偽物の勇者と魔王①
「ありえねえ。ターン・アンデッド1発で食屍鬼が昇天とか・・・」
冒険者達は、目の前から消失した食屍鬼に目を見開く。亡者浄化魔法は下級の浄化魔法だ。ゾンビや骸骨であれば分かるが、Cランクの魔物である食屍鬼に効果があるはずがないのだ。そもそも、ゾンビですら1体ずつしか滅せない。
「シャルルさんは神官だったんですね?」
ローランが驚いた様子でシャルルに駆け寄る。
「いえ、普通に考古学研究をしている旅人ですよ。冒険者ランクもFですし。
それよりも、年に1体と言ったのは、僕達を安心させるためだったんです?こんなに大量のアンデッドが出るとは、正直なところ驚きましたよ」
「いえいえ、毎夜こんな事件が起きていたら、とてもカルタスに住めませんよ!!少し入門が遅れただけで、アンデッドの餌食になってしまいますから」
シャルルの言葉を、大声で否定するローラン。彼の言葉が本当であれば、異常事態が発生したことになる。
その後、今更誰も眠る気になれず、開門するまでの時間を張り詰めた空気の中で過ごした。
そして、ようやく山陰から日が顔を出し、ゆっくりと門が開く。
防壁の上からも外の様子は見えていたらしく、商隊を率いるローランが衛兵に昨夜起きた出来事について説明を求められている。シャルル達に注目する者はなく、2人は簡単にカルタスの街に入ることができた。
「で、パテトはどうするんだ?」
中央通りを歩きながらシャルルが訊ねる。
もう街に到着したことではあるし、ギルドに登録してクエストを受注すれば、どうにか生きていけるはずだ。生活が安定するまでの資金と食糧は、出世払いということで貸しても構わない。
「うん、アタシの目的は強敵と戦って強くなることだから、シャルルについて行く―――って、何でそんな露骨にイヤな顔すんのよ!!」
気ままな一人旅をするつもりであるシャルルは少し躊躇する。シャルルは強くなろうとしている訳ではなく、遺跡や石版を調べているだけなのだ。勇者の宿命なのか、確かに、強敵に遭遇する確率が高いとは感じる。「ふう」と、シャルルは大きな溜め息を吐く。そもそも、パテトがこんな場所にいる理由も、元はと言えば自分にも責任があるのだろう。
「分かったよ。じゃあ、とりあえず冒険者登録をしよう。ギルドカードがないと入れない場所もあるし。えっと、ステータスボードは―――」
「あるわよ!!」
パテトが取り出したステータスボードを視認したシャルルは、マップを展開しギルドを目指して歩き始めた。
冒険者ギルドのカルタス支部は、中央通り沿いの一等地にあった。帝都へも駅馬車で5日の距離という近さもあり、地方とは違う豪華な建物だ。1階がクエストの発注や冒険者登録の受付、2階が上級者用の受付や簡易宿泊施設、そして3階がギルドの支部長室や会議室があるようだ。
シャルルが入口の扉を開けると、一部の冒険者達が視線を向ける。お約束のように、どこの街にもこの手の輩は必ずいる。早朝から御苦労様である。
シャルルとパテトが登録の受付に向かおうとしていると、ロビーのベンチに座っていた冒険者が声を掛けてきた。顔に大きな傷があり、半袖のシャツから露出している腕は筋肉が隆起している。
「おう、そこの獣人のお嬢ちゃん!!登録が済んだらオレ達とダンジョンに潜らねえかあ?そんな弱っちい小僧なんかより、Dランクのオレ達といる方が稼げるぜ!!その小僧のランクは、一体何だあ?」
シャルルは16歳。御世辞にも、冒険者らしい逞しさは感じない。しかし、そもそも強さというもの
は、筋力の強弱ではないのだが。
「Fランクですけど」
シャルルの返事を聞いた瞬間、ロビーに大爆笑が起こる。話し掛けてきた男には、別に3人の仲間もいたのだ。
「へえ、オジサン達、そんなに強いんだあ」
パテトが冒険者達の方に向かってニヤリと笑う。その表情を見たシャルルが片手で顔を隠した。
「当たり前だろ?ここじゃあランクDまでしか上げられねえが、帝都のギルドで正会員になりゃあ、間違いなくBはいくと思うぞ。いや、Aかも知れねえ・・・試しに、殴り掛かってこい。当たりゃあしねえからよ!!」
ああ、余計なことを・・・
シャルルの溜め息が漏れ、次の瞬間、轟音と同時に挑発した冒険者の頭が床板にのめり込んだ。時間が止まり、徐々に状況を把握し始めた仲間達の表情が青白く変化する。
「大したことないのね、Bランクの冒険者も」
何事もなかったかのように戻ってくるパテト。口より先に手が出るタイプだけに、挑発は命取りなのだ。それに、この冒険者がBランクなんて有り得ない。当然、Aも有り得ない。やはり、Dランクが妥当だろう。
「登録お願いします」
ステータスボードと共に新規登録の用紙を提出し、パテトの冒険者としての活動が始まる。冒険者カードに記載されている「F」の表示を見て不満そうに頬を膨らませたが、それはどうすることもできない。
冒険者カードを受け取り、退出しようとしたシャルル達に、職員が声を掛けてきた。




