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偽者の勇者と魔王④

「オ、オレは、いやオレ達は、ここから5日ほど離れた場所の、レイチェルという村の出身だ。そこは寂れた貧しい村なんだ。農作物がほとんど実らない痩せた土地にも関わらず、Dランク級の魔物が徘徊する最悪の地域だった。だから、オレ達4人は、その村をどうにかできないかと、このカルタスまでやって来た。それが、もう3年ほど前だ。

 ここまで来る途中で、盗賊に襲われたり魔物に追い掛けられたりしてさ、カルタスに辿り着いた時には、もう手足の感覚もないほどだった。外から来た人間。助ける価値も無いはずのオレ達に、この街の人達は優しかった。食べ物をくれて、着る物もくれた・・・」


「それなら、どうして皆を騙すようなことをするの!?」

 珍しく長い話を聞いていたパテトが、その内容に憤然とする。パテトの勢いに気圧されながらも、マックスは話し続ける。


「だからだよ。だから、オレ達は勇者を名乗ることに決めたんだ。

 この街の人達は、本当に優しく、思い遣りに満ちている。本当に、感謝してもし切れないくらいだ。でも、ここに住む人達は、常に何かに怯えていた。何かに怯え、本当の笑顔を見せていなかったんだ。それは多分、大昔の大戦、そして300年前に魔王に襲われたことが原因なんだろう。それに、今でも時々出没するゾンビ達・・・」


 マックスは顔を上げ、その瞳に意志の力を燃え上がらせて叫ぶ。


「だから、オレが勇者になった!!この街を救う勇者に!!

 ちょうどオレには、真実の嘘というユニークスキルがあった。それを使って冒険者カードを偽装し、オレが勇者だと宣言した。

 誰も勇者なんか見たことはない。

 本物の勇者なんか、遠い地の果てで、この街の人達には関係ない魔王と戦っている。

 勇者は誰も助けてなんかいない。

 ただ、魔王と戦う宿命を持っているだけだ。

 それなら、オレがこの街を護る勇者になっても構わないだろ!!」


 マックスの言葉にシャルルは絶句した。

 確かに、誰かを護るなどという気持ちは無かったし、そんなことをしているとも思っていなかった。気付くと魔王討伐に向かっていた。宿命として―――それでも、今は、少しは皆を護りたいと思っている。そのために戦いたい、そう願っている。


「それは、ダメ」

 パテトが淡々と口にする。


「本当に災いが襲って来た時にはどうするの?

 アンタには、誰も救えない。ただ見殺しにするだけじゃない!!」


 項垂れるマックスを尻目に、パテトが歩き始める。

「もう良いわ、何かシラけちゃったし・・・」


 えええええっ!!

 思わず心の中で絶叫するシャルル。そもそも追い掛けていたのはシャルルだし、パテトは仕方なく付いて来ていただけだ。しかも、何のために勇者を名乗っていたのかを知りたかったのもシャルルだ。それなのに、勝手に反論して、勝手に面倒臭くなり、勝手に放置して歩き始めたのだ。


 今日、何度目か分からない溜め息を吐き、シャルルはパテトの後に続く。その途中で、足を止めたシャルルが、マックスに告げた。


「確かに無力かも知れないけど、その志は尊いと思いますよ。別に止めろとも言いません。それに、誰かに告げ口するなんてことも、するつもりはありませんから」


 路地から出たシャルルは、すっかり高くなった太陽を見上げて背伸びをする。

「ロドニ大戦と300年前の魔王。調べてみようかなあ」

 そう呟いた瞬間、そこに僅かな違和感を覚える。

「・・・300年前の魔王?」


「何、どうしたの?」

 振り返ったパテトに、シャルルは訊ねる。

「魔王が現れたのって、いつだった?」

 シャルルの問いに、一瞬呆気にとられた表情でパテトが固まる。そして、そんな当たり前のことを知らない者など、この世界にいるはずがない、そんな口調で答えた。

「200年前じゃん。そんなこと知らないなんて、大丈夫?」


 そうだ。前回、魔王が現れたのは200年前だ。

 しかし、確かにマックスは300年前だと言った。単なる間違いかも知れないが、そんな当たり前のことを100年も間違えるものだろうか?


 シャルルは近くの露店に行き、商品を見るふりをしながら老齢の店主に訊ねた。

「ねえオジサン。200年前の魔王って、どんな感じだったの?」

 すると、店主は笑いながらシャルルに言った。


「ハハハ、200年前じゃなくて、300年前な。

 余所から来たのかい?300年前の魔王は、怖いアンデッドだったらしい。この地域では、夜はウロウロ出歩かない方が良いぞ。今でも、ゾンビ達が徘徊しているらしいからな」


 シャルルは露天商の話しを聞いて愕然とする。

 300年前のアンデッドが魔王だと、店主は間違いなくそう言った。それが、当たり前のように。しかし、ユーグロードでは、200年前に現れた異形の魔物が魔王だと伝えられている。 この街で聞いたことが本当ならば、魔王は2体いるということになってしまう。


 シャルルは急いでギルドに向かった。

 ギルドに到着すると、シャルルはカウンターの内側にいるギルド職員に声を掛ける。


「すいません、少しお訊ねしたいことがあるんですけど」


 昼前でちょうど暇な時間帯なのか、手が空いている女性職員が近付いて来た。

「この街で、300年前の魔王について書いてある歴史書とか、詳しく知っている人とか教えて貰えますか?」

「魔王ですか・・・?」

 ギルド職員は思案顔で俯くと、暫く考えた後に答えた。

「歴史書とかは図書館にあるかも知れませんが、そんなに詳しく書いてないと思います。石板とか、古い時代の物が残っているということも聞いた記憶がありませんね。ただ・・・もしかすると、墓守なら詳しい情報を持っているかも知れません」


 シャルルの耳に、聞き慣れない単語が飛び込んで来た。

「その、墓守というのは何ですか?」


 その問いに首を傾げた職員は、もう一度シャルルを見た後で勝手に納得した。

「ああ、余所から来られた方はご存知ないですよね。墓守というのは、ロドニ大戦の最激戦地であるシアにおいて、ずっと鎮魂歌を奏でている人の名称です。

 ロドニ大戦の犠牲者は数万人と言われ、その大半がシアで亡くなりました。放置しておくと、アンデッドが発生し大変な事になりますから。現に、300年前の魔王を封印した戦いにおいて、シアはアンデッドの大群に襲撃され、1人残らず殺されてしまいました。だからこその墓守なのです」


 真剣に話を聞いていたシャルルが一応の結論を得る。

「なるほど。そのシアは魔王討伐の最前線であり、当時の記録が残っている都市だということですね?」

「そうなります。古くから墓守という職業はありましたし、もしかすると古代の石板とかもあるかも知れません」

 その説明を聞き、納得したようにシャルルは頷いた。

「分かりました。その滅んだシアという町はどこにあるんですか?」


 シャルルの問いに、ギルド職員はカウンターの上に地図を置く。そして、爽やかな営業スマイルを浮かべた。

「誰にでも分かる詳細版が金貨1枚、位置と方角がきちんと分かるレベルの地図が銀貨5枚。何となく方角と場所が分かる落書きレベルが銀貨1枚。どれにしますか?」


 シャルル悩んだ末に、3つ目の中間である銀貨5枚の地図を選択した。シャルルは、ドドラからコピーしたマッピングスキルを持っている。大雑把な場所さえ分かれば、後はスキルで補正しながら進めば良いだけだ。


 早速、地図情報を取り込み、シャルルは方角と距離を確認し始めた。


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