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緋色の騎士①

 エレタルを出発したシャルル達は、ようやく帝都クレタが見える場所に到達した。


 アルムス帝国の帝都であるクレタは、都市の周囲をグルリと防壁で取り囲んだ城塞都市である。都市全てが強大な城の役割を果たしており、南には大河、北には絶壁の丘陵がある天然の要塞となっていた。最北にそびえる王城は堅固で、その麓には複雑な通路が迷路のように走っている。

 人口は約10万人。世界有数の巨大都市でもある。そのため商人も多く大河を利用した水上輸送も盛んであり、兵は強く民は富んでいるのだ。


 シャルルの目にクレタの防壁が見え始める。東西南北の位置に立つ高い塔が4棟、都市の中央には更に高い塔が建っている。それにしても―――

「綺麗な街ですね。城壁に使用されている石は白色で統一され、門の前を流れる川がキラキラと太陽の光を反射して、まるで夢の国に来たようです」

 思わず口を開いた乗客に、別の乗客が同意する。

「そうですねえ。とても300年前に、壊滅したとは思えませんね、本当に・・・」


 乗客の会話を聞き流していたシャルルであったが、気になる内容を耳にしたため口を挟んだ。

「すいません、今の300年前に壊滅したとは、どういう意味なんですか?」


 突然会話に割り込んだシャルルに嫌な顔一つ見せず、その乗客が説明する。

「300年前、復活した魔王によって、クレタは一度滅ぼされたんですよ。王家や住民の手によって復興されましたが、それはもう悲惨な状態だったそうです」


 そして、別の乗客が更に言葉を重ねる。

「その時に犠牲になった人々の鎮魂のために、東西南北4つの塔と、中央の巨大な塔が建立されたそうです」

 その言葉を聞き、シャルルは街に建つ合計5棟の建物に視線を送った。


 その時だった。塔を眺めるシャルルの目に、クレタ方面から飛翔して来る物体が写った。それは徐々に大きくなり、5匹が編隊を組んで飛行するワイバーンだと判明する。山岳地帯で遭遇した盗賊を思い出したシャルルは、電撃の魔法を練り待機させた。もし、馬鹿にして通り過ぎようとした場合は、撃ち落としてしまおうと思ったのだ。


 ワイバーンの背に、各々人間の姿が見える。そして、シャルル達の上空を下卑た言葉と共に、嘲笑しながら通過―――――できなかった。晴天にも関わらず突如として雷鳴が轟き、5本の稲妻が的確にワイバーンを狙って降り注いだからだ。


 稲光の雷鳴の後、全てのワイバーンが地上に落下していた。


 突然の落雷に驚いた乗客達は、頭を抱えて蹲る。そんな中、シャルルは駅馬車の外へと飛び出した。馬鹿にされたから、腹いせに撃ち落とした訳ではない。乗っている者の腕に、チラリと牙鼠の刺青が見えたからだ。

 牙鼠の刺青は、闇ギルドであるデスマに連なる者の証である。そして、その中でも移動手段にワイバーンを使用しているのは、盗賊団ラスカの瞳だけなのだ。その一味が昼間から大都市から逃亡を図っているということは、何らかの仕事を終えたからに違いない。


 シャルルは先頭を飛んでいたワイバーンに近付くと、うつ伏せに倒れている男に剣を突き付ける。

 「おい」と声を掛けるが、何の反応もない。どうやら、不意打ちの雷撃により、意識を失っているようだ。当たり前に考えると、ワイバーンが麻痺するほどの雷撃を、生身の人間が耐えられるはずはない。


 盗賊団に剣を向けて立つシャルルの方に、馬を駆る者達がクレタ方面から向かって来た。ラスカの瞳に何かを盗まれた、その関係者に違いない。盗賊の後始末などという面倒事が回避できそうで、シャルルはホッと胸を撫で下ろす。


 その時、ふと視線を落としたシャルルが、足元で失神する男が手にしている小箱に気付く。その箱は金色に輝く豪奢な造形で、一見して中に入っている何かが特別な物だと分かった。


 とりあえず取り返しておこうと、シャルルがその小箱を手にした時だった。馬の蹄の音が止まり、すぐ近くで馬が嘶いた。

「おい、お前!!それを返せ!!」

「それは、お前等如きが触れて良い物ではない!!」

「は?い、いや、僕は別に―――」

「問答無用だ!!」


 状況が飲み込めないまま、シャルルは盗賊を追ってきた者達に斬り掛かられた。問答無用ということは、こちらの言い分は聞かないという意味だ。その言葉の通り、真剣を抜き、必殺の覚悟で剣うを振ってくる。


「な、何これ。一体、どうしてこんなことに?」

 困惑するシャルル。何がどうなっているのか分からないが、盗賊の一味だと勘違いされているのだけは理解できた。シャルル以上に状況が分からないパテトは、傍観者に徹している。シャルルが負けることは、全く想定していないのだろう。


 初撃を簡単に避けたシャルルは早々に弁解することを諦め、とりあえず全員を打ち倒すことに決める。その数、10人。恐らく、2組の冒険者パーティだろう。メンバーのバランスから、それなりの腕だということが分かった。


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