赤と青の分岐点②
既に興味を失くしている受付の女性に、シャルルが再度声を掛けた。
「あのお、保証人がいるんですけど」
「ええ?保証人?田舎のお爺さん、お婆さんだと、保証人になれないのよ。ねえ、知ってる?」
一体誰が面接して、この女性を採用したのだろうか。こんな態度の受付担当者を配置して、ステータスボード管理局は大丈夫なのだろうか?
他人に関心が無いシャルルも、流石に呆れてしまう。
しかし、我慢の限界にきたのか、シャルルの横に笑みを浮かべたマリアが並んだ。
「シャルル様の保証人は私ですけど、それでも、価値がない、そうおっしゃいますの?」
「はあ?」
マリアの顔を直視した瞬間、受付の女性がダラダラと滝のように汗を流し始める。そして、物凄い勢いで立ち上がると、カウンターの向こう側で見事な土下座を見せた。
「いえ、十分でございます。十分過ぎて、1万人でも10万人でも、ステータスボードを作らせて頂きます!!」
「そう。でも・・・貴女は必要ありませんわ」
次の瞬間、奥から飛び出してきた上司により、受付の女性はどこかに連れ去られた。マリアは温厚な人物であるが、身内が蔑まれることは許せないのだ。
すぐに現われた別の担当者により、ステータスボードの作成を開始した。
申請書の記入を済ませ、後はステータスの確認を残すのみとなった。しかし、そこで問題が発生する。測定結果が異常な数値を計測した場合、色々と不都合が生じる可能性があるのだ。元勇者だということが露見することだけは避けたい。
「あ、そうか」
シャルルが声を上げて頷き、それを耳にしたマリアが振り返った。
「どうか、致しましたか?」
「あ、いえ」
ステータスボードに、偽装の魔法を使用すれば良いのだ。そうすれば、ステータスを隠蔽することができる。魔力値が高い者には見抜かれる可能性があるが、ただの職員にはそんなレベルの魔法師はいないだろう。
「このオーブに、片方の手を翳して下さい」
とはいえ、シャルル自身も、自分自身のステータスを知りたかった。マリアから鑑定スキルをコピーしたが、自分自身には使用できなかったのだ。
恐る恐るシャルルが手を開き、紫色に輝くオーブに手を翳す。すると、目も眩むような光が辺り照らし、その瞬間―――
「「「え?」」」
ビシリ、と音を立て紫オーブが縦に割れた。マリアと担当者は、その場で石になった。
「オーブが割れるなんてこと、今まで一度もなかったのに・・・」
唖然とする担当者が手にしていたステータスボードを奪い取り、シャルルはその内容を確認した。
レベル 185
職業 : 真の勇者
体力 : 150000
武力 : 95000
魔力 : 120000
防御 : 115000
スキル 女神の加護、光の祝福、アイテムボックス、クリエイト、コピー、鑑定
有り得ないステータスを目にし、自分のことながら唖然とする。レベル185とか、もはや人類ですらない。200年前の勇者が魔王を封印した時に、レベルが85だと記録に残っている。それと比較しても、100も多い。スキルにしてもそうだ。女神だの光だの、聞いたこともないスキルが記載されている。正直なところ、シャルル自身にも何の効果があるのか分からなかった。
「どうなさいましたの?」
マリアに話し掛けられ、シャルルが我に返る。同時に、偽装の魔法を無詠唱で発動する。
「いえ、久し振りに自分のステータスを見たので・・・」
「見せて頂けますか?」
マリアに請われ、素直にステータスボードを手渡す。それを確認したマリアが目を見開く。虚偽したステータスには、レベル35の探究者と表示させている。スキルはコピーと鑑定のみだ。
大きく息を吐いて、マリアがステータスボードを眺めている。
「やはり、シャルル様は強かったのですね。これならば、強大な魔法が使えることにも納得できますわ」
・・・そうなのだろうか?
どこまで上手く誤魔化せたのか、シャルルには自信がなかった。しかし、マリアの反応を見て安堵する。実際には、マリアにステータスに関する知識が無いため、納得した根拠は「なんとなく」であった。
ここでシャルルは、マリアの頬が少し赤くなっていることに気付いた。戦闘後にヒールで癒したものの、それでも回復していなかったのかと、シャルルが少し不安になる。
「どこか具合でも悪いんですか?もう一度ヒールを―――」
「あ、い、いえ、大丈夫です!!何ともありませんからっ」
挙動不審なマリアがステータスボードを返却する。それを受け取ったシャルルは、首を傾げながら再度内容を確認した。そして、最後の一行に保証人の記載を見付けた。
保証人 : マリア・クルサード(婚約者)
動きが止まるシャルル。
そのことに気付いたマリアが、真っ赤な顔をして俯いた。
「あ、あの、そ、それは、続柄を書かなくてはいけなくて、その、ア、アレですわ、アレ」
言っている意味が分からない。とはいえ、マリアは銀髪の美少女である。それに、あの時の姿は尊敬にすら値した。都合上とはいえ、シャルルも嫌ではなかった。




