王都への帰還②
それから数十分後―――
扉がノックされ、2人の女官を従えた左大臣リシュレ・マーニが入室してきた。常に女を侍らせている小太りの男は、ダムザの父である国王アレクスウス・ユーグロード三世の腰巾着だ。
50歳はとうに過ぎているにも関わらず、脂ぎった顔を紅潮させ、女であれば誰でも見境いなく舐め回すように見入る。その態度には、さすがにダムザも嫌悪感を覚える。
しかし、無下にはできない。この男は、見事なまでの風見鶏だ。この男のダムザに接する態度で、国王の真意が透けて見える。
「ダムザ様、準備が整いましたので、どうぞ会場にお越し下さい。パーティメンバーの皆さまも、よろしくお願いします」
左大臣は俺に深々と頭を垂れ、臣下の礼をとる。これまで何度も会ったが、このような低姿勢で接してきたのは初めてだ。
これは、もう間違いない。
「よし、行くとするか!!」
ダムザは立ち上がると、廊下にまで響き渡るような号令をかける。
何もかもが、ダムザの予定通りだった。
今日の祝賀会において、貴族や高官の前で後継者に指名され、この国を我が物とする。そして、新たな勇者に魔王討伐を指示し、ダムザ本人は安全な玉座において、その結果報告だけを受け取る。
ダムザは左大臣を最後尾に従え、国王と貴族達が待つ大広間に向かう。
一度に500人以上は入れる規模の大広間に、ダムザが足を踏み入れる。すると、同時に高らかなラッパの音が鳴り響いた。即座に、そこ並んでいた子爵以上の爵位を持つ貴族達が、一斉にダムザに視線を向ける。
その視線を真正面から受け止め、堂々とした足取りで、ダムザは国王へと続く赤い絨毯を歩く。そして、国王の前方5メートルほど手前で片膝をつき、軽く頭を下げた。
「改めまして、ダムザ、ここに魔王討伐より帰還致しました!!」
その瞬間、大広間に歓声と拍手の嵐が巻き起こる。
「よくぞ、無事戻ってきてくれた。そちの武勇、功績ともに並ぶ者はいない!!」
国王の祝辞を受け、ダムザは深く頭を下げる。
「身に余る御言葉、恐悦至極。今後とも我が国のため、より一層尽力していく所存です」
「うむ」
国王は満面の笑みで顎から伸びる白髭を撫でると、顔を上げて会場全体に向かって宣言した。
「いつ何が起きるか分からぬ時代だ。朕の後継者を決め、皆に周知させておく必要があろう」
きた―――!!
ダムザは唾を飲み込み、チラリと国王の表情を盗み見る。国王は有無を言わさぬ態度で、明確に宣言した。
「後継者は、第二王子ダムザとする!!
異論は認めぬ。第一王子であるカインは、インシュプロンドの地を与え、辺境伯とする。以上だ」
ダムザは内心ほくそ笑ながら、大袈裟に驚いた振りをした後、一度上げた顔を再度深く下げた。
懸念であった、第一王子カインが向かう地は、ラストダンジョンに最も近い領地だ。
ダムザはこみ上げてくる笑いを、懸命に押し殺した。