パテト・チャタルと牢獄の泉①
カルタスを出発したシャルルは、パテトと共に駅馬車に乗っていた。
向かっている場所は、帝都クレタだ。カルタスからクレタまでは駅馬車で5日の距離であり、現在は3日目である。2日間野宿が続いたが、今夜は小さいながらも街に停車するらしい。
「たまには、美味しい肉とか、美味しい肉とか、美味しい肉が食べたい!!」
シャルルの横で口を尖らせるパテト。どうやら、干し肉には飽きているらしい。シャルルのアイテムボックスに肉は入ってはいたが、他の客も乗り合っているため取り出す訳にもいかない。アイテムボックスは、レアなスキルなのだ。知られると、色々と面倒なことに巻き込まれてしまう。
「お嬢ちゃん。今日は街に泊まるから、肉が食べられるかも知れないよ」
同じ馬車に乗っていた旅慣れた中年男性に言われ、パテトの表情が一気に明るくなる。
「野菜も食べろよ」
追加されたシャルルの言葉を聞き流し、パテトは左右に揺れながら街に到着するまで鼻歌を歌う。
日暮れ前。ようやく馬車は、今日の終着点である田舎町に到着した。街の名前はエレタル。エレタルは小さいながらも皇帝直轄の街であり、施設は整っている。
「明日の朝9時に出発しますので、その時刻までに、ここに集合して下さい。遅れた場合は置いて行きますので、お気を付け下さい」
駅馬車の御者が宣言し、一旦乗客は解散となった。宿泊する宿は自分達で探さなければならない。これは、人それぞれ懐具合が違うため、仕方のない処置なのだ。
「お肉、お肉、おにっくう!!」
食い意地が張っているパテトが、リズミカルな歩調で食事屋に向かって突き進む。余程待ち遠しかったのか、口から涎が垂れている。一番高そうなお店の扉を開け、パテトが店内に突撃する。金を支払うのはシャルルであるが、お構いなしだ。無駄にに嗅覚が鋭いため、確実に一番美味しい店を選択する。そこに、価格の概念は存在しない。
30席程はある店だが中はほぼ満席で、偶然空いた席にシャルル達は座ることができた。
「いらっしゃいませ!!」
店員の挨拶さえも耳に入らないパテトが、御品書を片手に注文を始める。
「肉料理一式。以上」
「以上じゃないだろ。野菜も食えって。それに、ご飯も」
ようやく出会えるはずの肉。しかし、その注文が受理されることはなかった。
「申し訳ございません・・・今日の肉料理は、先ほど売り切れました」
余りの出来事に呆然とするパテト。まさか、食事屋に来て、肉が売り切れているとは思いもしていなかったのだ。全機能が停止していたパテトが席から立ち上がる。
「別の店に行く!!」
もう、お腹が肉仕様になっているのか、パテトはシャルルの手を掴み、他の店へと移動しようとする。その様子を見ていた店員が、苦笑いを浮かべながらパテトに告げた。
「あのう、大変申し上げ難いんですけど、どこのお店に行っても同じだと思いますよ」
「はあ!?」
目を吊り上げたパテトが、店員を睨み付ける。
「実は、この街のギルドと飲食店が価格で揉めていまして、肉が一切納入されていないんですよ。だから、どこのお店でも肉料理はないと思います」
シャルルが声を掛けよう顔を覗き込むと、パテトが真っ白な灰になっていた。
「もう、許せない!!ここのギルド潰す!!」
物騒な言葉を吐き出しながら、野菜の煮物を掻き込むパテト。シャルルは適当に相槌を打ちながら、箸を動かす。文句を言いながらも食べ続けたいたパテトが、突然顔を上げた。
「そうか!!」
その、「良いこと思い付いちゃった」的な表情を目にしたシャルルは、猛烈な悪寒に襲われた。
「私達で獲ってくれば良いんじゃない?私達で!!」
肉食いたいのはお前だろ―――という言葉を飲み込み、シャルルは大きな溜め息を吐いた。狩りに出掛けるも何も、明日の朝にはこの街を出発するのだから肉は帝都までお預けだ。
翌朝、不機嫌なままのパテトを引き摺ってシャルルが駅馬車の待ち合わせ場所に行くと、そこには馬車の影も形も無かった。待ち合わせの時間は間近のはずだ。その証拠に、同乗していた人達もこの場に集まっている。
「皆さん、すいません」
駅馬車の御者が、そう言いながら走って来る。何かしら不測の事態が発生したことは、その表情を見ると一目瞭然だった。
「すいません。実は、車軸に大きな亀裂ができていることが分かりまして。このまま無理して走ると、途中で折れてしまう可能性が高いのです。その場合、乗客の皆さまに身の危険が・・・」
「どうすれば良いんだ?」
御者の説明を聞いていた乗客が、当然の質問をする。
「はい。別の馬車を乗り換えて頂くか、車軸の交換が済むまで待って頂くかしかありません」
その言葉に、パテトがニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「よし、狩って狩って、今夜は肉三昧よ!!」




