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闇ギルド デスマの暗躍①

 ギザの街を出発して半日―――

 シャルルの視界には、ゴツゴツとした岩肌が波打つ険しい山が連なっていた。


 ここまでの道は平坦で、出没する魔物も角ウサギ程度で何も問題はない。ギルド職員の説明の通り、ジアンダに向かう者は皆無で、誰1人としてすれ違うことはなかった。違うところがあるとすれば、誰も通らないため盗賊の類にも全く遭遇しそうにないことだ。何となく道に見える場所を、シャルルはひたすら進んで行く。


 山岳地帯に突入してからは、ゴブリンやオーク、それにオーガなどが出没した。それらを容易く排除し、シャルルは順調に険路を進む。シャルルにとっては大して困難な道ではなかったが、爪先程度しか足場がない崖を通り、勾配が50度を超える砂山を登らなければならない場所もあった。一般人であれば、もしかすると2、3度死んでいるかも知れない。


 日が沈み、足下が見えなくなった所で、進むことを断念する。急ぐ旅でもないし、リスクを犯してまで暗闇の中を移動する必要はないのだ。


 シャルルは周囲を見渡し、少し先に見える巨大な岩に向かう。その岩はまるで屋根のように迫り出し、その下がちょうど良い野営地になっていた。


 完全に太陽が山に隠れると、周囲が急激に闇に溶けていく。そして、次第に草の葉が擦れる音さえも聞こえない、重苦しいほどの静寂に包まれた。真っ黒に塗り潰された視界の中で唯一見える物は、遠くに聳える火の山だ。ポンペイ火山。目指すジアンダの首都パルテノは、その麓に位置している。だからこそ、シャルルが道に迷うことがないのだ。


 遥か昔、ポンペイ火山が大噴火し、溶岩がパルテノを飲み込んだ歴史がある。それでも、ドワーフはこの地を離れることをしなかった。それは、火山が生み出す良質の鉱物と、溶岩の熱を利用した鍛冶技術によるところが大きい。ドワーフでなければ精製できない金属があり、この地でなければ製作できない武器がある。それ故に、ドワーフ達は自尊心が高い職人揃いであり、簡単には余所者に心を開かないのだ。


 ギルド職員の説明では、ギザからパルテノまでは約3日。しかし、急いでないとはいえシャルルである。明日の夕方にはパルテノに到着しそうな勢いだ。ただし、山中深く入ると、出没する魔物のランクも変化する。ここまではE、Dランクだったが、明日はCランクくらいの魔物が出る可能性もある。


 シャルルは自分に防御盾シールドを展開すると、すぐに眠りに落ちた。通常は術者が眠ると魔力が切れるためシールドが解除されてしまうが、そんな常識はシャルルには当てはまらない。



 周囲が明るくなり始めると、自然とシャルルの目も開いた。大きな欠伸をして立ち上がると、その場で仰け反るほど背伸びをする。周囲は赤茶けた岩ばかりで、ウンザリするほど代わり映えしない。


 今日中にパルテノに着きたい。シャルルの気持ちは焦るが、まずは腹ごしらえである。食事といっても調理をする訳ではなく、ギザで購入しておいたハムサンドを、アイテムボックスから取り出すだけだ。アイテムボックスに入れているものは空間魔法により劣化しないため、いつでもどこでも入れた状態のまま食べることができた。


 食事を終えたシャルルが、顔を上げて噴煙が立ち昇るポンペイ火山の位置を確認する。火山の位置さえ見失わなければ、道に迷うことはない。


 その時、シャルルの視界に、こちらに向かって飛行する物体が写った。鳥にしては大き過ぎるし、近付いて来るスピードが余りにも速い。次第にその姿が鮮明になる。両翼3メートル以上、長い尻尾にトカゲのような頭部。ワイバーンだ。それが10匹。シャルルに向かって飛んで来る。シャルルも流石に無視できず、手頃な石を2、3個拾って身構える。最悪の場合、石を投擲して頭部を潰すのだ。


 先頭のワイバーンがシャルルを見付け、「ギャア、ギャア!!」と威嚇しながら接近する。翼の風切り音が大きくなり、影が先に、その後を追うようにして実体が頭上を通過して行った。下から見ると、ワイバーンは先頭の1匹を頂点にし、三角形になって飛行している。編隊飛行など、野生では絶対に有り得ないことだ。


 通過していくワイバーンの群れを見上げたシャルルは、その背に乗る人間の姿に気付いた。個々の背に、黒い帽子とマスクをした黒ずくめの人影が見える。そして、最後のワイバーンが通過する刹那、その腕に牙鼠の刺青を確認した。


 牙鼠の刺青は、闇ギルドであるデスマに所属している証だ。この場所ですれ違うということは、方角的にパルテノから飛んで来たと思われる。


 パルテノで何か起きたのかも知れない。

 シャルルには無関係であるとはいえ、進む足を速めた。


 岩山を登り、谷間を繋ぐ吊り橋を通り抜け、次の岩山を踏破する。その時、遥か前方の人影をシャルルは発見する。どうやら、こちらに向かって歩いているようである。どんな商人でも、単独でこの険路を通るとは思えない。もう、ポンペイ火山も目の前だ。もしかすると、パルテノに住むドワーフかも知れない。


 距離が近くなると、その姿が鮮明になる。人間の子供ほどの背丈に、筋肉質のガッチリとした体形。それに、見事なまでの髭を蓄えている―――間違いない、ドワーフだ。


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