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サリウの動乱④

 急速でサリウから遠ざかる馬車があった。その中で、中年男性が唸り声を漏らしていた。


「よもや、マリアが生きて帰ってくるとは。しかも、全ての魔石を回収してくるなど・・・」

「ち、父上、我々は大金持ちになって、ユーグロードで爵位持ちになるのではなかったのですか?それが、闇に紛れて逃げることになるなんて!!」

「う、うるさい!!まずは、急いで館に戻るのだ。あそこには、ワシの全財産がある。何としても、アレを持ち出さなければならぬ。できなければ、ワシの半生が水の泡だ」


 サリウからダンジョンへと続く道を、目立たない質素な馬車が激走する。

 その中にはダンジョンの管理者たる代官と、その息子が乗っていた。代官であるザンギスは頭頂部まで磨かれた頭を撫でながら、これからのことを考え続ける。


 闇ギルドから持ち掛けられた取引―――ダンジョンを攻略する冒険者から買い取る魔石を、片っ端からデスリー商会に横流しすることで巨万の富を築き、しかも、一定量の取引を実行すれば、あのユーグロード王国の男爵に推挙するというもの。

 中間管理職先が見えないザンギスは、その甘い誘惑に飛び付いた。



 ザンギスはウンザリしていた。


 もう50が近いというにも関わらず、未だにダンジョン管理の代官。何の権限もなく、これから昇進する可能性もない。だから、一か八か、このギャンブルに乗った。他の領地でも、同様に声を掛けられた者がおり、爵位は早い者勝ちだと言われた。勝算はあった。やれるはずだった。


 だが、マリアが魔石の買い取り量に疑問を抱き、すぐに調査を開始した。子供だと舐めていたが、マリアは思いのほか優秀だった。城内の者に訊ねれば、「100年に1人の天才」だという答えが返ってきた。それでも、まだ勝算はあった。アレが発見されたからだ。


 しかし、それでも、マリアが商人を装いラナク海峡を渡ったことには肝を冷やした。魔石を押えられたら元も子もない。闇ギルドから刺客を送り、念のために子飼いの兵士を宿場町にも配備した。

 それでも、マリアは生きて、しかも魔石を回収して帰ってきた。

 終わりだ。

 もう、ワシはオシマイだ。



 代官館に辿り着くと、ザンギスは有り金を袋に詰め込み逃亡する準備を始める。

 とりあえず、どこか遠く、国外に逃げなければならない。今のうちに、この暗闇に紛れて・・・


「ち、父上!!」

「何だ騒々しい。お前も早く、金目の物を集めろ。ずぐに脱出するぞ」

「それが・・・」

 カーテンの隙間から外を見ると、早くも外が騒がしくなっている。予測していたよりも、クルサード兵の行動は迅速だった。


「これまでか・・・」

 外の状況を確認したザンギスは、唇を噛み締める。

 長年クルサード領で代官をしてきたため、兵士の精強さを十分に理解していた。アルムス帝国内部の都市とは違い、他国と接触し、常に緊張感を持っているクルサード領の兵士は本物だ。その兵士達を相手にして、逃げ切れるはずがない。


「ち、父上・・・一体、どうすれば良いのですか?」

 ガクガクと足を震わせる息子に、ザンギスが冷静に告げる。

「もはや、我等にはどうすることもできぬ。このまま捕まれば国家反逆罪だ。死刑は免れないであろう・・・しかし、まだ希望はある。とにかく、館に隠していた魔石を持って隠し通路から外に逃げるのだ」

「は、はい・・・」


 本当は希望などない。どう足掻いたところで、すぐに捕まるだろう。そんなことは、ザンギスにも分かっている。そもそも、魔石を他国に横流しした自分が悪いのだ。その結果がこれであるならば、自業自得でしかない。


 しかし、追い詰められるに従い、ザンギスの思考が歪んでいく。


 ―――いや、なぜワシが追い掛けられなければならないのだ?

 なぜ、こんなにも必死で逃げなければならないのだ。帝国がワシの能力を認め、重用していれば、魔石を他国に横流しする必要などなかったのだ。

 そうだ。

 ワシは何も悪くない。ワシの能力を認めなかった、帝国が悪いのだ!!


 ザンギスは隠し通路から館の外に出ると、息子を連れてある場所に向かう。

 そこはサリウの管理ダンジョンがある場所よりも、更に西へ2キロほど離れた場所だ。そこには、ザンギス直属の兵が守る、暗くて深い穴があった。


「ザンギス様、いかがなされましたか?」

「何でもない。お前達は、ダンジョン砦に帰って休め」

 ザンギスは兵士達に指示をすると、ダンジョンの入口から中に入る。

「父上・・・」

「我が息子よ。ワシは帝国が許せぬ。ワシの能力を理解せぬクルサードを許せぬ。ワシらはここまでだが、クルサードも道連れだ!!」


 ザンギスはそう叫ぶと、持っていた袋を逆さまにして中身をばら撒く。息子もそれに倣い、手にしていた袋の中身を地面に放り投げた。


「通常、冒険者などによって倒された魔物は、一定時間経つとダンジョンに吸収される。大半の場合、その死体に魔石は残っていない。だから、ダンジョンは正常に保たれる。しかし、もし仮に、ダンジョンが大量の魔石を一気に吸収した場合はどうなるか、オマエは知っているか?」

「父上?」


 ダンジョンが大量の魔石を吸収し、壁面全体が真っ赤に光り始める。それは、ダンジョンの胎動に思えた。


「暴走するのだ―――――」



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