ラストダンジョン③
―――ダムザは思案する。
ダメだ。
このままでは、間違いなく死ぬ。
部下がこの強さだとすれば、今のレベルでは魔王に勝てるはずがない。アドバンもララも、それに獣王であるガザドランさえも満身創痍だ。ここは退却するしかない。
後ろに巨大な扉が見えるが、その威容から判断すれば、打撃や魔法では絶対に壊れはしないだろう。
・・・仕方が無い。
稀少なマジックアイテムを使いたくはないが、俺が死んでは元も子もない。俺は魔王を倒し、兄を廃嫡して国王になるのだ。そのための出費は、止むを得まい。
「シャルル・・・」
「はい」
使えるものは何でも利用する。
当代の勇者はコイツ。勇者は同時期に2人存在しない。つまり、世界中をどれだけ探しても、現時点でコイツ以外の勇者は見付からない。
「オマエに重大な任務を与えてやる」
「はい?」
「これから俺は、あの暗黒土偶を倒すため、王家に伝わる禁断の呪文を使う。そのためには少しの間、あの土偶の動きを止めなければならない」
「はい」
「オマエしかいない、頼むぞ!!」
そんな禁呪があるはずがない。あるならば、既に使っている。だが、コイツにそんな理屈が分かるはずがない。コイツに暗黒土偶の注意を引き付け、そのうちダンジョンから脱出する。この脱出の結晶を使って。
「おい、みんな集まれ!!・・・シャルル以外」
ゴミを除いた6名が俺の元に集結する。
アドバンは俺の側近としてまだまだ使える。
ララの艶めかしい肢体を見て唾を飲み込む。王都広しといえど、こんな女そうはいない。必ず連れて帰り、俺の子を産ませる。次期聖女のイリヤも、当然俺の妃にする。
獣王は近衛兵をまとめさせ、俺に反抗する勢力を根絶やしにさせる。
コルドはエルフの王女だ。今後、いくらでも利用価値がある。
「・・・撤退するぞ」
そう宣言した俺の手には、銀色に輝く拳大の水晶。
「脱出の水晶だ。一度きりしか使えないが、ダンジョンの外まで退却できる王家の秘宝だ」
アイツはいらない。
勇者が死んだ場合、女神により次の勇者が選別される。実績、血筋から考えれば自ずと分かってくる。次の勇者は俺に間違いない!!
イリヤの反対を押し切り、俺は脱出の水晶を足元に投げ付ける。俺を中心に直径3メートルほどの魔方陣が浮き上がり、その範囲にいた俺達6人を真っ白な光が包み込んだ。