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鍛冶職人の矜持①

 眼前で繰り広げられる最後の戦い。

 既に満身創痍のドドラと、精霊たるウィル・オ・ウィスプ。当然のように戦況は一方的な展開となっていた。


 高温の炎を纏い、具現化させた燃え盛る鎚で攻撃を加えるウィル・オ・ウィスプ。それを鎚鉾で懸命に受け止めるドドラ。しかし、すぐに膝がガクガクと震え、鎚鉾が地面を離れなくなり、次々に傷を増やしていく。元々、ドドラは限界だったのだ。いつ気力が尽きても不思議ではなかった。


 そして、これまでで最も巨大化させた鎚を、ウィル・オ・ウィスプが振り上げた。


「汝に問う―――何のために、ここに来たのだ?」


 突然の問いに驚きながらも、ドドラはその胸の内で滾らせていた思いを吐き出す。

「聖光の鎚を引き継ぐために」


「汝に問う―――それを、何に使うのか?」


 ウィル・オ・ウィスプが高温の息を吹き出し、洞窟内がより一層に明るくなる。

「英雄のため、世界の平和のため、人々の幸せのために」


「汝に問う―――それを、使いこなす技はあるのか?」


 ドドラは逡巡した後、正直に頭を下げる。

「・・・今は、ありません。今は、まだ無理だと思います。しかし、いつか必ず、絶対に使いこなしてみせます!!」


「―――良かろう」


 ウィル・オ・ウィスプの纏う炎が徐々に小さくなり、やがて集束して人型となった。それは、白髪を後頭部でまとめ、鍛冶専用の分厚い前掛けをした老婆だった。その姿を目にしたドドラは、自然と片膝を突いた。その光景を目にしたシャルルにも、その人物が何者なのかすぐに分かった。


 マララ・ドウェル。聖光の鎚を作り、ここに封印したドドラの先祖。恐らく、この場所で正統な後継者が現れるまで、精霊となって待ち続けていたのだろう。


 頭を垂れるドドラの傍に歩み寄ると、マララはその頭に右手を乗せる。すると、その手がほのかに輝き始めた。

「今こそ、私のスキルを引き継ごう―――――」


 光は更に強くなり、一瞬、視界が奪われるほどの煌めきを放った。明滅する景色。徐々に回復する視界。ようやく辺りを視認できるようになった時、そこにマララの姿はなかった。


 俯いて拳を握り締めるドドラ。

 そのステータスを確認する。

 ドドラ・ドウェル : レベル22、職業 : 伝説の鍛冶職人見習い、スキル : 聖光錬成。

 度重なる戦いでレベルが上がり、マララから引き継いだスキルが増えていた。最初に見落としていたマッピングのスキルも確認した。


 ドドラは立ち上がると、最奥部にある祭壇に向かって歩き始める。そして、ついに聖光の鎚を手にした。

 聖光の鎚を握り締め、男泣きするドドラ。その光景を眺めながら、自然とシャルルも笑顔になった。


 30分余りが経過し、ようやく平静を取り戻したドドラは洞窟の外へと歩き始める。一刻も早くパルテノに帰りたいのだろう。しかし、ドドラの疲労度を考慮すれば、無理せず休息を取るべきである。ここならば魔物に襲われる危険がないため、仮眠することもできる。このまま急いで引き返したとしても、もうすぐ夜が訪れる。


 シャルルの説得もあり、ドドラは夜明けまで休息することにした。

 折角なので、祝杯を上げることにする。シャルルは背負っていた鞄の中を探すふりをして、アイテムボックスから酒瓶を取り出した。更に、干し肉も一塊。調理用の火に関しては、その辺りにいくらでもあるため困ることはない。すぐに即席の宴会場ができ上がり、持参していた鉄製のコップに酒を注いで乾杯をする。


「乾杯!!」

「おめでとうございます!!

「これは・・・何とも変わった味の酒だな?」

 それはそうだろう。回復薬入りなのだから、微妙な味わいになっているはずだ。もう試練は完走クリアしたし、手助けしても大丈夫だろう。


 2杯目となる回復薬入りの酒を飲み干すと、ドドラの瞼が閉じた。

 よほど疲れていたのだろう。全身から滲み出る血も、体力を奪い続けていたに違いない。


 ドドラが深い眠りについたことを確認すると、シャルルはその背中に手を触れて一気に登山道の入口まで転移する。まあ、背負って来たとでも言えば大丈夫だろう。


 翌朝、目を覚ましたドドラが驚愕したのは言うまでもない。しかしその後、シャルルが迫真の演技で「酔ったドドラが、シャルルが止めるのも聞かず一気に駆け下りてきた」と説明すると、なぜか素直に納得した。

 ―――いや、流石にそれは無理だから。



 回復薬が入っていた酒の効果は凄まじく、ドドラの体調は既に万全の状態に戻っていた。軽快な足取りで、パルテノに向かって歩き続ける。西門に到着した時、まだ正午にもなっていなかった。


「入るぞ」

「・・・おう」


 ドドラが門を通過しようとする。

 それに気付いた門番が、一応確認する、といった具合で顔を上げた。その瞬間、門番の表情がそのまま固まる。ドドラが手にしている、金色に光り輝く鎚を目にしたからだ。こんな光沢で金色に輝く金属など、この世界には1種類しか存在してない。


「ま、まさか、そりゃあオリハルコンか?それじゃあ、お前本当に・・・」


 硬直する門番を後にし、突き進むドドラ。評議会会館に続く中央通りに辿り着いた時には、まるで隣国の王様でも迎えるかのような大騒ぎになっていた。


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