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ラストダンジョン④

 シャルルの後方に魔方陣が浮かび上がり、そして、一瞬で他のパーティメンバーの姿が消える。


 その光景を目にしたシャルルは、瞬時にソレが何かを悟った。

 あれは多分、王家に伝わるという秘宝「脱出の水晶」。以前、ダムザが自慢するためだけに、懐から取り出したことがあった。確か、どんなダンジョンの、どんな場所にいようとも、入口まで転移できるというものだった気がする。ということは、みんな無事に脱出できたのだ。

 安堵の息を吐いたシャルルは、あることに気付く。


「え・・・・・僕は?」



 暗黒土偶が宙を舞い、シャルルに向かって回転しながら飛んでくる。それを横に跳び、どうにか躱す。しかし、避けた勢いを止めるとができず、シャルルは地面をゴロゴロと転がった。

 既に限界を迎えようとしている体力。震える足に力を込め、ゆっくりと立ち上がる。暗黒土偶はただ一人残ったシャルルを見て、小刻みに体を揺らす。おそらく、バカにして嘲っているのだろう。確かに、シャルルにはこの状況を打開する術はない。


 シャルルのレベルは19。職業は勇者とはなっているものの、レベル5の一般人とステータス的に変わらない。近衛兵が相手だと100%負ける。しかも、装備は銅の剣と革の鎧だ。初心者装備そのものだ。


 暗黒土偶がシャルルの息の根を止めようと、両手を広げて回転を始める。まるで小型の竜巻のように気流を巻き起こす土偶。部屋の壁が、ミシミシと音を立てて震える。

 シャルルには、それを受け止める力もなければ、武器もない。銅の剣を構え、暗黒土偶の突撃に合わせて、目を閉じたまま両手を突き出した。


 基本的に、勇者と呼ばれる者は運が強い。

 強いだけでは、魔王は倒せない。

 それに、良い仲間に恵まれない。

 あらゆる面で、運の要素は必要となってくる。だからこそ、勇者は常人にはない運を持っている。そして、どんな高位の魔物であろうと必ず急所が存在する。急所に攻撃が当たれば、理屈上どんな魔物であろうと、一撃で倒すことが可能だ。


 シャルルが突き出した剣の切先が、偶然にも暗黒土偶の肛門に突き刺さった。本来であれば、突き刺さるはずのない銅の剣が、根元まで沈み込む。そして、その瞬間、暗黒土偶が爆散した。


 土器の破片と化した暗黒土偶が、シャルルの周囲にガラガラと音を立てながら落ちてくる。

 99%勝てない相手に、奇跡の急所突き。死を覚悟していたシャルルは、手を伸ばしきった状態で固まっている。

 正直なところ、「死んだ」と、シャルルは思った。


 その時―――

 シャルルの懐にあるステータスボードから「ピコン」と音が響いた。これはレベルアップした時に知らせてくれる便利機能だ。レベルアップすると、どんなに疲弊していようが、全て回復してくれるという治癒魔法が発動する特典付きだ。


 全回復してひと息吐くシャルルの耳に、再びレベルアップの聞こえる。しかも立て続けに、とめどなく何度も繰り返される。ピコピコと1分以上も鳴り続け、最後に聞いたこともない盛大なファンファーレが響き渡った。文字にするならば、「パンパカパーン」になるだろうか。未知の出来事に、懐からステータスボードを取りだした。

「な、何だこれ・・・」

 銅板と変わらない色であったはずのステータスボードが、銀色に輝いている。しかも、表示されているレベルはちょうど100。しかも、職業欄に「覚醒」という文字が表記され、「真の勇者」に職業が変更されている。


 暫く呆然としていたシャルルが、ここがラストダンジョン内部だという現実を思い出し、思考を再起動させる。まず、現状の確認しなければならない。


 おそらく、有り得ないほどの幸運に恵まれ、魔王の幹部を倒したシャルルは、これまた有り得ないほどの経験値を得てレベルアップした。しかも、レベル100まで。偶然倒した暗黒土偶1体で、81もレベルアップしたことになる。しかも聞いたこともないファンファーレとともに、真の勇者に覚醒もした。最後に鳴ったということは、レベル100で、「覚醒」という現象が起きたのだろう。


 この覚醒現象というものを、未だかつて聞いたことがない。一体どういう効果があるのか、詳しいことは全く分からない。しかし、とんでもない事象だということだけは理解できる。シャルルは自分のステータスが、見るからにおかしな数値になっている事実に困惑する。


 シャルルを置き去りにしたダムザは、ユーグロード王国でも最強クラスの戦士だった。シャルルも一度、ダムザのステータスを無理矢理、見せ付けられた事がある。ステータスは・・・

 戦士 : レベル38

 体力 : 150

 物攻 : 120

 魔力 :   0

 防御 : 100

 スキル : 強化(身体能力を1段階アップさせる)

     : 威圧(周囲を威圧し怯ませることがある)

 スキルは発現していない人が大半で、2つ以上所持している者は天賦の才があると言われる。王国の戦士で最上位と言えるステータスと2つのスキル。自惚れの激しい人物だったが、それでも許されるだけのステータスだった。


 しかし―――


 シャルルは自分のステータスボードを見詰めながら、目を何度も擦る。

 真の勇者(覚醒済み) : レベル100

 体力 : 880

 物攻 : 1250

 魔力 : 1125

 防御 : 940

 スキル : 女神の加護

     : 光の祝福

     : アイテムボックス

 有り得ないステータス。誰に言っても信じてもらえないレベル。いや、置き去りにされたのだから、話す相手はいないが・・・


 何度も自分のステータスを確認した後で、シャルルは再び我に返る。

「そうだった・・・僕はこの場所に、ダムザ達に置き去りにされたんだ。普通なら、この場所で野垂れ死んでオシマイだ。でも、今のステータスなら、1人でもダンジョンを脱出できるかも知れない」


 いつもよりも数十倍も軽く感じる足で巨大な扉の前まで移動し、シャルルは精一杯の力を込めて押した。足を踏ん張ると同時に、足元の地面が細かくひび割れる。しかし、それでも扉はピクリとも動かない。

「ダメだな。これはもう、奥に進むしかない。

 もしかしたら、この先に別ルートの通路があるかも知れない。それに、ここに魔王なんかいなくて、この先に転移魔方陣があるだけかも知れない・・・くそ。一緒に連れて帰ってくれれば、こんな思いをしなくても済んだのに!!」


 シャルルは悪態をつきながら部屋の奥を確認する。

 光源と広さの関係で明確ではないが、一番奥に鈍い色を放つ扉が見える。おそらく、あれがダンジョンの最深部へと続く順路だろう。


「はあ・・・」

 ステータスは確かに上がったのかも知れない。それでも、今後のことを考えて、シャルルはゲンナリした表情を見せる。それでも奥に進まなければ、地上に帰ることができる可能性すらない。

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