闇ギルド デスマの暗躍③
前方に、鉄製の塀に囲まれた街が見えてくる。周囲を岩山に囲まれた僅かな平地から、多くの白煙が立ち昇る。高さが3メートルはあろうかという巨大な鉄門は、開け放たれていた。
入口まで辿り着くと、門番のドワーフがドドラに話し掛けてきた。
「おい、ドドラ。ヤツらはどうなった。捕まえたのか?って、まあ、ワシラの足じゃ無理だわなあ・・・ガハハハ!!」
「そりゃあ、そうじゃ。ガハハハ!!」
ガハハハって、それでは何のため追っていたのだろうか。
高笑いする2人を眺めながら、シャルルは嘆息する。秘宝が盗まれた、と聞いたはずなのだが。
「それはそうと、そいつは誰だ?」
ようやく存在に気付いた門番が、シャルルのことをドドラに訊ねる。本気で忘れていたのか、まるで今気付いたかのように振り返った。
「おお、そうだった。さっき、盗人を追っている途中で出会ったんだった。えっと、名前は・・・」
「シャルル・マックールです。各地の伝承や遺跡の調査をしています。この街に古の伝承がないかと思って来ました」
「それでな、こやつ、ギザから1人で来たんだと」
シャルルの自己紹介を引き継いだドドラが一言添えると、門番が目を大きく見開いた。
「それは本当か!!あの道からここに来た者は、200年前の勇者以来だぞ。へえ、こんな小僧がなあ・・・」
感心して下から上へとシャルルを眺め回す門番。
そんなに危険なコースであれば、ギルド職員は、もっと頑張って止めるべきだ。
ドドラに続いて中に入ると、そこは正にドワーフ天国だった。目に写る者の90%以上がドワーフだ。小柄ではあるが、筋肉質分厚い身体。そして、当然のように全員が髭モジャだった。女性もいるはずだが、ほぼ見分けがつかない。ということは、男女関係なく全員が髭を蓄えているのだろう。
「ところで、えっと・・・」
「シャルルです」
「そうだった。ワシのことはドドラと呼んでくれ。それで、シャルルよ、今夜泊まる当てはあるのか?この街には時々北ルートから商人が来るくらいで観光客は来ないから、宿なんかないぞ?」
ドワーフは元々他種族との交流が盛んではない。しかし、鍛冶職人としての能力が高いことは周知の事実であり、時折、武器や防具を求めて商人が訪れる。特に、ミスリルの加工技術はドワーフにしかないため、それを目当てで訪れる冒険者や貴族が大金を持って工房を訪ねることもある。
「そうなんですか?困ったなあ・・・」
「よし、じゃあワシの家に来い」
「良いんですか?」
「ああ、ワシは独りだし、部屋は空いてるからな。それに、1人で飲むより2人の方が美味いからなあ。ガハハハ!!」
常にゴールは酒。ここまで徹底していると、逆に清々しい気分になる。
「とりあえず、報告しないといけないからな。評議会に行ってから帰るぞ」
そう言って、ドドラは街の中心に建つ三角錐の建築物へと足を向ける、そこが、昨夜襲撃されたという、評議会の会館なのだろう。
ドワーフの国ジアンダには、国王は存在しない。建国は1000年以上前だと言われているが、その記録も残っていない。ドワーフという種族は寿命が300年近く、その大半がここパルテノで一生を終える。そのため、歴史や記録といったものに無関心なのだ。それどころか、それぞれが何らかの職人であるため帰属意識も低く、全くまとまりがない。それでは国として成り立たないため、各分野の代表者で組織された評議会が合議制によって国を運営しているのだ。
三角錐の建物に到着すると、入口に評議会会館という看板が掲げられていた。玄関は襲撃されたままなのか、扉が吹き飛び、ガラスの破片が飛び散ったままになっている。気にする素振りもなく通り過ぎるドドラに続き、シャルルもその建物の中に入った。
壊れた建物の中を真っ直ぐに進んで行くと、やがて複数の声が聞こえてきた。しかも、かなり大きな声で話しをしている。突き当たりの部屋に入ると、真正面に壊された保管ケースと6人のドワーフの姿があった。
「おお、ドドラ、どうだった?」
「当然、追い付かなかっただろ?ワシらはドワーフだからのう」
「うむ、鈍足じゃあ。ガハハハハハ!!」
部屋中に酒の匂いが充満している。盗難事件が発生し秘宝を奪われたにも関わらず、完全に出来上がっている。
「姿さえ見付からなかったので、途中で引き返しましたよ」
「まあ、仕方ないのう。まあ、お前も飲めや」
恐らく、最初は善後策を話し合ってしたのだろう。そして、そのうち誰かが酒を持ち込み、宴会へと発展してしまったに違いない。こんな状態で、この評議会に国がまとめられるのだろうか。
シャルルが呆然とその光景を眺めていると、頭にタオルを巻いているドワーフが近付いて来た。そして、酒が入った湯呑を片手に持ったままドララに声を掛けた。
「まあ、盗まれたものは仕方がねえ。また、作れば良いだけのことだ。それにまあ、そんなに急いで作らなくても良いだろう」




