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闇ギルド デスマの暗躍⑤

「―――――だが、それは違う!!」

 コップを持った手でダンッと強くテーブルを叩くと、フラつきながらドドラが立ち上がった。

「聖光の鎚は、火山で溶かされたりしていない。この地のどこかに、今も封印されているんだ。我が家の言い伝えではな、必ずいつか必要になる時がくるから、それまで悪意に晒されないように封印する。と、あるんだ!!」

 静かにドドラの話を聞いていたシャルルが、不意に口を開いた。ずっと、気になっていたことがあったのだ。


「それでは、今回盗まれたという鎚というのは、一体何なんですか?レプリカとか・・・」

 シャルルの質問を耳にしたドララは、身体ごと近付いて酒臭い息を吐き出した。

「そう、それだ。今回盗まれた鎚というのは、200年前に訪れた勇者のために作った聖光の鎚のレプリカだ。レプリカといっても、精霊の祈りが込められたミスリル製の逸品ではあるがな。光の力をミスリルに練り込み、光の剣を作成することができるのだ。とはいっても、親方クラスでなければ作れないがな。まあ、どちらにしても、マララが作った剣とは別物ってことになるな」


 ドワーフの最上級鍛冶師が使用しなければ意味がない物を、デスマはどうして盗んでいったのだろうか。魔王の討伐を遅らせるためなのか?

 シャルルは思考を巡らせるが、余りにも情報が足りない。


「それで、作り直すことができるんですか?」

「うむ。まあ、できるだろ。ここは何でも作るドワーフの国だからな」

 流石に、技術大国だ。世界の鍛冶職人の頂点に君臨しているだけのことはある。しかし、それでは全く盗む意味がない。シャルルの頭を、更に悩ませる。


「もしかしたら、その聖光の鎚も再現できたりは・・・」

 ドドラは酒をグビリと飲むと、毛むくじゃらの分厚い胸を張る。

「それは無理だな。鎚にするだけのオリハルコンがない。当然、剣にするだけのオリハルコンもない。そもそも、オリハルコンでしか加工できないオリハルコンを、一体どうやって鎚に加工したのかが、全く分らないからな。ガハハハ!!」


 なるほど、親鳥が先か卵が先かの迷題と同じである。

「しかも、その鎚はな、周囲に存在している単純な光ではなく、世界中の聖なる光を集める力があったと伝わっているんだ。どんなに考えても、全く仕組みが分らない。だから、ワシの一族はずっとこの鎚を探している。父親も母親も、祖父さんも祖母さんも、ずっと、ワシの一族は探し続けているんだ」


 そこまで話すとドドラは奥の部屋に行き、1枚の石版を手にして戻ってきた。

「これが、先祖の残した言葉だ。古代文字で書いてあるから、誰にも読めないがな。絶対に、何か重要なことが書いてあるはずなんだ」


 ドドラが持つ石板を目にし、シャルルの目がキラキラと輝く。紙ではなく石板ということは、1000年以上前の物である。しかも、古代文字を使っているのであれば、クルサード辺境伯の居城で見た石板と同時期の物である可能性が高い。


 シャルルは胸を躍らせながら、その場でいきなり石板を読み始めた。

「・・・我、救世の要を、彼の地に封印せん。再び、闇が光を飲み込む時、その枷は解き放たれる。真の勇者を導き、猛火の狭間を進み、灼熱の濁流の果て、その手を翳せ。さすれば、聖なる光集いて漆黒の闇を照らさん―――――か」


 ふうん、なかなか興味深い内容だ。と、1人で納得するシャルル。その真正面では、開いた口からダラダラと滝のようにドドラが酒を垂れ流している。


「シャルル・・・これが、この古代文字が読めるのか!?」

「ま、まあ、一応、伝承を調べてるので・・・」

 古代文字の解読は、国の中枢機関に諸族するエリート集団が長年に渡り研究しても全く進展がない分野だ。そもそも古代文字が発見されることが少ないのではあるが、未だに言語としての法則性が確立されていないのだ。今この場に研究者がいれば、シャルルの発言は卒倒ものである。

 ―――しかし、シャルル本人はもとより、ドドラもその辺りの事情には詳しくなかった。


「そ、そうか!!今の話を聞いた限りでは・・・いや、ほとんど聞いてなかったが、一体どういうことなんだ?簡単に説明してくれ!!」

 ドドラは石板を両手で持つと、それをシャルルにグイグイと押し付ける。

「い、痛いですって・・・つまり、用事が済んだから、聖光の鎚は隠しておくよ。だけど、また必要になる時が来るから、その時は取りに行ってね、ってことです」


「それで、その場所はどこだ?」

「猛火の狭間、灼熱の濁流って、火山のことでしょうね」

「火山か!!なるほど。ポンペイ火山は何度か調査したことがあるが、最深部まで足を運んだことはない。そうか、火山か・・・」


 しきりに頷きながらも、表情をクシャクシャに崩すドドラ。先祖が作った救世の道具。それを求め、何世代にも渡り、人生をかけて探し続けてきたドウェル一族。前も後ろも見えない暗闇に、差し込んだ希望の光に思えるのだろう。


「よし、シャルル。明日、起きたらポンペイ火山に向かうぞ!!」

「・・・え?」

「そうと決まったら、早く寝よう。そうしよう!!では、おやすみ」


 一方的に宣言すると、ドドラは自分の寝室へと駆け込んだ。

 呆然と立ち尽くすシャルル。拒否権はどこに行ったのだろうか。


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