カルタス防衛戦②
闇夜を深紅に染める炎。火矢がゾンビの体や地面に突き刺さり、戦場がほのかに明るくなる。ゾンビの先頭は未だ討伐隊の位置までも到達しておらず、一方的な蹂躙が繰り広げられている。もう既に、300体を超えるゾンビが倒れ、燃え尽き、その体を燻らせていた。周囲には腐った魚の様な臭気と、焼け焦げた鼻を突く異臭とが混ざり合い、鼻で呼吸することさえも困難な状況だ。
前線がどれだけ討ち取ろうが、数が全く減らないゾンビ。その後方の暗闇にも、無数のアンデッドが蠢く気配がある。戦闘力では圧倒しているものの、数が違い過ぎる。魔法回復薬で補給はしているものの、魔法師達の精神力が限界に近付く。
その様子を慎重に窺っていたシュバルタスが、討伐隊に指示を出した。
「前衛部隊、1人30体がノルマだ。俺達ならば必ずできる。突撃するぞ!!」
「「「「「おおおおお―――!!」」」」」
シュバルタスの号令と共に、前衛職が各々の武器を手にしてゾンビへ向かって走り出す。
篝火が揺れ、砂埃が舞い上がる。喚声が湧き上がり、ゾンビの先頭に剣が戦斧が、そして槍が突き刺さった。
一撃で崩壊するゾンビの群れ。肉片が飛び散り、腐った黒い血が虚空に舞う。打ち伏せ、叩き付け、ゾンビの数が一気に減少する。討伐隊の足下はゾンビであった物で埋め尽くされ、時折骨が砕ける音が響く。もはや誰もが、討伐隊の勝利を疑っていない。ほぼ無傷のまま、圧倒的な力で殲滅したのだから。しかし―――
「スケルトンだ。スケルトンの群れだ!!」
誰かが叫んだ。
その言葉に続き、他の誰かが叫ぶ。
「いや、違うぞ。あれはスケルトンウォーリアーだ!!」
骸骨戦士は、骸骨の上位種だ。大きさが約1.5倍、装備も強固になり、巨体から繰り出される攻撃も骸骨の比ではない。ダンジョンの中層や、古代の遺跡に出没することがあるアンデッドである。ランクはD以上。装備品によってはCランクに判定されることがある。
骸骨戦士は、ゾンビが殲滅されると同時に、その背後から出番を待っていたかのように現れた。その数は300体以上。EやDランクの者では、1体であっても苦戦するアンデッドの大群。戦況は一瞬にして逆転する。人間よりは緩慢な動きとはいえ、ゾンビとは比較にならない速さ。
避けた骸骨戦士の剣先が、地面に深く突き刺さる。一撃でもまともに当たれば、致命傷になりかねない。
ゾンビ相手では感じなかった死への恐怖。恐怖心は判断力と反応速度を鈍らせる。一方的だった形勢は互角、或いは劣勢に変わる。遠距離から狙える弓ではダメージを与えることができず、既に魔法師の魔力は尽きている。直接攻撃でダメージを与えるしか方法はないが、骸骨戦士の数は前衛部隊の20倍。シュバルタス個人が奮闘しても、焼け石に水だ。
その時、黒い影が骸骨戦士の足下を駆け抜け、前衛部隊に襲い掛かった。
至る所から上がる悲鳴。肩口から出血し、武器を取り落とす者までいる。何事が起きたのかと周囲を見渡すと、骸骨戦士の前に、漆黒の獣が紅い目を光らせていた。
「ダークウルフ!!」
その姿を目にしたシュバルタスが思わず叫ぶ。
ダークウルフ。ゾンビウルフの上位種であり、単体でランクD以上。10匹以上の群れになると、ランクはBに跳ね上がる。通常のオオカミの約3倍という巨体にも関わらず、暗闇においても捕捉できないほどの速度で移動し、死角から襲い掛かる最強のハンターである。群れにリーダーがいる場合、統率がとれた集団戦法を駆使し相手を仕留める、厄介極まりない強敵となる。
目の前に陣取るダークウルフは20匹余り、中央に一回り大きい個体がいる。あれが群れのリーダーで間違いない。
それを見極めたシュバルタスとその仲間の戦士が、そのダークウルフに突貫する。リーダーさえ潰せば、各個撃破でどうにかなるかも知れない。しかし、シュバルタスの決意も、最後の勝算も、暗闇に響き渡る怒号により無に帰した。
地響きを起こしながら現れる巨体。それは身上げるほどの人型で、裂けた口元からは人間の匂いを嗅いで涎を垂らす。手にした自然物の武器は大木で、巨大な岩でさえも破壊する威力があった。
食屍鬼。食人鬼たる巨人のアンデッド。1体で、小規模な村ならば一晩で壊滅させる化物。それが5体。
討伐隊の足が震え、歯と歯がぶつかりガチガチと音を鳴らす。Cランクパーティのリーダーであるシュバルタスでさえ、逃げる機会を窺っていた。撤退して砦に逃げ込めば、もしかすると朝まで耐えられるかも知れない。
「撤退―――」
その声が止まる。そして、その表情が絶望に染まっていく。
「人間ドモヨ、我ガ王ハドコダ」
リッチ。高位の魔法師又は神官、僧侶が、自ら望み、或いは呪いによりアンデッドとなった者。その魔力は強大にして無比。




