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サリウの動乱⑥

 サリウから騎兵のみで出陣するマリア。ダンジョン砦までの距離は約3キロ、馬ならば10分ほどで到着する。シャルルは騎兵隊の最後尾をダンジョン砦に向かって走った。


 夜明けが訪れる。

 遠方の山裾から朝日が差し込み、徐々に周囲が明るくなっていく。その中を全力で駆けてきたマリアは、ダンジョン砦へと到着した。周囲に魔物の姿は見えず、まだ暴走していないことにマリアは安堵した。


「砦内の人達をここに集めて下さい。私達が護衛しますので、これからサリウまで撤退します」

「そ、それでは、この砦は・・・」

「一旦、放棄します」

 マリアは到着後すぐに、砦の兵士長に指示を出す。

 しかし、それと同時に森の中から魔物の咆哮が轟いた。しかも、1つ2つではない。咆哮が重なり、まるで雷のように天を揺らした。

 それを耳にしたマリアは、慌てることなく静かに瞑目する。


「籠城に切り替えます」


 ダンジョンが溢れたのなら、もはや手遅れだ。仮に、マリアだけが逃げるのならば、魔物を振り切ることもできるだろう。しかし、馬に乗れない民はどうなるのか。馬車もない、そもそも馬が足りない。ここには、300人を超える一般の人達と冒険者がいるのだ。マリアに残された道は、籠城して徹底抗戦するのみだ。


 砦といっても、城塞都市サリウに近いため、高さが2メートルほどの板で作った貧弱な塀しかない。ダンジョン砦は、あくまでも簡易の要塞なのだ。魔物が大挙して押し寄せれば、とても持ち堪えることはできない。

 それでも、マリアは諦めない―――


「兵士。それと、戦える人は前に。

 まずは、魔術師による魔法攻撃、そして弓での遠距離攻撃を仕掛けます。合図をするので、それまで待機して下さい」

 塀に備え付けられた櫓に上り、暴走したダンジョンの方角を見詰める。


 ダンジョンから溢れだした魔物の数は、約3000体。その全てがダンジョン砦を目指していた。魔物にとって、自分達以外の生物は攻撃の対象でしかない。食料であり、遊戯の相手であり、繁殖の道具だ。それが一か所に集まっていれば、当然そちらに進む。3000体の魔物に襲撃されれば、こんな砦が蹂躙されるまでに大した時間は必要ないだろう。


 しかし、そんな中に1つだけ幸運があった。

 それは、この隠匿されていたダンジョンが、まだ発生して間もないことだ。いくら暴走したとしても、そのダンジョンのレベルより高い魔物は生まれない。つまり、大半がFかEランク。いたとしても、せいぜいDランクの魔物である。


 静寂に包まれる砦内。鎧が摺れる音さえも周囲に響き渡る。いつもなら聞こえる鳥達の鳴き声の代わりに、魔物達の咆哮が轟く。誰かが唾を飲み込んだ時、ついにその時は訪れた。

 真正面の木々が薙ぎ倒され、地割れが起きるほどの振動が砦を揺らした。終わりが確認できない数の魔物の群れが、砦から目視できる位置に姿を現す。緑の大地を埋め尽くす、灰色と茶色の魔物達。その塊が、唸り声を上げながら砦目掛けて突っ込んで来た。


「魔法用意。十分に引き付けて・・・・・放て!!」

 その中においても、マリアは冷静だった。魔物の先陣をきるゴブリンとコボルトの群れ目掛けて、保留していた魔法師達の攻撃魔法が放たれる。真っ赤な炎が、凍てつく氷が、激しい水流が魔物達に襲い掛かった。目の前の景色が一変する。燃え上がり、凍り付き、泥沼と化す大地。激しい炸裂音と砂埃が舞い上がり、魔物群れを覆い隠した。


 誰もが、やったのではないかと思った。歓声が上がった。大歓声が響いた。しかし、それは絶望へと変わる。同胞であるはずの魔物の死骸を踏み付けて足場にし、更に多くの魔物達が突撃してきたのだ。


「魔法師は次の魔法の準備を。弓隊は順次狙撃!!」

 簡単に討伐できる数ではないことを、マリアは理解していた。そもそも、砦を護ることができるとは考えていなかった。少しでも数を減らし、砦前方に魔物を引き付け、隙を見て非戦闘員をサリウに退避させるつもりだ。例え、自分がこの戦いで倒れても。


 マリアの合図とともに、矢の雨が魔物達を襲う。頭蓋を打ち抜き、胸に突き刺さり、腕を掠めるが、それでも魔物達は止まらない。元より、仲間意識などない。誰よりも先に獲物を捕まえたいだけなのだ。


「魔法!!」

 魔法攻撃の2発目。少しでも足止めできれば、少しでも数を減らすことができれば―――その願いすらも、打ち砕かれる。後方にいたゴブリンシャーマンとゴブリンウィザードが魔法盾マジックシールドで防御したのだ。


 驚愕する兵士達。しかし、動揺する間もなく、魔物達が砦に殺到する。もう距離はない。防御力を上げるための魔法が、至る所で唱えられる。攻撃力を増す魔法が、一斉に唱えられる。ついに、最前線を走ってきたゴブリンのこん棒が、砦の塀を叩いた。


 接近戦が開始される。周囲から打撃音が響き、砦の内部にゴブリンウィザード達の魔法が着弾する。怒号と悲鳴、汚泥と血しぶきが飛び散る。混戦の先は見えない。


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