表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/231

カルタス防衛戦①

 偽勇者マックスはすぐに見付かった。いつも通りの生活を続けているらしく、前回出会った飯屋で朝食の最中だった。シャルルはその席に近付くと、声を掛けた。

「ちょっと、いい?」

 マックスは一瞬たじろいだが、3人の仲間をそのままに立ち上がった。そして、そのままシャルルの後に付いて行く。店を出て人気の無い路地に入ると、マックスから話し掛けてきた。


「何の用だよ。オレ達は別に悪いことなんかして、ない、ぞ・・・」

 精一杯の虚勢は、シャルルと目を合わせた瞬間に尻すぼみになった。


「別に何かしようって訳じゃないので。1つだけ聞きたいことことあったから」

 穏やかな口調のシャルルに、再び偽物として糾弾されるものだと思っていたマックスの表情が緩む。しかし、それも次の言葉を耳にする迄だった。

「どうして、今夜のゾンビ討伐隊に参加しないの?」


 当然、昨夜カルタスの外にゾンビが群れていたことは知っている。

 今夜、ゾンビ討伐のために冒険者が集められたことも聞いている。

 しかし、それらにマックスは参加していない。街の人々を護ると言いながら、行動が伴っていない―――そう、問い詰められているのだと、マックスは受け止めた。


 その問いに、マックスは正直な思いを吐露する。

「オレの本当のレベルは13、ランクはEなんだ。参加しても足手まといになるだけだ。それに、もし無様な姿を晒そうものなら、勇者として街の人達に安寧を与えてきたことの意味が無くなってしまう。だから、敢えて参加しなかったんだ。

 ・・・別に、怖いとかそんなんじゃないんだ。街の人達には世話になったし、いつだって命懸けで闘うさ。でも、今回はCランクのパーティも参加するって言うし、オレ達はいらないから」


 負け犬の遠吠え、と言ってしまえばそれまでだが、確かにマックスの言い分にも一理ある。マックスの言う通り、Cランクのパーティを含めた50人規模の討伐隊が、ゾンビごときに負けるはずがない。そもそも、その討伐隊にシャルル達も参加していないのだから、マックスを責めるつもりはない。


 昼過ぎになると、今夜の決戦に備え、シア方面の門に堅固な柵が設置され始めた。

 どうやら、門を開け放って囮とし、そこにゾンビを集めて掃討するという作戦のようだ。危険度は高くなるが、敵を分散させることなく一掃できるため、効率的のように思う。討伐隊は門の外で、ゾンビ達を迎え撃つ構えだ。


 太陽が地平線に半分沈む時には、門に設置された柵の外には52人の冒険者達が集結していた。

 討伐隊の指揮を執るのは、Cランクパーティ灼熱の風リーダーのシュバルタス。少し長めの髪を顔の右半分に垂らした精悍な中年男性で、その落ち着いた態度から幾度も修羅場を潜り抜けてきたことが想像できる。そのメンバーも熟練者と思しき魔法師や僧侶、戦士、弓士とバランスが取れている。特に、シュバルタスが手にする剣は炎の属性を帯びた魔剣であり、パーティ名の由来になっている強力な業物だ。


「さあ、そろそろ打ち合わせ通りに配置に着いてくれ。もうじき日が暮れる」


 シュバルタスの合図と共に、冒険者達が割り当てられた場所に散っていく。外にも簡易の砦が設けられており、準備は万全だ。激戦が予想される門の前には、灼熱の風が陣取っている。シャルルとパテトは、防壁の上からその様子を眺めていた。


 そして太陽が完全に落ち、一気に周囲から色が消えていく。

 暗闇が周囲を飲み込み、アンデッド達の世界が訪れた。

 地中の亡者が、呻き声を漏らしながらゆっくりと這い出してくる。


 それから約2時間後、防壁の上で監視していた守備兵が叫んだ。

「ゾンビが来るぞ!!」


 門の前で仁王立ちしていたシュバルタスが、冒険者達を鼓舞する。

「さあ、みんな。死者よりも生者が強いということを、ゾンビ共にたっぷりと思い知らせてやるぞ!!」

「「「「「おおおおおおお―――!!」」」」」

 周囲から一斉に湧き上がる歓声。ついに、カルタス防衛線の戦いの火蓋が切って落とされた。


 地平線を埋め尽くすゾンビの群れ。生者の匂いを嗅ぎ付け、門に向かって集結してくる。その数は昨夜の比ではなく、2倍、或いは3倍に及んだ。それでも、ゾンビの動きは鈍く、その姿を確認してからでも十分に迎撃態勢が構築できた。


 射程圏内に入った瞬間、保留されていた魔法が放たれる。アンデッドに有効だとされる炎系の魔法が、雨霰とゾンビ達の頭上から襲い掛かった。ファイヤー火球ファイヤーボール。灼熱の風の魔法師は、炎のファイヤーアローを打ち込んだ。炎でできた矢を複数の敵に打ち込む中級魔法だ。


 先頭を突き進んでいたゾンビが吹き飛ぶ。しかそ、後から進んで来るゾンビは怯むことなく、ユラユラと行進を続ける。呪文を必要とする魔法は散発となるが、代わりに次々とゾンビの頭に火矢が突き刺さる。後方に控えていた弓部隊だ。次々と放物線を描く矢が、闇夜に赤い軌跡を描く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ