ユーグロード王国の侵略②
ダムザが侵攻命令を下した2日後。ガザドラン率いるユーグロード王国軍は、アニノートに攻め込んだ。同盟破棄の書状を持たせた外交官の1時間後に出発し、その後を追うようにして侵入したのだ。国境警備隊を無視し、各軍事拠点を素通りして、一気に国都であるシャノマを目指した。
同盟国とはいえ、5000人もの兵士を率いての進軍に、義侠心に厚いアニノートの人達も猜疑心を抱いた。しかし、都に報告し、その指示を受けなければ、行動に移すことはできない。地方の拠点に決定権はないのだ。その急使のスピードは、ガザドランの進行速度と大差がなかった。
「国王陛下に申し上げます。ユーグロード王国が、友好同盟の破棄を宣言致しました!!
」
アニノート国の国王ダイノート・チャタルは、その一報を受け声を震わせながら確認する。
「そ、それは、本当か?我が国とユーグロードは、100年以上に渡り、友好関係を築いてきたではないか!!」
そこに、次の急使が倒れ込むようにして飛び込んで来た。
「ユーグロード王国が、我が国に宣戦布告をしてきました。将軍ガザドランが率いる兵が侵攻しています。その数5000」
「5000だと?たったそれだけの兵で、獣人の国である我が国が落とせるとでも思っているのか?
よし、すぐに迎撃の準備をし、1人残らず討ち取ってしまえ!!」
しかし、国王の指示に急使の表情が一気に曇る。
「そ、それが・・・」
その時、突然、城外から喚声が上がった。
「な、何だ。一体、何事だ!?」
「既に、ユーグロード軍は城下に侵入し、城門をこじ開けようとしています。友軍と信じ、各所の拠点、あるいは関所が、そのまま通してしまった様です」
その報告に、ダイノートは愕然とする。5000もの他国の兵士を止めもせず、都にまで侵攻を許すなど、考えられない内容だった。城内の兵士数は約500人。獣人がいくら強いといっても、人間の5倍程度である。5000人の完全武装をした兵士が相手となれば、とても持ち堪えられない。
ダイノートは決意を固め、王の間に一族の者達を集めた。
妻と次期国王のキタン・チャタル。第一王女のパテト・チャタル。その傍には、大臣と近衛兵士長の姿もある。全員が集まったことを確認すると、国王が重い口を開いた。
「知っての通り、ユーグロードが突如として裏切り、我が国に攻めてきた。おそらく、もうすぐここまで辿り着くだろう。勝ち目はない。だが、我々は決して媚びぬ!!」
アニノートの現国王ダイノート王は、レベル35に到達したライオンの獣人である。個人としての戦闘力は群を抜き、1対1で勝てる者などいない。しかし、それは体調が万全であれば、である。
すぐ近くから悲鳴が上がり、盛大な破壊音と共に怒声が轟く。ガザドランを先頭に、ユーグロード軍が城内になだれ込んできたのだ。城門は突破され、そこにいた人々は手当たり次第に蹂躙されていく。そしてついに、ダイノート王とガザドランが対峙した。
「よもや、あの時に助けた子供が、国を滅ぼす尖兵になるとはな・・・」
ガザドランを目にしたダイノート王が、纏っていたマントを脱ぎ捨てながら呟く。それを聞いたガザドランは、獣化のため既に鎧を脱ぎ去っていた。視線が激突し、火花が散る。その瞬間、ガザドランの身体がオオカミと化した。
「オレに力を与えたのはオマエであろう。力こそが全てだと、力さえあれば良いと教えたのは、オマエだろうが!!」
ダイノート王も全身に闘気を巡らせ、雄叫びを上げながらライオンへと獣化する。
爪と爪、牙と牙が交錯する。鈍い音が響き、ガザドランが壁にめり込んだ。
ダイノート王は鬣を逆立て、床に這いつくばるガザドランを見下ろす。単純なレベルであれば、ガザドランは40を超え、ダイノート王のそれを凌いでいる。しかし、獣人同士の戦闘はそれが全てではない。変身する獣が大きく影響を及ぼすのである。オオカミとライオンとでは、基礎となる戦闘力に圧倒的な差異があるのだ。
血が垂れる口元を拭いながら、ガザドランがユラリと立ち上がる。そして、足元に落ちている瓦礫をダイノート王に向かって蹴り飛ばすと、それと同時に飛び掛かった。
「くだらん・・・」
ダイノート王は容易く瓦礫を打ち払い、飛び込んで来たガザドランの顎先に獅子の豪爪を叩き込んだ。再び激しい衝撃音が響き、瓦礫が散乱する。埃が舞い散る中、ガザドランの身体は半ばまで再び壁にめり込んでいた。
「さて、トドメを刺してやろう。
指揮官さえ討ち取れば、後は烏合の衆だ。そろそろ、我が軍も集結する頃だろうしな」
ガザドランの元へと歩み寄るダイノート王。その威風堂々たる姿は、正に獣王であった。
しかし、その歩みが不意に止まる―――
「ち、父上!!」
皇太子であるキタンの悲鳴が響く。その声が消えない間にガザドランが瓦礫の中から立ち上がった。その眼前には、胸を押さえ苦悶の表情で立ち止まるダイノート王。
「フ、フハハ!!王よ、どうやら引導を渡されるのはオマエの方だなああああっ!!」




