表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/231

闇ギルド デスマの暗躍④

「盗まれた秘宝というのは、複製ができる物なんですか?」

 ドドラの背後からシャルルが問い掛ける。ほろ酔いのドワーフはようやくシャルルを認識し、その視線をドドラに移す。

「ああ、追跡の途中、山で会ったんで連れて来たんです。なんと、ギザから1人で来たんですよ」

「ほお、あの道をなあ。そんなに腕っぷしが強そうには見えねえが。大したもんだ」

 ドワーフは手にしていた湯呑を一気に煽り、「ぷふぁ」と酒臭い息を吐いた。

「盗まれたのは、集光の鎚だ。200年前に、勇者の剣を錬成した光を集める能力を持った鎚だな」


 勇者の剣―――200年前、魔王を封印するために戦った勇者が使用していた、と言われている剣だ。周囲の光を集め、一振りする度に閃光を放ったと伝えられている。魔王討伐後、その剣はユーグロードの王宮にある宝物殿に保管されている。


「そんな特別な鎚が、簡単に再現できるんですか!?」

 驚くシャルルに、ドワーフは手にしている湯呑に酒を注ぎながら答えた。

「小僧、ワシらは職人の最高峰だぞ。不可能なことなど何もない。ここにいる酔っぱ・・・評議会議員は、それぞれの分野の頂点トップだ。鉱山から良質の鉱石を掘り出す鉱山師、鉱物を精製するタタラ師、武器を収める鞘を作る鞘師、武器を研ぐ研師、そして刀鍛冶のワシ、稀代の名工ガナナ・バルブージ。作れない物などない!!・・・ああ、議長は酒屋の大将だ」


 ガナナ・バルブージ。シャルルは、その名を聞いたことがあった。数々の業物を製作してきた、歴史に名を刻むと言われている現在の名工である。シャルルは目の前にいる技術者達を眺め、思わず息を飲んだ。今はただの酔っ払い集団にしか見えないが、このドワーフ達には不可能はないのだろう、(たぶん)と。


「親方」

 その時、ガナナの話を聞いていたドドラが、神妙な顔で口を挟んだ。ガナナは眉根を寄せながら、視線をドドラに移す。

「今こそ、探すべきではないですか?紛い物が奪われた今だからこそ、本物を探すべきではないですか?・・・親方っ!!」


 本物?ドドラの言葉に、シャルルが首を傾げる。

「オメエは、まだそんな寝惚けたことを言っていんのか?

 そんな物はねえ。そんな物があるはずがねえんだ。もう、忘れてしまえ!!そのために、お前のオヤジも、オフクロも、ジイさんも、バアさんも、一族全員が死んじまったんじゃねえか!!」

「で、ですが!!」

「くどいぞ!!もし仮に、本当にそんな物があるなら、すぐにでもオメエを部屋持ちに格上げしてやるわ!!」


 ドドラはガナナに怒鳴り付けられると、押し黙って評議会会館を後にした。下を向いたまま歩くドドラの後を、シャルルが静かに付いていく。会館の外に出た所で横に並ぶと、ドドラが自嘲気味に口を開いた。

「ワシの一族はな、ドワーフの中では結構有名なんだ。2つの意味でな。シャルルが伝承だのを調べてるというなら、酒を飲みながら詳しく話してやろう」


 帰宅途中で酒の肴を買い、町外れにあるドドラの家に向かう。当然、シャルルは買い物途中に少しだけ抜け出し、別の街に転移して大量の酒を購入しておいた。

 ドドラの家は歴史を感じさせる石造りで、築200年、いや、実際はもっと古いのかも知れない。基本的に、雨が少ないこの地域では石造りの建築物が一番長持ちするのだ。


「さあ、入れ。で、まあ、その辺に適当に座ってくれ。すぐに、肴を並べるからな」

 肴?晩御飯ではなく、いきなり酒?

 シャルルはそうは思ったものの、郷に入れば郷に従うしかない。ドドラが肴を用意しているうちに、食卓にアイテムボックスから取り出した酒を取り出していく。戻って来たドドラが並べられた酒瓶を目にし、満面の笑みを浮かべた。


 この世界に飲酒の年齢制限などない。シャルルはドドラの相手をしながら、適度に酒を口にしていく。1時間余り経った頃、ほろ酔い気分になったドドラが少しずつ話し始めた。


「他所の者達は知らないがワシの先祖はなあ、マララ・ドウェルといって、ドワーフの世界では超有名人スーパースターなんだ。1000年以上前、当時の英雄に剣を作った伝説の刀鍛冶師なんだぞ。ワシの先祖が鍛えた剣を持って、英雄は大魔王を倒したんだ」


 かなり酔いが回っているはずにも関わらず、ドドラは目をキラキラと輝かせ饒舌になっていく。


「その時に使った鎚というのが、聖光の鎚と呼ばれる伝説の道具だ。その鎚の素材はオリハルコンで、同じオリハルコンの剣を製作するためだけに作られたと伝えられている。オリハルコンは硬過ぎて、オリハルコンでしか錬成できないんだ。真に、究極の鎚だったということだ。しかし、大魔王が討伐され世の中が平和になると、先祖であるマララ・ドウェルは、その鎚をこの地のどこかに封印した・・・とまあ、これが、我が家に代々伝わっている伝承だ。

 マララ・ドウェルと聖光の鎚の話は、ドワーフの数少ない歴史書にも載っている。しかし、その鎚がどどこに封印されたのかなど、詳しいことは何一つ伝わっていない。最も信憑性が高い説は、ポンペイ火山に投げ込んだというものだ」


 なかなか面白い話だ。

 ドドラは鼻の頭を真っ赤に染め、ユラユラと前後に揺れている。シャルルは酒瓶を握ると、ユラユラとそんなドドラの持つコップに酒を注いだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ