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赤と青の分岐点①

 街の入口である吊り橋まで辿り着くと、そこに銀髪の大男が立っていた。ギリアム・クルサード辺境伯その人だった。その姿を目にした瞬間、マリアは馬車の外に飛び出した。そして、辺境伯の前に立つと、片膝を突く。


「ダンジョン砦より、ただいま戻りました。暴走した魔物3000体を殲滅し、現在、ザンギスが秘匿していたダンジョンの捜索と、砦の復旧を急いでいま―――キャ」

「よくぞ、よくぞ無事で!!」

「お父様・・・」

 報告の途中で、辺境伯がマリアを抱き締める。辺境伯として、娘を指揮官に任命し死地に送り出したものの、本心は心配でならなかったのだ。周囲の者達は無反応を決め込んでいたが、辺境伯は号泣していた。


 ひとしきり無事を喜んだ後、マリアが報告を続ける。

「絶体絶命の中、私達を救って下さったのは、シャルル様ですわ」

 護衛として馬車に同乗していたシャルルは、突然話しを振られすぐには反応できなかった。しかし、逆に辺境伯は瞬時に鬼の形相に変化した。


「なぜ、小僧が、我が娘の馬車に同乗しておるのだ?ゆるさ―――――グエエッ」

 轟音とともに辺境伯が地面に倒れ、その背後にこん棒を振り抜いたマリアの姿があった。

「・・・失礼致しましたわ」

 慌ててこん棒を背中に隠し、可憐な微笑みを浮かべて誤魔化すマリア。すぐに高レベルの戦士である辺境伯は、後頭部をさすりながら起き上った。


「まあ、小ぞ・・・シャルル殿の活躍は見ておった。この地の領主として礼を言う。かたじけない・・・」

 そう言って、頭を下げる辺境伯。それを目にしたシャルルは慌てて口を開く。

「い、いえ、皆さんの活躍の賜物です。僕は最後に、ほんの少し助力したに過ぎません」

 返事をしながら、辺境伯の言葉に違和感を覚える。そして、その疑問を小さく声にした。

「・・・見ていた?」

 その疑問に、隣に並んだマリアが即座に答える。

「お父様には、マッピングのスキルがあるのです。実際に行ったことがあり、尚且つ、半径3キロ以内の出来事をある程度(・・・・)感知できるというレアスキルです。帝国内においても、確か5人程度しかいなかったはずですわ」

 スキルの説明を聞いたシャルルは、内心で狂喜する。

 マッピングスキル、欲しい!!


「ところで、シャルル殿。此度の働きに対し、それ相応の褒美を与えねばなるまい。マリア以外で、欲しいものがあれば申してみよ」

 当然のように、シャルルは答えた。

「クルサード辺境伯様、抱き締めても良いでしょうか?」


「抱き締める」という要求は即座に断られ、代わりの褒美を与えようということになった。しかし、シャルルは辞退した。自分にその資格はないと思っていたし、既に今回の報酬は決まっているからだ。


「それでは、お父様は先に城に帰って下さい。私とシャルル様には行く所がございますので」

「それでは、ワシもいっ―――――」

「お断り致しますわ」

 瞬時に、満面の笑みで断るマリア。ショックの余り、クルサード辺境伯は泣きながら城に帰って行った。


「ではシャルル様、今から参りましょう」

「あ、少し待って下さい」

 振り向いたマリアとシャルル自身の足下に、淡い緑色の魔法陣が浮かび上がる。続いて、シャルルがパチンと指を鳴らすと、その緑色の光が2人を包み込んだ。すると、一瞬にして全ての不浄と破損が消失し新品同様に戻った。

「な、なんですの?」

 驚くマリアに、その正体を説明する。

「レストア、復元の魔法ですよ」


 シャルルは当然のように魔法名を口にしたが、光属性の上級魔法である。

 全てのものを復元する魔法。つまり、生物以外であれば、何でも元の状態に戻すことができるという破格の魔法だ。当然、様々な制限はある。光属性の魔法を使える者は稀であり、更にその上級魔法ともなれば、帝国内にも数人しかいないだろう。


「汚れたままだと、マリアさんの品格に影響しますし、ね」

 屈託のない笑顔に、マリアは嘆息する。

 稀少な魔法を無詠唱で、しかもクリーニング代わりに使うなど有り得ない。しかし、本人には全く自覚がなく、無邪気に笑っている。・・・でも、シャルルはこれで良いのかも知れない。

「では、ステータスボード管理局に参りましょう」


 ステータスボード管理局には、規模が大きい都市には必ず支部があり、小規模の町や村には出張所がある。ここサリウには大都市である。当然、支部が存在している。

 その正面玄関を通り抜けるとロビー内を見回し、新規登録受付のカウンターに向かう。


「すいません、新規の登録がしたいんですけど」

「はあい、何か身元を確認できるものはありますか?」

 ヤル気を全く感じさせない若い女性の受付が、胡乱な目でシャルルを眺める。その視線が上から下へと動き、身なりや持ち物を確認した。

「ありません」

「あっ、そう。では無理です。ブッブー、じゃあねえ」


 ステータスボードを持てる者は全人口の3割程度であり、何らかの能力に秀でた者しか登録できない。そもそも、身分すら証明できない場合には能力測定さえされないのだ。


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