鍛冶職人の矜持③
「鉱山師ってのはなあ・・・」
その前振りから、サブロの話しは始まった。
「巨大な山の中から、求める鉱石を探すのが仕事だ。鉱石なんて物は、山全体から考えれば、ほんの米粒みたいなもんだ。探さなければ見付からない。そこにあるのが分かっていても、分かっているだけでは意味がない。探して、掘り出して、その中から鉱石を見付け出さなければならない」
「―――そして、それをワシらが引き継ぐ」
背後から野太い声が聞こえ、タタラ師のトップであるグヤマンが参加してきた。
「掘り出された鉱石を引き継ぎ、不純物を取り除き、精製し、本来の姿に、本当の性能を引き出すことができる玉鋼を作らなければ、本物の刀は作れない」
ワシも200年前に勇者に出会った1人だ。そう言って、グヤマンは続ける。
「人間も同じだ。幾千、幾万の人々の中から、勇者は生まれる。しかし、ただそこに存在しているだけだ。勘違いしてはいけない。勇者という存在は勝手に育つものではない。身体を鍛え、技を練り、心を磨く。人々の思いを知り、それを受け止める。その先に、本当の勇者が誕生するのだ。
・・・まあ、これは、当時の勇者が語った言葉だがな」
苦笑いしながら、グヤマンはガナナの手にしていた酒瓶を奪って自分の湯呑に注ぐ。目の前で酒瓶が空になり、ガナナが渋い表情をした。
「ま、まあ、ワシらはもう250歳を超えとるからな。無駄に経験と聞いた話だけはここにある」
自分のこめかみを指差しながら、もう片方の手を伸ばして新たな酒瓶を確保するガナナ。
「そうしてできた玉鋼を鍛錬し、一振りの刀を形成していく。その素材を殺さないように、限界まで性能を引き出すために、最も適した形に、最高の切れ味を発揮する刀を・・・な。
オメエさんは、ちょうどここ辺りだな。別に、勇者が世界を救わなきゃならねえ、とは思わねえよ。そんな決まりも、義務もねえしな。ただ、最終的な結論を出すには、まだ早い。オメエさんは、まだ何も知らねえし、何の努力もしてねえ。まだ素材のままだ。熱くはなってきたが、鍛錬されてねえ。
・・・そうだなあ、ワシにはな、ただ拗ねてるガキにしか思えねえんだよ」
愕然とするシャルル。図星を突かれて息もできない。
「悪いな、加減てものが分かんなくてよ」
ガナナは眉尻を下げ、固まるシャルルから視線を逸らして杯を呷った。
そんなバツが悪そうなガナナからバトンを投げ渡されたのは、研師トップのナイジェルだった。
「刀鍛冶の手を離れても、剣はそこで完成ではない。より切れ味を増すため、より光輝かせるために研がなければならない。研ぐといっても、ただ砥石の上を滑らせれば良いという訳ではない。表裏が均一になるように、使い手が扱いやすくなるように、バランスを整え、角度を見極め、均等に力を加える。それが終わって、初めて剣本体は完成する。
君に何があったのかは知らない。聞こうとも思わない。だが、君が望もうが望むまいが、時代に必要とされる者であれば、必ず大切な出会いがある。ドドラが偶然、君に出会ったようにね。そして、出会いに磨かれ、磨かれた先で更に出会いがあり、出会いによって経験を重ね、光り輝いていく。
もし君が、また空を見上げて歩くつもりなら、諦めるな。投げ出すな。君が求めるものは、その向こう側にしかない」
最後に力こぶを作り、マッスルポーズをするナイジェル。それさえしなければ、シャルルは尊敬したかも知れない。
自分の力こぶを眺めてニヤニヤしているナイジェルを横に移動させ、鞘師の頂点であるギンシがその場所に座った。吐く息が異常に酒臭い。小脇に酒樽を抱えている。
「年寄りは話が長くていけねえな。まあ、ワシも235歳だから他人のことは言えねえがなあ」
鼻の頭を真っ赤にし、既に半眼になっている。大丈夫なのだろうか。
しかし、シャルルの心配を余所に、その酒臭い口を開く。
「さあ、剣は完成した。どんな物も切れ、どんなに使っても折れない。どんな魔法もはね返し、決して曇る事がない―――だが、そんな剣は危なくて持ち歩けねえだろ?
だから、剣には鞘が必要だ。鋭い剣ほど、威力が高い剣ほど鞘が重要になってくる。分かるか?完成された剣ほど、抜き身のままだと周囲を傷付ける。巻き込んでしまう。だから、自分の意志で抜けるようにするためにも鞘が必要なんだ。
当然、人間もそうだ。どんなに身体を鍛え、魔法を覚え、力と魔力を高めても、肝心の器が大きくなければ収まらねえ。器の無い力は、世界を滅ぼしかねない。だからよ、小僧、オマエは心を磨け。世界をもっと大きな目で見ろ。何が大切なのか、しっかりと自分自身で考えろ。鞘を持て・・・大きな・・・・・ぐう」
寝たようだ。
折角の良い話しが、台無しだ。
酒樽を抱え、酒瓶を枕にして眠る親方衆。
この国のトップが、わざわざシャルルのために集まってくれたのだ。光を追い求めるシャルルのために・・・




