偽物の勇者と魔王②
「あのう、パーティ登録はしなくてよろしいんですか?」
ギルド職員の言葉に、シャルルか立ち止まる。
「えっと・・・何ですか、そのパーティ登録って」
冒険者ギルドへの登録をマリアに任せ切りであったため、シャルルはギルドの仕組みを全く知らなかった。興味すらなかったため仕方がないが、パーティ登録など初耳だった。
明らかに理解していない表情のシャルルに、ギルド職員は苦笑いしながら説明を始めた。
「パーティ登録というのは、2人以上の冒険者がグループを組み、そのパーティ単位でギルドに登録するというものです。帝都のギルド本部で行われている本登録というのは、このパーティ登録のことです。1人でも登録できないことはありませんが、ランクの上限がありますし、高ランクのクエストを受けることができません」
「えっと・・・つまり?」
パテトは既に聞いておらず、シャルルの隣で眠そうに目を擦っている。
「具体的に申し上げますと、1人だと本登録しても冒険者ランクはDが上限です。Dランクまでのクエストしか受注できませんし、Dランクの冒険者に対する優遇や特典はほぼありません。2人だとCランク、3人だとBランク、そして4人以上になると上限がなくなります。ギルド側としましては、高ランクのクエストには相応の危険がありますから、単独ではなく、それなりの人数で対応して頂きたい、ということなのです」
「なるほど・・・」
「それに、ギルドでパーティ登録をすると凄い特典があります!!
ギルドカードに付与されている魔法により、パーティメンバーの1人が獲得した経験値が・・・なんと、他のメンバーにも10分の1ずつ分配されます。これにより、効率の良いレベルアップも可能になるのです!!」
「おおっ」
それは、本当に凄い。それに、冒険者ランクの上限制限で、調査したい場所に入れないとか、求める情報が入手できないというのも問題だ。パーティメンバーを無理に増やすつもしはないが、パテトとは暫く一緒に行動することになりそうだ。
シャルルはそう考えると、隣でユラユラしているパテトに声を掛ける。
「じゃあ、パーティ登録してもらおうか?」
返事がない。よく見ると、パテトは立ったまま熟睡していた。
元々シャルルについて行こう思っていたパテトに反対する理由はなく、2人はそのままパーティ登録を済ませた。
その時―――
突然、入口のドアが荒々しく開き、そこから4人組の冒険者がロビーに入って来た。
どこからか流れてくる笛と太鼓の音をバックに、入り口で堂々と仁王立ちする男。年齢は20台半ば、金髪の髪をリーゼントに固め、目には逆三角形の色眼鏡を装着しいている。身体にジャストフィットしている服は純白で、袖に金色の紐がズラリとぶら下がりキラキラしていた。
一見、ただのチャラチャラした若者であるが、ギラギラと輝くバスターソードを背負っている。
「やあみんな、おはよう!!」
「な、何者!?」
目が覚めたパテトが大声で叫ぶが、シャルルも全く同じ気持ちだった。
しかし、その声を聞いたロビー内にいた全ての者、冒険者もギルド職員も、一斉にパテトを睨み付ける。その様子は、どこか教祖様を敬う宗教家にさえ見えた。
「勇者様、今日は何かご用ですか?」
カウンターの中から出て来たギルド職員に、勇者と呼ばれた男性が鷹揚に答える。
「いや、オレ様が処理しなければならない緊急クエストはないかと思って、確認に来ただけだ!!」
斜め上を指差しながらポーズを決める自称勇者様に、ギルド職員はペコペコ頭を下げながら返事をした。
「いえ、勇者様のお手を煩わせるようなクエストはございません。大事件が起きた際には、よろしくお願い致します」
「うむ・・・よし、次に行くぜ!!」
自称勇者様がそう口にすると、一時停止していた音楽が再び鳴り響く。よく見ると、一緒に入ってきた従者らしき者達が、笛と太鼓を鳴らしている。しかも、意外に上手い。
自称勇者様はロビー内を一瞥すると、クルリと背を向けてドアから颯爽と出て行った。
シャルルが呆然としている横で、同じように全機が能停止していたパテトが再起動する。
「あれが勇者?って、そもそも、勇者って、ユーグロードにいるはずじゃないの?何でこんな所に?いや、そもそも、かなり弱そうだったんだけど!!」
「クォラアアア!!勇者様のパーティはAランクだぞ。チビすけが勝てるはずがないだろう」
「はあ!?」
チビすけと呼ばれたパテトが、振り返って冒険者を睨み付ける。先程の一撃を見ていた男は、慌てて頭を引っ込めた。
パテトの言う通り、確かに強者の気配など微塵も感じなかった。それに、勇者は同じ時代にただ1人。その勇者は、ここにいる。
シャルルはそう思いながらも、不可思議なことに気付いた。ギルドは鑑定の魔道具を用いて、ランクや職業の判定を行っている。その判定結果は絶対で、間違えることなどまず考えられない。そうだとすると、彼は2人目の勇者ということになってしまう。




