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凶暴な犬とアンデッド④

「この街の門には、通用口は無いんですか?なぜか閉まる時刻も、やたらと早いですし」


 通常は城塞都市であっても、門が閉じるのは太陽が完全に沈んで1時間後とされている。それは、街の外で仕事をし、日が暮れてから帰って来る者達がいるからだ。日の入りと同時に門が閉じられる街には、通用口と呼ばれる、人ひとりが通れる小さな扉が設置されている。しかし、カルタスの門には、その様な抜け道も見当たらない。


「ああ、この街に初めて来られたんですね」

 そう言って、ローランはカルタスの歴史について話し始めた。


「カルタスは、1000年以上前の古戦場跡にあるとういうことをご存知ですか?

 現在、この地はジョルダン侯爵が治めていますが、元々ここはロドニ侯爵が支配する土地だったのです。伝え聞くところでは、このロドニ侯爵というのは、欲望に際限ない人物だったそうです。

 ある時、偶然見掛けた男爵の妻をたいそう気に入り、自分の妻にするべく交渉をしました。しかし、当然男爵はそれを拒否します。すると、それに怒ったロドニ侯爵は男爵を罠に嵌めて追い落し、その妻を手中に収めました。しかし、妻はその日の内に自害。それを知らされた男爵は血の涙を流し、ロドニ侯爵に呪いの言葉を投げ付けて姿を消したのです」


「・・・目の前にいたら殴りそう」

 パテトの言葉に苦笑するシャルル。でも、それには誰もが思わず同調してしまいそうだ。

 ローランは穏やかな表情でパテトを見た後、更に話しを続けた。


「それから暫くして、この地に異変が起きました。瘴気が濃くなり、死んだはずの人達がゾンビとして復活し始めたのです。その数は日を追うごとに増加し、ついには街の外を徘徊するゾンビの数は1万を超え、更にそれを支配するアンデットの王、エルダーリッチが出現したのです。

 エルダーリッチはゾンビやスケルトン、グールなどの軍勢を率い、ロドニ侯爵の領地を襲撃しました。数多の街や村が壊滅。それを放置することはできず、最終的にロドニ侯爵は自ら軍勢を率い、この地でエルダーリッチと対決しました」


 一息入れるローラン。食い入るように聞いていたパテトが先を急かす。

「それで、どうなったの?」


「ロドニ侯爵軍は全滅し、一族全員が虐殺されました。その後、エルダーリッチは姿を消し、アンデット達も同様にいなくなりました。この事件が起きたため、ロドニ侯爵からカルタスを引き継いだジョルダン侯爵は、厳しく門の開閉を取り締まるようになったのです」


「なるほど。つまり、今でもゾンビが出没するから、早くに門を閉じてしまうと」

 シャルルが要約すると、ローランが笑いながら答える。

「いえいえ、ゾンビなど年に1体出没するかどうかです。それこそ、他の地域と変わったものではありません。ただ、そういう家訓というか、しきたりが残っているということです。それに―――」

 そこで話しを切ると、自分の馬車の方向に視線をやる。

「あの通り、Dランクの冒険者を雇っていますので、ゾンビが何体現れようと、全く問題ありません」


 その後、暫く談笑し、夜も更けてきたところでローランは自分の馬車へと帰って行った。その後ろ姿を見送りながら、パテトが身震いする。

「スケルトンならまだしも、ゾンビとか絶対イヤよ。臭いし、手が汚れるし・・・」


 それを聞いたシャルルが苦笑いする。

「倒せるかどうかじゃなく、手が汚れるから嫌だとか有り得ないけどね。まあ、確かに、パテトの武器は素手だからなあ」

 シャルルの横で、パテトが何度もウンウンと頷く。パテトにも、ナックルや爪等の装備が必要だろう。素手で殴り飛ばすには限界がある。


 シャルルは雑木を背にし、パテトはその隣で丸くなって眠りに就いた。寝て目が覚めれば朝だ。日が昇りさえすれば門は開く。何事も起きなければ・・・



 街の外で夜を明かそうとしている人達が、深い眠りに就いた頃―――


 城壁から少し離れた地面が、ボコリと盛り上がった。その部分は更に膨らみ、やがて、そこから手が突き出す。それも、1本や2本ではない。数十本の手が一斉に生えた(・・・)。その手は地表を掴み、地中から何かを引き摺り出す。地面に食い込む指が、ズルズルと人間の形をした何かを地表に出現させた。

 鼻を刺す腐臭と、腐った肉片が辺りに散乱する。半分朽ちた顔に残る眼球が城壁を睨み付ける。そして、フラフラと前後左右に揺れながら、全員が街に向かって歩き始めた。その数20体以上。最後尾には巨大な影が見える。


 いち早く異変に気付いたのはパテトだった。ほぼ同時にシャルルも目を覚ます。パテトは鼻を摘み、露骨に嫌な表情をする。

「だから、ゾンビはイヤだって言ったのに!!」


 気配がする方向に目を凝らし、シャルルは状況を確認する。

 ローランが年に1体と言っていたが、これは10体、もしかするとそれ以上いるかも知れない。それに、ゾンビを追うようにして向かってくる巨体は全く違う種類だ。


 ようやく護衛達も異変に気付き、馬車から飛び出して暗闇を睨んだ。


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