王都への帰還①
勇者シャルルを置き去りにした1週間後―――
王宮より迎えに来た移動用のワイバーンに乗り、ダムザ一行は王都パノマに凱旋した。魔王を討伐した訳ではないが、歴代最強と言われた前勇者ですら封印することしかできなかった魔王と闘い、そして生還した―――と信じられていたため、民衆はダムザを始めとするパーティメンバーに喝采を浴びせた。
王城に帰還すると、国王を始め、貴族の面々がダムザを出迎えた。当然と言えば当然だ。今や、ダムザは国の英雄なのである。
ダムザは、出迎えた者達の顔ぶれを確認する。しかし、第一王子であるカイン・ユーグロードの姿はどこにもない。
「ククク、俺の活躍を目の当たりにし、身を引く事を決めたのかも知れねえ。王宮に籠っていたヤツとは違い、俺は魔王と闘う強さを持ち、そして民衆の人気も絶大。もはや、勝負にもならないだろう。必ず、オヤジも俺を次期国王に推挙するはずだ」
そんなことを考えているダムザの元に、国王が歩み寄って来る。
「おお、ダムザよ、無事でなによりだ」
国王の言葉に、ダムザは片膝を付き、恭しく頭を垂れる。
「国王陛下自らのお出迎え、恐悦至極でございます」
「何を言う。我が優秀な息子を称えるために出迎えるなど、ごく当たり前のことであろう。
さあ、立て。その功績を称え、労をねぎらうための準備もしてある。まず城に入り、体を清め、そなたに相応しい衣装に着替えるが良いぞ」
「はい、ありがとうございます!!」
謙虚な姿勢を周囲に見せ、ダムザは王城の中へと入る。ダムザに倣い、残りのメンバーも続いて門を潜った。
入浴を済ませ、ダムザは今夜の主賓たる次期国王に相応しい服に着替える。そして、メンバーの控えの間として用意された部屋に入る。既にそこには、他の5名が着替えて待っていた。
「さすがダムザ様、まさに皇太子に相応しい御姿かと思います」
真っ白な生地に金の刺繍が入った服を、早速アドバンが褒め称える。ダムザは部屋の中心にあるソファーに真っ直ぐに進むと、ドカリと腰を下ろして足を組んだ。そして、室内にいる他のメンバーを見渡す。
「俺は国王になる」
そう口にすると、全員の視線がダムザに集まった。
「俺は今回のことで、間違いなく次期国王に推挙される。もしかすると、今夜、帰還祝賀パーティで発表されるかも知れない」
「それは、おかしいんじゃない?」
「あ?」
ダムザの言葉に反論したのは、イリアだった。
苦々しい表情で、ダムザはイリアを睨み付ける。
イリア・テーゼ、テーゼ公爵家の二女。次期聖女とも言われる高位の僧侶。最初は、第二夫人に―――とも思っていたが、帰還する途中、シャルルを置き去りにした事に対して意見をしてきた。「助けに戻ろう」だの「勇者は1人しかいない」だの。挙句の果てには祈りまで捧げていた。ウザイ。ウザ過ぎる。
「まだ魔王を倒した訳ではないし、私達は勇者を置き去りにしたのよ?」
「それは違うわ!!」
イリヤに反論したのは、ララだった。現在ダムザが考えている第一王妃候補、ローランド侯爵家長女の高位魔道士だ。
「悔しいけど、あのままだと私達は全滅していたわ。それなら、魔王を倒せる存在は一旦退避する必要があるでしょ。それはダムザ様であって、あの荷物持ちではないわ」
「で、でも・・・」
イリアが口を噤む。モラル的にも教会的にも、置き去りにする行為は許されない。しかし、あの場面では、誰かが暗黒土偶の注意を引き付ける必要があった。全滅しては人類が滅びる。それに、あの勇者シャルルが魔王を倒せるなど、イリアも思っていなかった。
イリアが大人しくなったところで、ダムザがニヤリと笑う。
傍から見れば、悪党の親玉のような笑みであったが、ここにそれを見咎める者はいない。
「アドバン」
「は!!」
「俺が国王になったら、お前は俺を護る近衛隊の隊長に任命してやる。俺の盾になり、槍になれ。それで良いか?」
「ははっ、ありがたき幸せ!!」
「ララ」
「はい」
「お前は俺の妃になり、子を産んでくれ」
「は、はい。喜んで!!」
「獣王、ガザドラン・ザガール」
「おう」
「お前は将軍となり、最強の軍団を作り、この世の全てを蹂躙しろ」
「おう、お任せあれ!!強い者と闘えるのであれば、先陣を切ろう!!」
「コルド・マーマイイ殿、貴殿に望みはあるか?」
コルド・マーマイイは、エルフの国ママイオ国の第三王女だ。エルフとの友好関係構築のためには、無下にできない。
「特にない。我が国がエルフの最首国として認められるのであれば、喜んで力になろう」