたかのように、盾役の重戦士が高さ2メートル以も上ある戦盾を全面に押し出して突撃して来た。それをサイドステップで避けたシャルルは、擦れ違い様に後頭部に手刀を落とす。鈍い音と共に、その勢いのまま重戦士が前のめりに倒れた。
「まずは、1人」
その一言を境に、襲撃者の攻撃が一層苛烈になっていく。それは、シャルルの実力を認めたからである。
僧侶系の魔法師が唱える強防御法が全員に飛び、9人の身体が淡い緑色に発光する。更に、もう1人の魔法師が、攻撃強化の魔法を唱えた。防御力アップ、攻撃力アップ、瞬発力アップ、魔力アップ。既に、A級以上の魔物と対等に戦えるレベルである。
しかし、それでもシャルルは、全員に指示を飛ばしていたリーダー格の男が放つ斬撃を軽々と打ち払い、後衛で魔力を練っていた魔法師の眼前に神足を活かして移動した。悲鳴を上げる間も与えず、回復と強化魔法を担当していた魔法師を沈黙させる。
突然後方に出現したシャルルに驚愕したものの、襲撃者達は大崩れすることなく態勢を整えていく。それを援護するように、後衛として弓を構えていた女性が特殊魔法である遅延魔法の呪文を唱えた。遅延魔脳は呪い系の魔法であり、一定時間相手の行動や思考速度を低下させることができる。
「―――ディスペル」
シャルルがそう口にした瞬間、遅延魔法は呆気なく消滅した。
目を見開いたまま硬直する弓士。その弓士を目掛け、シャルルは左手に握っていた小石を投げ付ける。その石は空間に斜線を描き、弓士の眉間を打ち抜いて跳ね返った。
「あと、7人」
そう呟きながら、前衛の大盾を構える戦士に向かってシャルルは走る。
回復役の魔法師と遠距離攻撃担当の弓士を倒し、邪魔な攻撃と回復を止めた。後は、少しずつ前衛を削っていけば良い。魔法で一掃しても良いのだが、相手が誰か分からない以上それはできない。
盾の真正面に立ち、戦士の体当たりを片手で受け止め、その戦士を飛び越えて剣を振り被る剣士を、逆に剣で弾き返す。上に注意を逸らしている隙に、足元を狙って来た盗賊系職種の少女は踏み付け、そのまま頭を蹴り飛ばして意識を刈り取った。そして、クラウジーンで盾を真っ二つにし、呆然とする戦士の脇腹を殴り、続け様に剣の柄で顔面を殴打して昏倒させる。
更に、回復魔法の呪文詠唱を耳にしたシャルルは、無詠唱で雷撃の魔法を放った。戦闘を長引かせる要因は、早々に断ち切っておくべきだ。
「―――雷撃!!」
刹那、天空からの落雷が僧侶系職種の少女を打ち抜いた。活動を停止させることが目的であり、威力を落としてあるため死ぬことはないはずだ。
その、回復役を叩くだけのつもりで放った雷撃の魔法が、思わぬ効果を生んだ。残り4人となった襲撃者達が、動けなくなったのだ。シャルルが簡単に放った雷撃は、雷系初級魔法である電撃の上位、中級魔法である。中級魔法を無詠唱で放つなど、常識的に有り得ないことだったのだ。
それでも、襲撃者は全員で顔を突き合わせた後、一斉に攻撃に転じた。
姿勢を低くした剣士が地を這うように疾駆し、弓士が魔法を帯びた矢を乱れ撃ちする。矢は火を纏って殺到するが、シャルルは剣を一閃してそれを無効化。迫り来る剣士に、そのまま剣を振り下ろす。砂埃が舞い上がり、地に伏す剣士。それを確認することもせず、シャルルは呪文を詠唱している魔法師に向かって瞬動を使った。幻のように姿を消したシャルルを捕捉できるはずもなく、次の瞬間には魔法師は身体をくの字にして倒れた。
残るは剣士と短剣を握り締める斥候役のみ。どう考えても勝てる見込みはないが、襲撃者は逃亡することはせず、玉砕覚悟でシャルルに向かって剣を振るう。しかし、そんな攻撃が通用するはずもなく、シャルルの剣によって2人は同時に地面に転がった。
10人の襲撃者達は、完全に意識を奪われ周囲に転がっている。その現場へと、更に猛スピードで近付いて来る一団がシャルルの目に写った。




