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赤と青の分岐点⑤

 馬車に揺られること5日、シャルルは分岐の街ギザに辿り着いた。途中、魔物や盗賊の襲撃があったものの、駅馬車に雇われていた護衛によって撃退された。5日の道程を考えれば、被害は軽微であったと言える。とりあえず、この街で一泊し、情報と装備を整えることにした。


 ギザはクルサード辺境伯領とアルサート伯爵領との境界にある街であり、完全な宿場町である。特に産業はなく、中央通り(メインストリート)を始め、街中に様々な種類の宿屋と、小規模ながら歓楽街がある。


 駅馬車を降りたシャルルは、情報収集のためにギルドに向かうことにする。一番情報を持っているのは、やはりギルドなのである。ギルドは街の中心部と歓楽街の境界にあった。帝都にあるギルド本部は別だが、基本的に冒険者ギルドに登録している者達は紳士ではない。特に田舎のギルドには、腕に自信がある荒くれ者の方が多い。そのため、ギルド支部が歓楽街に隣接しているのである。


 シャルルがギルド支部の扉を開けると、中で屯していた数人の冒険者達が顔を上げる。上から下へと品定めをする視線。シャルルの薄汚れた安物のローブと腰に佩いた銅の剣を確認し、ベンチに腰を掛けていた男が立ち上がった。そして、カウンターに向かうシャルルの前に立ち塞がる。


「小僧、一体何の用だ?ここはお子様が来る場所じゃねえんだぞ?」

「一応登録はしていますし、遊びに来ているわけではありませんけど」

「へえ、そうかい。じゃあよ、ランクは何だ?俺様はDランク、この辺りじゃあ、最高位の冒険者なんだぜ!!」


 帝都から遠く離れたこの地域では、わざわざギルド本部まで出向いて本登録している者はいない。そもそも、高難易度のクエストが出ることなど皆無であり、Cランク以上のランクになる必要性もないのだ。稀に遠征中の高ランクの冒険者が立ち寄りはするが、それも年に2、3回ある程度だ。そもそも、高位の冒険者は装備品を見れば分かる。


「そうなんですか?」

 シャルルがそう答えると、男は腕を捲り上げ、力こぶを見せ付ける。

 そんな2人のやり取りを、他の冒険者達がニヤニヤしながら眺めている。

「それで、小僧のランクは何だ?」

「Fですけど」

「F、だと?」

 その瞬間、ギルド内に大爆笑が広がった。それは正面にいる男の笑い声だけではなく、ギルド内にいる他の冒険者達の声も混ざっていた。

「ガハハハハ!!まあ、いい。色々と指導してやるから、俺様に有り金全部よこせや!!」


前回はマリアがいたため何も起きなかっただけで、これが洗礼なのだとシャルルは理解した。目立つことはしたくなかったし、こんな所で騒ぎを起こす訳にもいかない。ポケットに入っている文字通りの有り金を握ると、それを男に差し出した。

「有り金です」

 大銅貨2枚と銅貨5枚。それを目にした男は、顔を真っ赤にしてシャルルの胸倉を掴んだ。

「このガキが、俺様を舐めてんのかあああ!!」

 太い腕を振り上げ、拳を握り締める。周囲の冒険者達に止める気配は見えず、むしろ喜んで観戦している状況だ。


「やれやれ」

 男の耳に微かに届く声。次の瞬間、胸倉を掴んでいた男の体が、前のめりになって倒れた。

「「「「「は?」」」」」

 その場にいた冒険者達の目が点になる。一体何が起きたのか分からず、静止したまま動けない。

「余りに興奮したので、頭に血が上ったんですかね?怖いなあ、僕も気を付けないと」

 そう言い残し、シャルルはカウンターに向かって歩き始めた。


 ギザのギルド支部は、カウンターが3つしかない小規模なものだ。一番左端の受付に行くと、シャルルは声を掛けた。ギルド職員は無法者の所業を傍観していたことが後ろめたいのか、満面の笑みを浮かべて迎えた。


「少し聞きたいことがあるんですけど・・・」

「はい、なんでしょうか?」

「パルテノに行きたいんですけど、どうすれば良いんですか?」

 パルテノとういう名を聞き、職員が驚いた。

「本気でパルテノに向かわれるつもりですか?止めておいた方が良いと思いますけど・・・」


「どうしてですか?」

 否定的な見解に、シャルルはその理由を確かめる。

「パルテノには駅馬車は出ていないので、稀に向かう商人の隊列に同行させてもらうか、単独で向かうしか方法がありません。道中は全く整備されていない山岳地帯で、高位の魔物も散見されます。せめてランクがD、安全マージンを考えるならCランクでなければ、辿り着くことは無理だと思います。失礼ですが、先程Fランクと聞こえましたので、お止めになられた方が賢明かと・・・」


「徒歩だと、何日くらいで行けますか?」

「あ、あの、話し聞いてました?」

 職員がシャルルの顔を確認するが、キョトンとした表情で見詰め返される。確かに、行くも行かないも、死ぬも生きるも、本人の意志次第だ。職員は深いため息を吐くと、質問に答えた。

「順調に進めれば、だいたい3日で到着すると思いますよ」


「3日か・・・」


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